消えたdaydream

sunlight line


 意識を取り戻したディックが見たのは見慣れた自分の部屋だった。ぼんやりと天井を眺め、視線をゆっくりと動かす。
 カーテンがしめきられ、隙間から光が漏れている。一条の白い光がベッドの上を走っていた。
 ベッドの横に置かれた椅子に祐未が座って目を瞑っている。

「祐未……」

 自分の口から出た声が擦れていて驚く。
 けれどその小さな音も彼女の耳は拾ったようだ。眠りが浅かったのか、すぐに瞼をあけ黒い目でディックを見てくる。

「目ぇ醒めたのか。傷は?」

「すっかり大丈夫だよ」

 言って、朦朧とする意識の中彼女にキスされたことを思いだし、思わず視線を泳がせた。

「その、たぶん、君のお陰で……」

「ああ……なんか、あたしの血は怪我とか病気とか治せるらしい。代わりに、すげぇ痛いらしいんだが」

「ああ。すごく痛かったよ」

 我を忘れるくらいの痛みだった。全身を滅多刺しにされているような感覚だ。あまり思い出したくない。
 ディックが正直に告白すると、祐未の眉がハの字に歪んだ。

「悪かったな」

「いいや、助かったよ。ありがとう」

 一旦会話が途切れる。祐未もディックも視線を泳がせた。
 治療の為の口付けもそうだが、彼らは昨日お互いに夢の中を覗いている。あまりにも赤裸々に本音を語ってしまった。誰にも言うつもりのなかった秘密さえも。
 その場に不思議な空気が流れ、そのうち祐未が椅子から立ち上がる。

「とにかく無事でよかった。今、アルフ呼んでくるから」

「あ、待って」

 ディックが咄嗟に手を伸ばし、祐未の腕を掴んだ。少女が振り返る。
 ディックはベッドから身を乗り出したまま祐未を見上げた。
 暫くの沈黙。
 ややあってディックがゆっくりと言葉を吐き出す。

「……君が、自分の今までを大切にしたいのはよくわかった。それでも僕は、あの白い部屋に君を置き去りにしたことを、後悔してる」

 カーテンの隙間から日差しが差し込んでいる。一条の白が祐未の肌を裂くように照らしていた。
 彼女が困った様に笑う。

「もう言っただろ」

 それは彼女があの夢の会合を認めた言葉。なかったことにしたいなら「なんのことだ」ととぼければ良いのに祐未はそれをしなかった。
 彼女なりの誠意だろうか。

「そうだ、もう聞いた。だからいいよ」

 泣いたことも死にたいと言ったことも、それでも生きたいといったことも、ディックの夢を良い夢だと言ってくれたことも全部本当。
 だからいいのだとディックは思うことにした。

「君はそこにいればいい。歩み寄るのも君の腕を引くのも、どうやら僕の役割らしいから」

 "辛くない"ではなく"辛いけれど前を向ける"と思ってくれるように。
 本当に思ったことを、夢の中でなくても離してくれるように。
 寄り添って腕を引くのはディックの役割のようだから。
 彼女がいてくれるなら、それだけでなんらかの未来には繋がっているはずなのだ。
 探し出せるはずなのだ。あの白い箱から祐未が外に出てきてくれる未来を。

「女の子のエスコートは、ブルースを見て研究するさ」

 あの炎の中で見た光景を忘れない。助けてくれた祐未の姿を。
 いつもの皮肉めいた笑みではない、あの白い箱の中でみた本当の顔で、心配そうにディックを見ていた。 
 彼女は自分の意思であの部屋を出ることができる。

「君が僕を助けてくれたように、僕も君を助けたいんだ」

 祐未の表情が変わっていく。照れたような、泣きそうな、嬉しそうな不思議な表情。

「僕は"信頼"してるよ、君のこと」

 とうとう彼女は泣き出しそうな顔で俯き、椅子に座り込んでしまった。
 細い指が所在なげに髪を弄っている。
 ディックと目を合わせてはくれなかったが、言いたい事は伝わっているだろう。
 少女の頬は赤く染まっていた。

「君のそんな顔初めて見たな」

 少年が笑うと、祐未が恨みがましそうに睨み付けてきた。

「うるせぇな、見せモンじゃねぇぞ」

 彼女のぶっきらぼうな言葉に、ディックは思わず笑い声をあげてしまったのだった。
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