蝶嫁御6

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

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 次第に不穏さを帯びる空気の中、真っ先に口を開いたのは半兵衛であった。三成はといえば、呆けたように隣に座る娘の顔を見上げている。まだ11の子どもには無理もないことだ。だからこそ、親代わりである秀吉と半兵衛が、しっかりとしてやらねばならぬのだが。
「吉継くん、……だったね?」
 こほん、と一つ息を吐いて、ゆっくりと言葉を紡ぐやり方は、平生の半兵衛そのままだ。戦場であの特徴的な刀を振るうが如く、慎重に間合いを詰めていく。
「あい」
「君が心配しているのは、君が病身であるということだろうか。それとも、夫となる身のはずの三成と歳が離れすぎていることかな? ……もしそうなら、そんなことは要らぬ心配だよ。豊臣は能力ある者を尊ぶ。君が年若い三成を支えることで豊臣に貢献してくれるというなら、豊臣は君を喜んで迎え入れよう」
 病や歳は、何の障害にもならない、ねぇ、秀吉、と振り向けた半兵衛の顔は、いつも通りの笑顔であった。親友だからこそわかる、微妙な強ばりを除けば、だが。
 秀吉もまた内心では戸惑っていたものの、友がそういうつもりならば、自分もまた表にはそれをまったく出さないよう振る舞うだけだ。
「そうだ。もしお前が望むならば、我も半兵衛もお前を拒んだりはせぬ」
「……太閣閣下はまことお優しくていらっしゃる」
 豊臣の兵は幸せ者にござりまするな、と世辞ともなんともつかぬ言葉をぽつり、もらして、吉継は再び綿帽子を深くかぶり直すと、今度は初な花嫁らしくかすかにうつむいて見せたのだった。

 事件は、杯を無事酌み交わし、これにて一応は夫婦と落ち着いた頃に起こった。
 新郎新婦にあとは新郎の親代わりが二人、というごくごく身内だけで行われたつつましやかな祝言は、早くも宴へと移っていた。膳とともに酒も出され、大騒ぎ、とはいかないが、みなの表情は明るい。
 上座に座る三成は緊張した面持ちで何度も酒を口に運び、すでにほほには朱が差している。吉継といえばそこだけ見える口元は変わらず白く、ちびりちびりと舐めるように酒を口に運ぶ様からは、慣れているのが見てとれた。
 そうして見ると、二人はずいぶん似合いの夫婦のように秀吉には思えた。世慣れない三成には、もしか、このくらい歳の離れた娘の方がかえって良かったのかもしれない。
 酒が入ったことで、また半兵衛も気をよくしていたのだろうか。うっすらと笑顔を浮かべながら、満足そうに、
「しかし、まさか大友の姫と縁が持てるとはねぇ」
 吐き出した、その言葉に。
「……大友の、姫?」
 吉継が、きょとん、と首を傾げてみせたのだ。

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2011/03/19

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