祟り神と狐6

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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

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 さらにくわしいことを聞こうと口を開いた家康だったが、言葉を発する前に三成が、
「無駄口を叩いている暇があるならば、とっとと歩け」
 すたすたと大股で前を行ってしまった為に、その後ろ姿を追うのにいっぱいいっぱいになってしまった。やっとのことで追いついたかと思えば、そこはもう見慣れた家の前で、振り向けば早くも三成は道を引き返しているところである。
「みつなり、待ってくれ! ワシはまだ、聞きたいことが……」
「子どもには遅い時間なのだろう? 刑部が言っていた。貴様はさっさと家に入れ」
 それでも一応、立ち止まってくれるところからして、家康はこの三成という奇妙な狐男に好感を抱いた。言い方は乱暴だし、こちらを見る目付きは鋭く、まるで睨まれているようだ。しかし、きっと根はいい奴なのだろう、と家康は思う。
 刑部に感じた嫌らしさというものを、この眷属は一つも家康に感じさせなかった。
「なら、昼間の明るいうちならいいか? ワシはまた、お前と話がしたい!」
 家康の言葉に、三成はきょとん、と虚をつかれたような顔をした。そうしていると三成はいくぶんか子どもっぽく、かわいらしく見えた。
「……貴様はおかしな奴だな」
 そう言うと三成はそっぽを向いて、別に来るなとは言っていない、と言い捨てるや、ぱっと獣の姿に変わって行ってしまった。
 銀色の毛並みの美しい狐には尾が4本あって、それらがゆらゆらと嬉しげに揺れていたのを、家康は月明かりの下ではっきりと見送ったのだった。

「みつなり! 会いにきたぞ!」
 次の日、学校が終わるのも待ち遠しく、始終そわそわと落ち着かなかったせいで教師から1日に10回も注意を受けた家康は、もちろん一旦ランドセルを置きに家に帰る時間も惜しんで、一目散に神社へとやって来た。昼間の明るい日の光の下で見る境内は、昨日の恐ろしさが嘘のように穏やかで、こじんまりとしていた。
 境内全部を合わせても、学校の教室にすっぽりおさまって、しかもあまりが出てしまうような。神社につきものの手水舎さえ、ない。狛犬にいたっては、狐の形をしたのが一匹だけ、こちらを威嚇するように建っているだけだ。
 そんな小さな神社の周りには、まるで社を覆い隠すように、ぐるり木が密集して植えてあった。そのせいで、境内の限られた部分にしか日が当たらないので、参道にはところどころ、苔が生えて滑りやすくなっている。
 家康は、ひょいひょいと苔の部分をきれいに避けながら、参道を進んで行く。さて、この小さな神社のどこに三成はひそんでいるのだろうか。

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2011/03/02

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