brontides「おいおい、なんの騒ぎだ?」 大男が粗野な笑みを浮かべた。全身を黒い戦闘服で覆っているため、威圧感が凄まじい。 ミリタリーグローブに覆われた大きな拳がロビンに向けられる。それが偽ロビンもろとも自分を殴り飛ばそうとしているのだと悟り、彼は咄嗟に空を切る拳から少年を守った。 「ぐぅっ!!」 背中から全身に衝撃が走る。偽ロビンを庇ったまま空中に投げ出されたロビンは、偽ロビンを抱え込むように体勢を変えた。 結果としてロジャーに殴られたあげく、壁に勢いよく叩きつけられることになる。 大男のほうは殴った手を軽く振るい、舌打ちとともに吐き捨てた。 「やっぱりこっちに来たのはガキか。つまんねぇな」 壁に叩きつけられたロビンの真横でパラリとコンクリートの破片が落ちる。全身に広がった痛みに耐えなんとか首を上げた。頭がひどく痛む。おそらく出血していた。幸い少年は無事だ。 「ぐ……、お前、彼ごと、僕をっ」 偽ロビンが恐ろしいものを見る目つきで、ロジャーとロビンを交互に見る。男が口の端を歪めて少年ふたりを嘲笑した。 「そいつもどうせ最後には殺しちまうんだ。今殺したって問題ねぇさ」 偽ロビンの瞳が大きく揺れる。これでジョーカーが子供たちを始末しようとしていたことが確定した。裏切られたのだ。 男が歩み寄ってきて、片足を上げる。少年ふたりを踏みつぶすつもりらしい。 車を投げるほどの怪力だというから踏みつけられたらひとたまりもないだろう。 偽ロビンがロビンを立たせて逃げようとするも、おそらく間に合わない。 それにロビンは逃げなくても良いと悟っていた。 「どうせ死ぬなら、いつ死んだって問題ないってか」 ロジャーの頭上、天井に人影。片手で天井に突き立てたナイフからぶら下がっている。目はまっすぐに敵を見据えており、獲物を狩る狼のようだ。自由なほうの手にもナイフを構えている。 「ならテメェを今殺しちまっても問題ねぇってことになるな」 ビーストが天井を蹴った。ナイフがコンクリートから抜け、少女が落ちてくる。2本の切っ先が戦闘服ごと筋肉に覆われた太い足を切り裂き、血が吹きだした。 「ぎゃぁあああッ!!」 バランスを崩した男が後ろ向きに倒れる。彼のすぐ横に着地したビーストが太い首筋にナイフを突き立てた。 額から流れる血を拭い、ロビンが叫ぶ。 「ビースト! 殺しはするな!」 「わかってるよ! 大声出すんじゃねぇ!」 ロジャーがニヤリと笑った。傷の出来た足から血を拭い、立ち上がる。 「テメェ、その声……Y21だな。丁度良い。捕まえりゃあネルガルから金が貰えるぜ」 「デカイだけの牛にやれるもんならな。"クサリフ"さん?」 「テメェも首と胴体切り離せば少しは大人しくなるだろうよ」 ビーストが笑った。鋭い犬歯をむき出しにした凶暴な笑み。まるで縄張りを荒らされた犬が威嚇に吠える時のような、闘争本能の塊のような笑顔だった。 歯をむき出しにした笑顔のままビーストが男の顔を蹴り飛ばす。 細い身体がロジャーの肩に手をかけて背後に回り込んだ。 首に足を絡ませ締め付けるも、大男は背後に手を回し少女の身体を力任せに引きはがす。 勢いよく投げ飛ばされたビーストは壁に叩きつけられる前に体勢を立て直した。 壁に両足を突き、クサリフに向かって飛びかかる。 分厚い腹に頭突きを食らわせてやると、大男の身体がくの字に曲がった。 「ぐっ」 ロジャーの巨体が壁に叩きつけられる。唾液を吐き出し苦悶の声を上げたクサリフがビーストを睨んだ。 立ち上がって少女に飛びかかるも、彼女は上空に飛んで避ける。 だが寸前で右足首を掴まれ、床にたたき付けられてしまった。 今度は彼女が苦悶の声を上げる。 「がはっ……!!」 廊下にヒビが入って破片が宙を舞った。ビーストの血も一緒に舞っている。 クサリフが笑みを浮かべた。 ビーストは両手を床につき、身をよじらせて拘束を抜け出す。 そのまま飛び起きるように反動をつけて、両足で男を蹴り飛ばした。 一歩後退した男が宙に浮いた彼女の身体を払いのける。 床に転がった細い身体をロジャーの足が踏みつけた。 バキリと音がして、ビーストが口から血を吐き出す。 ロビンが起き上がって声を荒げた。 「ビースト!」 一歩踏み出した彼を鋭い少女の声が止めた。 「手ぇ出すんじゃねぇぞ、ロビン!」 ビーストが腹に乗ったクサリフの足を掴む。 ロジャーの表情が焦ったものに変わった。 少女の顔が赤くなり、腕が少しずつ大きな足を持ち上げていく。 ロジャーも足に力を入れるが、ビーストは少しできた隙間をつかって転がるように脱出。男の顔面を両足で蹴り飛ばした。 そのまま足を肩幅に開いて中腰になり、空手の型を思わせる体勢で拳を突き刺す。 ふらついたクサリフの腹部に拳を叩きつけた。 大男が咳き込む。 「ぐへっ」 あと何発か腹部を殴り、男がバランスを崩したとみるや少女が地面から飛び上がる。 「寝てろよ、ウスノロ」 最後に再び顔面を蹴り飛ばすと、巨体を壁に叩きつけた。 [しおりを挟む] 目次 戻る |