クズのプライド2 力強い瞳で走り去った少年の背中をしばし見つめていたロビンは、すぐに視線をロジャーに映した。 横にいるビーストもロジャーを睨み付けている。口元には凶暴な笑みが浮かんでいた。 少年の背中を押したのは、ビーストの言葉だ。 きっとこんなマネはロビンにはできなかっただろう。ひとりだったら無理矢理発電所の外に逃がして、あとは彼の善性に任せるしかなかった。 彼の背中を押す言葉を、ロビンは持っていない。 ロビンは自分のことをクズだなんて思っていないし、彼らが見た崖っぷちの向こう側も見たことがない。 ロビンは崖っぷちに立たされ、飛び降りる直前にバットマンに救われたからだ。 彼らと同じ場所に立ったことのない自分は、彼らに寄り添う言葉を持たない。 それを、少し悔しいと思った。 「ビースト、もう下がれ! あとは僕がやる!」 悔し紛れに声を荒げる。しかし少女はロビンの方を向かなかった。 あの少年には視線を向けたのに。 「ロビン! てめぇはあいつを街まで送ってやれよ!」 「ひとりでそいつと戦う気か!?」 これは信頼だろうか。それとも、同じ場所に立っていないから。 馬鹿馬鹿しい考えだと、自分で自分を笑ってやりたくなった。 「どうせこいつはアタシの敵だ。大方ゴッサムで行方不明になった"ウリディンム"を探しに来たんだろうよ。途中で小遣い稼ぎしてたみたいだが?」 大男が笑い、拳を鳴らす。ゆっくりとビーストに向かって歩いてきていた。 「寄り道はするもんだなぁ。まさかお前が自警活動してるとは思わなかったぜ、Y21」 ネルガルの関係者は全員ビーストのことをY21という。コードネームとすら呼べない無機質な番号。 名前なんかではない。商品としての彼女の呼び名。彼女を人ではないものに引きずり下ろした忌むべき単語の羅列。 いっそ大男の口に棍棒を突っ込んでやりたい衝動に駆られたが、ビーストは相変わらず笑っている。 「あのガキの足じゃ街につく前に手遅れだ。アタシが心配なら手早く用事すませて帰ってきてくれよな、"お兄ちゃん"?」 当の本人が平然としているのだ。ここでロビンが怒り狂うのは不自然だし、なにより少し気恥ずかしい。 なので彼はつとめて冷静に、自分の中の怒りを押し込めてため息をついてみせた。 「……あんまり心配かけるなよ。僕が来る前に、自分で片付けていて欲しいもんだな。"お姉ちゃん"?」 すると彼女は嬉しそうに楽しそうに、手のひらに拳を叩きつける。 「任せな。フック船長はアタシの獲物だ」 大男も負けじと吠えた。 「抜かせ! その減らず口黙らせてやるぜ!」 クサリフとビーストがお互いに向かって駆けだしていく。 ロビンは後ろ髪を引かれる思いで彼らとは反対方向に駆けだした。追うのは先ほど街に向かった少年だ。変電所を出たところで、自分に良く似たマントをはためかせる彼を見つけた。 急いで彼の元まで駆けていき、ビーストを抱えたように腰のあたりを掴む。 「掴まって! 街まで飛ぶぞ!」 「わ、わかった!」 グラップネルガンで狙いを定め上空に舞う。 この少年達を止めるためにも、ビーストに加勢するためにも、ロビンは一刻も早く街にいかなければならなかった。 [しおりを挟む] 目次 戻る |