警鐘 バットマンとの通信を追えたロビンが、隣にいるビーストを見た。 「僕らが見た子のほかに、何人か子供が街で強盗を働く予定らしい。用が済んだら殺される予定だそうだ」 彼女は頭の後ろで手を組み壁に寄りかかっている。 「ふーん。そんで、どうすんだよ」 「変電所にいる少年を説得して、街の仲間を保護するのに協力させる。警察も動いているはずだけど、仲間の証言があったほうが信じるだろう」 ビーストが壁から離れ、首を軽くならした。 「じゃあとっとと行くか」 「待ってくれ。まず監視カメラの映像を確認する」 ロビンが手早く目当ての配線を探り当てた。停止していた監視カメラの映像をポータブルモニターで確認できるようにする。同時に壁の側面に妨害電波発生装置をつけた。 「これでいい。いこう」 「オーライ」 走り出すと同時に、少年が少女に言う。 「あんまり暴れないでくれよ」 「生憎だが、それが仕事だ」 ロビンが重いため息をつき、建物に登ったとき同様ビーストを抱えて地面へと下りた。 「お前こそ、なんでいちいちあたし抱えてワイヤー使うんだよ。あたしだって持ってるっつーの」 「時間短縮だろ」 出入り口にも妨害電波発生装置をつけ、扉をこじ開ける。どうせここに見張りはいない。監視カメラであらためて確認したが、敵はやはりふたりだけのようだ。 「そんなことより、ロジャーとかいう傭兵は君と同じくらい強いの?」 「車投げ飛ばすくらいの怪力はあるが、回復能力はねぇ。いわゆる"失敗作"さ」 階段を駆け上り、少年のいる場所へ向かう。幸い、傭兵と少年は別々の場所にいるので説得はしやすいだろう。 「車が投げ飛ばせる時点で結構厄介だと思うけど」 「あたしだってやろうと思えばできるぜ」 「"目が赤くなれば"の話だろ」 「そりゃそうだが」 ビーストはもともと通常の人間より運動神経も五感も優れているが、虹彩の変化に伴い回復力も身体能力も増大する傾向にあった。我を忘れた彼女の力にはバットマンですら手を焼く。最初に会った時もロビンとバットマン、2人がかりで拘束するのがやっとだった。 「鍛えれば成人する頃にゃあ目が赤くならなくたって車くらい投げ飛ばせると思うぜ」 「それで君があんな2メートル越えのゴリラみたいになったら僕泣くから」 「勝手に泣いてろ、クソ野郎」 「あー、そういうこと言う!?」 暫く口論しながら廊下を走っていると、前方に黒いマントが見えた。裏地は黄色。 ビーストが短い口笛を吹く。 「みーっけた♪」 偽ロビンのほうもふたりの足音に気がついたらしい。振り向くなり目を見開いて懐から筒状のスイッチを取り出す。 「なんだおまえら! ここに近づいたら変電所を爆破するって言っただろ!」 だが彼がスイッチを押してもなんの変化もない。スイッチ自体が起動していないようだ。 ロビンが笑顔で首を傾げる。 「ああ、爆弾ならもう妨害電波を出したからそのスイッチでは起爆できないよ。時限式だったとしてもあと9時間30分くらいはあるんじゃないのかな?」 ビーストが偽ロビンに近づいていき、スイッチを奪って後方へ放り投げる。 「残念だったなぁー、大人しく話を聞きな」 「そんなっ! くそっ、ふざけやがって!」 偽ロビンがマントを翻してビーストと距離を取る。既に背後に回っていたロビンが彼の肩を掴んで話しかけた。 「落ち着け! なあ聞いてくれ。君は利用されてるだけだ。ジョーカーは最後に君も君の仲間も殺す気だよ」 「敵にそんなこと言われて信用すると思ってるのか!?」 ロビンの拘束を逃れようと、偽ロビンが暴れる。ビーストは片眉を跳ね上げ腕を組んだ。 「ウソなもんかよ。ウェストハーロウ3番地」 偽ロビンが息をのむ。 「!」 「イースト変電所にいた野郎が吐いたんだぜ? なんなら今からそいつの声聞かせてやろうか」 ビーストの言葉を聞いたロビンは少し不安げだ。 「バットマン、まだ敵の近くにいるかなぁ」 「知るか。いねぇならこいつをイーストまで引っ張ってく」 ふたりの言葉に偽ロビンの瞳が揺れた。動揺しているのか、額に汗が滲んでいる。それはそうだろう。落ち合う場所までバレているのだ。敵の言葉に信憑性が増す。仮に仲間の裏切りが嘘だとしても、仲間ごと集合場所で一網打尽にされるのは確実だ。 動揺する偽ロビンの鼻先にビーストが指先を突きつけた。 「冷静に考えろよ。お前の仲間が何人いるんだか知らねぇが、何人もガキ抱えてどれだけ逃げられると思う? それなら全員殺して金奪って自分だけ逃げたほうが楽だし分け前も増える。ゴミはそう考えるもんだぜ。お前だって知ってるだろ」 「う、うるさい! そんなの、本当かどうかわからないだろ! それに俺たちには、もうこれくらいしか方法がないんだ! あんたらとは違うんだよ! みんな俺たちのことクズだって思ってる! クズはこのくらいしないと、生き残れないんだ!」 偽ロビンの叫びにビーストは眉一つ動かさない。ロビンのほうが息苦しくなってしまって、弱々しい声を出した。 「誰も、そんな事……」 しかし彼は言葉を最後まで紡げなかった。背後に大きな影が差したからだ。慌てて見上げると、2メートル越えの大男――ロジャー・フォードが凶暴な笑みを浮かべて立っていた。 [しおりを挟む] 目次 戻る |