消えたdaydream

血ぬれのキス


 廃病院に駆けつけたビーストとバットガールが目にしたのは、建物の三階から吹き出す黒い煙だった。
 赤髪の少女が悲鳴を上げる。

「大変! 火事だわ!」

 もしここにセシリアとロビンがいるのなら早く助け出さなければいけない。
 ビーストがグラップネルガンを取り出し、煙を吹き出している窓に向かって打ち出した。

「階段登ってる暇はねぇな!」

 バットガールも彼女にならってグラップネルガンを使い、壊れた窓から屋内へと侵入する。ガラスは外側から割られたようで、部屋の中にガラスの破片が散らばっていた。
 祐未が床の一画を見て眉を顰める。

「おい、バットガール」

 彼女の呼びかけに応じてバットガールも床を見た。バッタランが刺さっている。

「ビンゴのようね」

「近くにいりゃありがたい」

 ドアには刃物で刺したような穴が開いていた。火の手を避けて廊下に出ると、椅子や壁がひしゃげて落ちている。そのさらに奥にふたつの人影があった。
 バットガールが声を荒げる。

「ビースト! ロビンが怪我してるわ!」

「金髪女も倒れてやがる!」

 ロビンの倒れている場所には血だまりが広がっていた。腹部に日本刀が突き刺さっている。バーバラが助け起こすも、目を覚ます気配はなかった。
 祐未はセシリアに駆け寄り状況を確認する。

「こっちは気絶してるだけだな」

「ディックは出血が酷い……危険な状態よ! 早く病院にいかないと!」

 建物の中も炎に飲まれている。早く脱出しなければならないが、問題があった。

「病院はどこもかしこも満員だろうな……この金髪女のせいで街中事故やら火事やらであふれてやがる」

 バーバラが忌々しそうに吐き捨てる。

「こんな女のせいで! 刀を抜いたら余計出血するわ……このまま運ぶしか……! バットケイブなら治療器具が揃ってる! せめてそっちに……!」

 だがディックは出血多量だ。輸血用の血液がバットケイブにあるかどうか。現状を正確に理解したバーバラの顔は青かった。
 祐未はしばらく彼女とディックを見比べていたが、決心したように立ち上がり、バーバラの肩に手を置く。
 
「バーバラ、悪いが女をつれて先に逃げてくれ」

 赤髪の少女が弾かれた様に祐未を見た。

「なにいってるの!? ディックはどうするのよ! このままじゃ死んじゃうわよ!?」

「だから、治療してから行くんだよ」

 バットガールの表情が固まる。その後彼女は相棒の意図を察し、真剣な顔つきで頷いた。

「……わかったわ……ディックは任せる」

「悪いな、バーバラ」

「いいわよ」

 赤髪の少女がセシリアを抱きかかえた。グラップネルガンを取り出して廊下を走る。
 祐未はバーバラを見送った後駒鳥を見下ろし、血だまりの中に足をついた。
 腹部に刺さった日本刀の柄に手を添える。ひと思いに引き抜くと傷口から血が噴き出した。胃が傷ついているのか、口からも血を吐き出し咳き込んだ。
 祐未は彼の頭を抱きかかえ膝の上に置くと、口の端についた血を拭う。
 ロビンの目がうっすらと開き、青い目が少女を見た。

「ぅ……祐未……?」

 少女がディックの額にかかった黒髪をそっとどける。顎に手を添え気道を確保した。少年の額には汗が浮かんでいる。

「ディック、悪いな。苦しいぞ」

 祐未が口の中を噛み切った。炎の熱が熱い。急がなければならない。
 彼女はまだ意識が朦朧としているディックの口を開かせ、口内に血を溜めた状態で口付ける。
 駒鳥が呻いた。

「ぐっ……」

 祐未が舌で無理矢理口を開かせる。ロビンの白い喉が鳴った。口の端から血が零れる。祐未が口を離すと、ふたりの間に赤い糸が伸びてぷつりと切れた。
 途端、ディックが目を見開き身体を硬直させる。

「がっ、あぁあああっ! あぁあああああっ!」

 細い身体が弓のようにしなった。悲鳴を上げる少年をビーストが押さえつける。彼の傷はかなり深いものだ。祐未の血を飲めばあり得ないほどの激痛が身体を襲う。

「すぐ治るから、我慢しろッ!」

 傷口はみるみるうちに塞がっていった。
 炎の勢いが増してきている。時間が無い。
 まだ暴れる少年を抱き上げ、祐未もバーバラ同様グラップネルガンを使い燃える病院から脱出した。
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DANGERHAPPY