蝶嫁御5

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

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 すぅ、と襖の開く音がして、秀吉は反射的に目を伏せた。軽い、柔らかい衣擦れの音と共に、花嫁が上座へと渡って行く。
 ちらり、と見えた小さな足は、引きずるようにゆっくりと動く。さすがは名家の姫君である、と妙なところで感心する。
 ようやく花嫁が席へと着いた気配を察して、顔を上げた秀吉を待っていたのは、予想しない姿であった。
 花嫁の席に座っている女は、三成の上背をゆうに越す、大人の女だったからである。
 慌てて半兵衛はと見れば、こちらもぽかん、と珍しい顔をして女を見ている。半兵衛にとってもこの事態は与り知らぬことであったらしい。やけにぽん、と決めたものだから、いつの間にか、半兵衛が何もかも仕組んだ上での祝言のように、秀吉は思うようになっていたのだが、どうやら本当にその場の勢いだけで決めたようだ。弘法も筆の誤りとは、まさにこのような事態をいうのであろうな、と驚きながらも、呑気に秀吉が思った、その時である。
「まずは遅参のお詫びを申し上げますと共に、太閤閣下、軍師殿、そうして治部少輔殿に見ていただきたいものがございまする」
 とても年頃の娘が発したとは思えぬ声が、上座から響いて来たのである。
 しかし、声の衝撃は長くは続かなかった。すっ、と取り払われた綿帽子の下現れたのは、ぱさりと落ちる白い髪と、色の反転した眸、そして顔の上半分を包帯で覆った異形の娘であったからだ。
 どうしても表に見えてしまう口元だけは、厚く白粉を叩いて隠してきたらしいが、それでも目をこらせばうっすらと、肌に残る崩れ痕が認識出来た。
 この形に、この声音。病持ちか、と思い至るのに、さほど時間はかからなかった。言葉は悪いが、騙された、と思うのと同時に、どこかすとん、とこれまでの疑問が腑に落ちたのも事実である。そうか、顔が崩れるほどの病持ちならば、この歳まで貰い手がつかなかったのも納得できる。迎い役を断ったのもこの為か。半ば騙し討ちのような形ではあるが、なるほどな、と我知らず頷いていた秀吉の前で、娘はさらに言葉を続けた。
「既にお察しのこととは思いまするが、この身、幼きみぎりに病を患いまして醜く崩れておりまする。けして他人に移る病ではございませぬが、ご気分害されましたなら平にご容赦くださりませよ」
 そこまで一息に言い切ると、娘はヒヒヒと不気味な、挑戦的ともとれる笑声をもらした。
「屋形さまが行けと仰るので参りましたが、お気に障りましたら叩き出して下さって構いませぬ。元よりわれのような者には、勿体ないお話でありました故なァ」
 にやり、と歪められた唇は、まるでこちらを試しているかのようだった。

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2011/03/16

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