消えたdaydream

終幕


「なぁにあの男の子! ロビン! すごくカッコ良い! 好みだわ! 強くって優しくって、マスクで顔はよく見えないけど、たぶんすごくカッコ良い!」

 ロジャーが片手で頭を押さえたまま顔をあげた。

「おい、俺をここから出してくれ! 今度こそあのガキどもに痛い目みせてやる!」

 すると先ほどまではしゃいでいたセシリアが、ゴミをみるような目で男を見た。青い瞳が氷のよう冷たい光を放つ。

「いやぁよ。なんであんたみたいな役立たず、私が助けてあげなきゃいけないの?」

「なんだとこのアマ!!」

 セシリアの金髪と、パステルピンクのスカートがふわりと靡いた。青い光が彼女の全身を覆い、細い腕が再びロジャーにかざされる。

「口の利き方に気をつけなさいよね。アンタって別にカッコ良くないし、ムサいし、私どうでもいいの」

「なっ……」

 ロジャーの巨体を青い光が包み込む。彼が抗議しようと口を開いた。
 しかし、彼の口から出たのは言葉にならない悲鳴。

「ぐっ、がぁあああああ! あぁああああっ!!」

 巨体がコンクリートの上に叩きつけられ、頭を抱えて暴れ回る。簡素なベッドの足に肩がぶつかり荒々しい音を立てた。

「ぎぎっ! ぐぎゃっ! がぁあああっ!」

 男の目がグルリと裏返り、口から涎が溢れてくる。
 やがて糸の切れた人形のように、巨体が倒れて動かなくなった。
 肉の塊と貸したロジャーを見下ろし、セシリアが手を下ろす。
 青い光が消え失せた。

「ゴミはゴミらしく黙っていたほうがまだ好感がもてるわね」

 遠くから足音が聞こえてくる。おそらく刑務官が騒ぎに気づいたのだろう。

「そろそろ潮時ね」

 小さな呟きとともに、少女の姿が独房から消えた。
 一足違いで刑務官がひとりその場にやってくる。

「就寝時間だぞ、なにを騒いでいる」

 彼の持っているライトが小さな檻の中を照らした。光で丸く切り取られた中に巨体が倒れている。
 刑務官がライトを取り落とし、声を荒げた。

「おい! 誰か来てくれ! ロジャーが倒れている!」

 下の騒ぎをセシリアは屋根の上で聞いていた。慌ただしい足音がいくつかして、ロジャーの独房が騒がしくなる。

「死んでる!?」

「こいつ持病なんてあったか?」

「服毒自殺か?」

「とにかく上に報告しろ!」

 また慌ただしい足音がした。
 刑務所の騒ぎをBGMに、少女は笑顔で携帯電話を取りだす。
 登録されている電話番号を選択し、通話ボタンを押した。
 3回のコールで相手が出る。

「もしもし博士? ロジャーは本当にY21を見つけたみたい。あのゾンビ、ゴッサムで自警活動してたわ。笑っちゃうわね」

『そうか。セシリア、彼女を連れ戻してこい』

 電話の声は博士と呼ばれるわりに若いが、感情は一切読み取れなかった。
 セシリアが不満そうな声を出す。

「なんで博士はあんなのに構うの? ただ死にづらいだけの怪力女じゃない。私、あいつよりももっと色々なことができるのよ?」

 刑務所の騒ぎは一応の落ち着きを見せたらしく、また静かになっていた。その場にセシリアの声だけが響いている。

『わかっていないな。あれは我々ネルガルが生み出した唯一の成功例、貴重な可能性だ。歩く劇薬にも、生きる霊薬にもなり得る。逃がすわけにはいかない』

 自分が"死にづらいだけの怪力女"と称した存在を唯一の成功例と言われては面白くない。
 たしかにセシリアはネルガルで生み出されたものではなく、サイキッカーをネルガルが保護した形だから"成功例"というわけではないが、それでも自分以外がネルガル内で評価されるのは面白くなかった。

「なによそれぇ〜……博士いつもそればっかり! 私はY21なんかより、ロビンのほうがいいと思うわ! ネルガルに連れてくなら、ロビンを連れてく!」

 名案だ、とセシリアは思った。電話越しの博士は相変わらず淡々としている。

「セシリア、Y21の奪還は最優先事項だ」

 こんなことを言って、最終的に彼はセシリアのワガママをすべて許してくれるのだ。
 だってセシリアは特別なサイキッカーなのだから。

「気が向いたら連れて行くわ。いいじゃない、私がいればあんなゾンビいらないでしょ?」

『おい、セシリア』

 話は終わったとばかりに少女が通話終了ボタンを押した。無機質な音に遮られ、博士の言葉は最後まで届いてこない。
 携帯電話をポケットにしまい、少女が軽やかに空へ一歩足を踏み出す。

「さぁ、まずどうやってロビンに会おうかしら!」

 通常なら落下するであろう瞬間、彼女の姿はその場から消え失せていたのだった。
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DANGERHAPPY