RAGE OF DUST

クズのプライド1


 ビーストが足についた土埃を叩き、うめき声を上げるロジャーに向かって走り出した。ロビンは横で動揺する少年に向き直り、彼の薄い肩を掴む。

「これでわかっただろう、彼らは君たちを利用して捨てる気だ」

 少年の肩の薄さは栄養失調が原因だ。触るとほぼ骨と皮だけだというのがわかる。ゴミの中を這い回るような生活をしていたのだろう。
 本当に、これくらいしか生き残る術がなかったのだろう。
 だからロビンは彼を責める気はなかった。
 けれど彼も、彼の仲間もこのままでは死んでしまう。
 だからそれだけはなんとしてでも阻止しなければならなかった。
 少年も自分の未来を理解しているのか、折れそうな身体を震わせている。

「だ、だけど、それなら俺、どうすれば……」

「君が仲間を説得するんだ! 僕らじゃ限界がある。仲間の君の言葉なら、彼らを止められるはずだ!」

 少年の瞳が揺れる。
 そうだ。ロビンにもわかる。仮にここで彼らが犯罪に手を染めなければ、彼らはきっとそのうちのたれ死にするのだろう。
 彼らは犯罪を止めたからといって、誰かが助けてくれるとは思っていない。
 きっといままで誰も助けてくれなかったのだ。
 ロビンは運が良かった。泥の中を這いずり回る前に、バットマンに救われた。
 一歩間違えばロビンだってこの少年のようになっていたに違いない。
 まるでコインの裏表だ。
 なんとか彼の背中を押す言葉を探そうと口を開く。

 彼の言葉を遮るように、男の怒号が聞こえてきた。

「調子にのるんじゃねぇぞ!」

 ロビンと偽ロビンの丁度真横に、ビーストが吹き飛んでくる。ガツンと荒々しい音がして、彼女の身体がくの字に曲がった。

「がっ、はっ……!!」

 頭と腕に出血がある。偽ロビンが息をのんだ。顔が天井を仰いだせいで首がむき出しになる。そのむき出しになった喉をクサリフの太い腕が掴んだ。
 ロビンの頭に血が上る。視界が赤くなるような感覚がした。

「ビーストッ!!」

 ロビンが棍棒を取り出し構えるが、首を絞められたままのビーストが彼を手で制した。首を絞められたまま身体を持ち上げられ、身体からコンクリートのカケラがパラパラと落ちる。
 ビーストはひとつ咳き込んだが、すぐに犬歯をむき出しにて笑った。
 男の腕を掴んで振り子のように足を動かす。
 反動をつかって倒立するように身体を動かし、円を描くような軌道でそのまま身体を倒す。
 両足を男の肩に叩きつけて拘束から抜け出した。
 地面に着地した彼女はすぐにふたりの少年を庇うように前に出る。
 ロジャーが拳を振りかぶった。
 ビーストは手を顔の前で交差させ、大男の拳を受け止める。
 力同士が拮抗しあう。
 拳を受け止めた状態のまま、ビーストが口を開いた。

「なあアンタ、自分のことクズだって言ってたな」

 偽ロビンが顔をあげた。ビーストは彼のほうを見ず、けれど彼に語りかける。
 視線はまっすぐに敵を見据えている。

「あたしだってクズだ。このウスノロと知り合いだってんだ、わかるだろ。クズのなかのクズだよ」

 "クサリフ"ロジャー・フォード。ジョーカーと手を組んで子供たちを殺そうとしたネルガルの傭兵。
 他人の命をなんとも思っていない男。
 彼女はつい最近まで、そんな男と同じ組織に所属していた。
 
「でもよ、だからこそ言うぜ。あたしとアンタは、同じだからさ」

 クサリフとビーストの力比べは、身体が小さい分少女に不利だ。少しずつ身体が後退していく。
 ロビンが手助けしようと思った瞬間、彼女は勢いよく腕を押し広げ大きな拳をはじき飛ばした。

「なあオイ、クズ仲間! クズにはクズの意地ってもんがあんだろ! こんなゴミどもに騙されて、てめぇら黙って泣き寝入りするつもりか!?」

 一気に後退を余儀なくされたロジャーが、近くにあった変電所の機材を掴む。
 パネルから鉄の板が引きはがされ、ベリベリと派手な音がした。
 その板がビーストに向かって投げつけられる。
 回転しながら迫ってくる鉄を受け止めた少女は、すぐさまそれをクサリフに投げ返した。
 そうして、初めて偽ロビンの少年を見る。

「一発かましてやらねぇと気がすまねぇだろ! やつらのバカげた計画なんてめちゃくちゃにしてやれ!」

 獣の咆吼にも似た荒々しい叫びだった。彼女の中には常に野性が見え隠れしている。生きるためになにをするべきかを本能で知っている。泥水にまみれてもゴミを漁っても他人に踏みつけられても折れない心が、同じく泥水にまみれゴミを漁り踏みつけられてきた少年の背中を押す。

「テメェだから出来るんだ! やっちまえ! 思いっきり壊しちまえよ!」

 少年がなにか決心したように、力強く頷いた。
 
 クサリフの視線が少年に向く。やはり計画を妨害されては不味いのだろう。今度は鉄の板を少年に向かって飛ばしてきた。
 勢いよく回転する塊をビーストが蹴り飛ばして防ぎきる。
 
 そうして彼女は大きく吠えた。

「行ってこいよ、ピーターパン! クズのプライドってもんを見せてやろうぜ!」
[*前]- 17 - [次#]
[しおりを挟む]
目次 戻る
DANGERHAPPY