デートをしよう


 ブルースが家を空けた日の正午。ノルマの訓練と勉強も終え、暇つぶしに身体を動かすのにも飽きた祐未は部屋でベッドに寝転がっていた。温かい日差しが身体を包み込んでいる。
 微睡む祐未の耳に、コンコン、と堅い音が聞こえた。窓のほうからだ。

「あん?」

 鳥でも当たったのかと思ったが、再び堅い音が聞こえる。不思議に思ってそちらへ近づくと、外に黒髪の男がぶら下がっていた。
 祐未はため息をついて窓を開ける。

「ディック、お前なにやってんだよ」

 グラップネルガンを持って来たのだろう。ラフな格好でワイヤーにぶら下がっているディックが笑みを浮かべる。

「祐未、映画見に行こうよ!」

 この男も大概暇人だ。
 祐未はため息をついて一歩下がると、ディックに中へ入るよう促す。

「話聞くから入れよ。寒いだろ」

「ありがとう。こういうのって人目を忍ぶ恋みたいでいいね。ロミオとジュリエットって感じ?」

「良く言うぜ」

 単に父親と顔を合わすのが気まずい家出坊主がこっそり帰ってきただけの話だ。ダシにつかわれたほうは良い迷惑である。

「映画ならホームシアターで見りゃいいだろ」

「やだよ、ブルースに鉢合わせするかもしれないだろ」

「なんだよ、それ期待してんじゃねぇの?」

「そんなわけないだろ。怒るよ。それに見たい映画が今やってるんだよ」

「他に誘う友達とか女とかいるだろ」

「君、用事あるの?」

 ディックが首を傾げた。黒い髪が頬を撫でる。いつのまにか精悍な顔立ちに成長していた。

「ないけど」

「僕と映画見に行くのイヤ?」

「そういうわけでもない」

「じゃあ行こうよ」

「やだ」

「なんで?」

「実家に帰るダシに使われてちょっと腹立ってるからだぜ。キョウダイ」

 ディックが3度ほど瞬きをする。それから満面の笑みを浮かべ、祐未に腕を伸ばしてきた。

「拗ねてるの? 違うって、家に帰りたかったんじゃなくて急に祐未の顔が見たくなったんだ。本当だよ」

「映画が見たかったんじゃなかったっけ?」

「君と映画が見たくなったんだ」

 男の手が祐未の頬を撫で、髪に指を絡ませる。祐未は胡散臭そうに彼を見た。ディックは少し笑って、顔も祐未に近付けてくる。

「新しいバイクに乗ってきたんだけど。BMWの新型!」

 祐未の声がワントーン跳ね上がった。

「しんがた」

 ディックはその反応を見逃さない。

「行きは僕が運転するから、帰りは祐未が運転して帰らない?」

「えっ、いいのか?」

「うん。ついでにご飯も食べて帰ろうよ」

「ごはん」

「夜ご飯は僕の奢りでステーキ食べよう」

「すてーき!」

 目を輝かせて顔を上げた祐未の頭をディックが撫でる。

「いくよね♪」

 祐未が笑顔で何度も頷いた。

「行く行く!!」

 彼らの背後から咳払いが聞こえる。いつのまにかドアの前にアルフレッドが立っていた。

「朝帰りはくれぐれもしませんように」

 目が完全にディックを見ていたので、男は誤魔化すように笑ってから

「Ok」

 と、返答したのだった。
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