蝶嫁御7

*

三吉 / 女体化 / 豊臣軍

*

 ともに理解できないという様子で、声もなく見つめ合っていた半兵衛と吉継だったが、先に目を逸らしたのは吉継の方だった。顔をそむけ、うつむき加減に首を曲げれば、もはや秀吉の方からはどんな表情をしているのかさっぱりわからない。口許に手を当てて、一瞬、泣いているのかとぎょっとした秀吉の耳を打ったのは、娘の引きつった高笑いだった。
「ヒヒッ……ヒャヒャヒャヒャヒャ!」
 この娘の変貌ぶりに驚いたのは、なにも秀吉だけではない。隣に座る三成も言葉もなく目を見開くばかりで、半兵衛は眉間に深い縦皺を刻んでいる。
「可笑しい、オカシイ。世にも名高い豊臣の軍師殿ともあろうお方が、われを大友の姫さま方と間違えなさったとは!」
 そう言って吉継はまた、ケラケラと笑う。半兵衛の眉間の皺は、ますます深くなる。
「……君の父君の名前を教えてくれないかな?」
 表面上はにこやかに、けれどももはや取り繕うことも不可能なまでに、不機嫌をあらわにした顔で、半兵衛は問うた。
 ……小娘相手にムキになるなど、天下の豊臣の軍師のすることではないと、そう己を自制する声が、秀吉には聞こえてきそうだった。
「大友家家臣、大谷吉房にござりまする」
 陪臣ゆえにご存じありませんわいなァ、とこちらもまた、表向きはにこやかに、しかしその実腹の底では何を考えているのかさっぱりわからぬ顔をして、いけしゃあしゃあと答えを返す。
 三成も大変な嫁を貰ったものだ。そう他人事のように思う秀吉は、それよりもと、不機嫌に更に油を注がれた親友をどうやってなだめようかと、そんなことを考え始めたのだった。

「一体なんなんだい、あの子はっ!」
 秀吉な自室に二人揃って帰ってきたとたんに、半兵衛は金切り声を上げた。今まで必死にこらえていたものが爆発したのだろう。常ならぬ早口で、吉継に対する不満を並べ立てる。
「あの歳で、あの見た目で、病持ちだって?! それでも大友と姻戚になるならと我慢していたのに……大谷! 大谷だって? 知ってる、秀吉!?」
 半兵衛の知らぬものを秀吉が知る訳がない。半兵衛も知っていて、それでも聞かずにはいられなかったのだろう。元から返答は期待していない様子でぷいと顔を背けると、苛々と親指の爪を噛みはじめる。
「幼君だからと甘く見ていたからって、この僕がまんまと騙されるなんて! あんまり僕をなめてると……あぁ、こうしちゃいられない! 三成にも破談だって言っ」
「半兵衛」
 今にも部屋を飛び出し、初夜を迎えているであろう新婚の寝室へと駆け込むかと思われた半兵衛を、さすがに押し留めないわけには行かなかった。
「何っ、秀吉!」
「きっかけは別にして、我には似合いの夫婦に見えたが」
 言ってやれば、半兵衛はぽかんとこちらを穴の空くほど見つめてきた。

*

2011/03/25

*

+