#3:Rabies「あのガキなにしてやがる! Y21! 仕事しろ! おいY21!!」 最後まで抵抗した武器商人を拘束する。男は苛立った様子で怒鳴り散らしていた。 ロビンが男の背中を蹴り飛ばして黙らせる。 「Y21ってなんだろう」 「ガキ、と言っていたな。なら最初に拘束したあの子供か」 「あの子が1番手強かったしね。コイツら、子供に頼り切りで恥ずかしくないのかな」 そろそろ警察がくる筈だ。犯罪者全員の拘束を確認し、バットマンとロビンは外に出た。 波の音がする。街頭の下にワイヤーで拘束された少女がいた。まだ拘束を抜けようとして暴れ回っている。 ロビンが呆れたように言った。 「体力あるなぁ」 一方、蝙蝠は少女の異変に気づいて眉を顰める。 暴れているのは同じだが、ワイヤーで擦れた手に擦り傷が出来ていた。頑丈な布地であろう服も綻びが出来ている。 なによりもおかしいのは彼女の目だ。 黒かったはずの虹彩が、闇夜にもハッキリわかるほど赤く染まっている。 まるで血の色だ。 スーパーマンのヒートヴィジョンに似ているが、あれとは違って光線の類は出ないらしい。 ただただ、虹彩が血のように赤い。 食いしばった歯の間からはうなり声が漏れている。 「ぐぅっ、ぐるっ……!! る゛る゛、ぅ゛るッ」 犬歯が異常に鋭く、唇の端から唾液が零れていた。狂犬という言葉がよく似合う。 ロビンも異変に気づいたらしく、気圧されて一歩後退る。 「え、なんだあれ? バットマン、あの子様子がおかしい」 「ああ……」 少女の腕が左右にゆっくり開いていくと、ワイヤーが少しずつ伸びて千切れ始めた。 バットマンが声を上げる。 「バカな、宇宙工業用の特殊ワイヤーだぞ!」 少女の腕がワイヤーで傷ついていく。服が破れ皮膚が裂け、血が出ても暴れ続けた結果、強固であるはずのロープが音を立てて千切れた。 「ぐぁぐっ!!」 少女が雄叫びと共に大地を蹴り、ふたりにむかって突進してきた。先ほど傷ついたはずの腕はすでに出血が止まっている。 ロビンがたまらず叫んだ。 「どうなってるんだ!?」 少女が両手を組んでロビンの頭上にたたき付ける。ダブル・アックス・ハンドル。脳天を思い切り殴られ、少年が地面に沈んだ。 少女はすぐさま近くにいたバットマンへ視線を移す。 「がぁああああっ!!」 言葉を忘れた獣が蝙蝠男に飛びかかる。組み付かれる前にバッタランを投げつけたが、腕に刺さったブーメランを引き抜かれて終わった。やはり傷はすぐ治ってしまうようだ。 バッタランを投げ捨てた少女が蝙蝠男の首に手をかける。犬歯の向こうから怒号が飛びだした。 「ぎぃい゛ぃ゛っ!!」 言葉になっていないそれは、おそらく威嚇。少女の腕を掴んで引き離そうとするも、特殊ワイヤーを引きちぎった馬鹿力はそう易々と攻略できない。 「くそっ」 短く呻いて薄い腹に蹴りを入れる。少女は軽く咳き込んだがそれでもバットマンに食いついて離れない。うなり声をあげて唾を飛ばし、男の喉笛に食いつかんと暴れていた。 「がぁあぁああ! ぐがぁああああッ!!」 「くっ……!」 バットマンが少女の首を掴んで引き離す。暴れる彼女の後方に人影が立った。先ほど少女に殴られたロビンだ。軽く頭をさすった彼は、敵の脇に腕を差し込み羽交い締めにする。 「ぐぎゃ!?」 「バットマン早く!」 獣の猛攻から逃れた蝙蝠が少女の腹部に拳を叩き込む。 「ぎゃっ……」 敵が唾液を吐き出し咳き込んだ。さらにバットマンがポーチから小さいスプレー缶を取り出し、少女の顔に吹き付ける。強力な麻酔だ。 「ぎっ!」 霧状の薬品を吸い込んだ途端少女の身体が硬直した。ロビンは薬を吸い込まないように口元をマントで覆っている。 「ぎ……ぐ、ぐ……」 獣の四肢から力が抜けた。彼女は妙なうめき声をあげ、ロビンに拘束されたままガクリと項垂れ動かなくなる。麻酔で気絶した少女を、バットマンがあらためて特殊ワイヤーで拘束した。 「薬が切れる前にバットケイブへ連れて行く。拘束着でないと持ちそうにないからな」 自動運転に切り替わったバットモービルが港に滑り込んでくる。助手席に気絶した少女を押し込め、バットマンが続けた。 「ロビン、お前はあの船から情報を抜き出してくれ。どうにも、普通の敵ではないようだ」 「わかったよ。気をつけてね」 「同じことを言おうと思っていた」 バットモービルが高速で道路を駆けていく。その後ろ姿が見えなくなる前に、ロビンは指示された通り再び敵の船へと舞い戻った。 [しおりを挟む] 目次 戻る |