祟り神と狐4

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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

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 ぽかん、とその場に立ちすくんでいた家康を引き戻したのは、苛立ちを隠しもしない男の声と、乱暴に引かれた手の痛みだった。
「なにをしている! 早くしろ」
「えっ……うわあ!」
 家康がつまづこうが悲鳴をあげようが、男は関係なしに大股で歩いていく。必死に足を動かす家康の後ろから、ヒヒヒとあの気味の悪い笑い声が追ってきて、家康は更に足を大きく動かした。
 ぐい、ぐい、と高いところから引かれる腕に、引きずられるようにしながら家康は神社を後にした。

 はあはあと荒い息を吐きながら男の後をしゃにむに追っていた家康だったが、不意に上げた視線にうつった男の姿を見て、あっと大きな声をあげた。
 街灯に照らされた男の髪は、まるで月の光のような銀。そうしてその頭にぴん、と立つのは三角の……耳?
 驚きのあまり一歩後ずさった家康の手は、あんなに強くつかまれていたのが嘘のように、するりと男の手から抜け落ちた。
 鋭角的な前髪に、つり上がったまなじり。白粉でも塗ったような真っ白い肌に、能面のような顔の造作が貼り付いている。美しいというには、ずいぶんと鋭すぎる顔立ちだった。その身にまとっているのは、テレビでしか見たことのないような、黒光りする鎧で、上から変わった形の羽織を着ている。白い羽織の裾はくるりとはね上がるようにカールし、その下からはやはり、当たり前のようにふさふさとした銀の尾っぽが覗いていた。
「お前……“みつなり”か!」
 滑稽にも見える格好をした男は、家康の問いに、ぎっと眼差しを鋭くした。
「貴様、なぜ私の名を知っている」
「それは」
 あの声が、何度も呼んでいたからに決まっているではないか。もちろん、家康はあれを獣の名前だと思っていたのだが。
 しかし、三成は急に興味をなくしたように、まぁ、いい、と家康の言葉を遮ると、今度は逆に、貴様の名は、とたずねてきた。
「知らないのか?」
 どういった訳か知らないが、声は自分のことを知っていたような様子だったので、てっきり三成も知っていると家康は思っていた。だからこそ驚いたのだが、ただ驚いただけにも関わらず、とたんに三成の機嫌が目に見えて悪くなる。
「貴様のことなど、私が知るはずがないだろう」
 怒ったように言う三成に、家康は慌てて手を振った。
「別に深い意味はないんだ! ワシはただ、あの声がワシのことを知っているように話したから、お前もそうなのかと思ったんだ」
「そうか」
 それを聞くなり、三成の怒気が収まった。ふぁさり、と銀の尾が揺れる。
「刑部は博学だからな。貴様のことも知っていたのだろう」
 ぎょうぶ、と口にする時だけ、三成はかすかに口元をほころばせた。

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2011/02/24

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