星夜見5

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

※蝶嫁御番外編。

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 刻々と形を変えるあざとさが、病ゆえに吉継を嘲笑する人々に似ている気がして嫌いだった。疎むくせに、わざわざ吉継の姿を目に入れようとする。当人を前にしては殊更慰めの言葉を口にするくせに、障子のすぐ向こうでは侮り嘲る。雲に隠れてもぼんやりと、月の光が漏れるように、彼らの声は耳に届いた。
 星にはそれほどの輝きはない。形も変えず、位置も動かぬ。動いて見えるのは、吉継の立つ、この大地が動いているからなのだと、故郷にいた頃、南蛮の書物で読んだ。だから、吉継はこの大地に足をつけて生きる生き物を信じはしない。
「そうか」
 また、こくりと頷いて、三成は顔を空に向けた。空には満ち始めた月がぽっかり浮かんでいた。
「次の新月はいつだ」
「そうよなァ、ちょうど七夕の頃であろ」
 適当に答えただけだ。今宵の月が立待であるから、それぐらいだろうと、当たりをつけて答えただけだ。
「七夕か」
 だのに、生真面目な夫は神妙にうなずいて、
「なら、七夕は二人で星を見るぞ」
 そう、言ったのだった。

「あの子、無事に城に着けたかなあ。ねぇ、秀吉」
「三成の足なら心配あるまい」
 相変わらずうろうろと落ち着きのない軍師をなだめ、床几に座らせる。戦ではどれだけ大軍が押し寄せようと、余裕の笑みさえ浮かべて見せるというのに、それ以外のことはまるで心配性なのである。
 兵には見せられぬな、と天を仰いだ秀吉は、まだ日暮れまで間のある空に、うっすらと光る点を見つけた。
「そら、半兵衛。星だ」
 じきに闇の帳が降りてくれば、この空は一面、星を撒いたように見えるだろう。勿論、夜襲に備えて篝火を焚かねばならぬから、その分、星は遠くなる。
「あぁ、本当だ。今日はこの分だと、さぞやきれいに見えるんだろうね。……まったく」
 空から目を戻すなり、はぁぁぁ、と大きなため息をついて半兵衛はがくりと肩を落とした。
「天皇大帝でもあるまいし、七夕以外は会うなと言うわけじゃないのにねえ」
「不満か、半兵衛」
「自分にね」
 きっぱりと言いきる半兵衛に、秀吉は苦笑いを浮かべる。三成に、と言わないあたり、さすがに半兵衛であった。
「自覚していたつもりだったけど、それ以上にあの子に甘い自分を再認識させられたよ」
「三成に甘いのはお前だけではなかろう」
 慰めるつもりで口にした言葉に、逆にぎろりとにらみ返される。
「君はいいよ、秀吉。寛容も覇王としての魅力の一つだからね」
 いっそ次の戦には吉継くんも連れて来ようかなあ、と呟く半兵衛には、もはや何を言っても無駄なようだと、秀吉はますます笑みを深くした。
 今日はもうこの分では、小競り合いさえ起こらぬのだろう。

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2011/09/12

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