祟り神と狐7

*

三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

*

「みつなり! みつなり!」
「うるさい! 聞こえている」
 今まで一体どこにいたのか、不意に後ろから怒鳴り付けられて家康はぱっと飛び上がった。
 銀に輝く髪から飛び出た三角の耳、同色の四つの尾。昼間の明るい日の光の下で見ても変わらないそれに、家康は昨日のことが嘘や幻ではないのだという思いを強くした。本当のところ、あれが実際にあったことだとは、家康自身とうてい信じられなかったのだ。自分はなにか夢を見たんじゃないか。こうして三成が現れるまでは、心のどこかにあるそんな気持ちを否定することができずにいたのだ。
 けれど、三成は本当にいた。か細い月の光ではなく、暖かい太陽の光に照らされて、家康の目の前に立っている。
 家康はにっこりとほほえんだ。
「みつなり、会いにきたぞ」
「……あぁ」
 返答はぶっきらぼうだったが、いやがられているわけではないことはわかった。本当に嫌がっているのならば、三成はそれを隠したりはしないだろう。昨日今日の付き合いなのに、そんなことははっきりわかる。
 どうしてかはしらない。けれども、三成との間にある奇妙な絆を感じて、家康はますます笑みを深くした。
「みつなりはさっきまでどこにいたんだ? 入ってきた時は姿が見えなかったが」
「そんなはずはない。私は昼のうちはいつでもあそこにいる。貴様の目に写らぬはずがない」
 あそこ、と言って三成が指さしたのは、鳥居のすぐ手前、参道脇の狐である。三成の指の先を追って視線を走らせた家康は、あっと声を上げた。
「いないぞ!」
 台座だけを残して、石の狐が消えている。驚く家康を三成は、フン、と鼻で笑った。狐の耳がぱたぱたと動いている。
「当たり前だ。私はここにいるからな」
「じゃあ、本当にお前は狐なのか?」
「貴様も物わかりの悪いやつだ」
 こうすればわかるか、と言うやいなや、くるり、とその場で回ってみせた三成の姿がふっとかききえた。慌てた家康の足を、ふんわりとしたものが撫ですぎる。
「みつなり!」
「これでわかったか?」
 コン!と狐は一声高く鳴いたと思うと、
「それで何が聞きたいんだ?」
 前足をそろえて家康の前に行儀よく座ると、こてん、と首をかしげてみせた。ひげがふわふわと風になびくさまがほほえましい。
「あ、ああ。そうだな……」
 まだやわらかい新芽のような、緑がかった黄色の瞳にじっと見つめられて、家康は言葉につまった。聞きたいことはたくさんあったはずなのに、こうして三成と対峙していると、三成に会ってこうして言葉を交わしたかっただけのような気がしてくる。
 それでも家康の言葉を待っているらしい三成に、それをそのまま言っては怒られそうで、うろうろと思考をさまよわせていた家康は、ふとある事に気がついた。
「そういえば、今日はぎょうぶはどうしたんだ?」

*

2011/03/04

*

+