#5:Life picked up 少女が目を覚ますと、薄暗い湿った場所にいた。身体を動かそうとして拘束着をつけられていることに気づく。 「ンだコレ! どこだここ!」 バタバタと暴れるも、拘束着ではマトモに起き上がることもままならない。芋虫のように身をよじらせているうちに、見覚えのある蝙蝠男と駒鳥が彼女の身体を椅子に押しつけベルトで固定し始めた。 蝙蝠男が口を開く。 「君の情報を調べさせてもらった。"ウリディンム"」 慣れた手つきの駒鳥が拘束着の固定を終了させた。ウリディンムはそれでも諦めずに暴れながら蝙蝠に向けて声を荒げる。 「だからなんだってんだ! とっととこれ外せバカ野郎が!」 唾を飛ばす少女に対しロビンが言った。 「待ってよ、別に危害を加えようってわけじゃないんだから、落ち着いて」 「人に拘束着着せといてほざきやがる!」 「暴れられたら困るからね。君が"我を忘れた"ら、その拘束着ももつかどうか怪しいもんだけど」 バットマンは静かに少女を見下ろしていた。拘束具はワイヤーと違って易々と千切れたりはしないだろう。敵の本拠地で逃げきれるなどと彼女も思っていなかった。 結果として、少女は苛立たしげに舌打ちし諦めて抵抗をやめる。どうせ捕まった身だ。彼女の商品価値は地に落ち、そもそもここから生きて出られるかどうかも怪しい。諦めた方が体力的には楽だった。 彼女の様子を確認し、蝙蝠男が続ける。 「君の所属組織"ネルガル"は国際的な武器の密輸を行っている。その"武器"の中に、君も入っている。そうだな?」 「調べたんなら聞かなくたって知ってんだろ。あたしは"ウリディンム"って商品名のれっきとした生体兵器さ」 「11年前から実戦投入されている」 少女が笑う。 「生憎ニューイヤーパーティーとは無縁なもんで、わからねぇが……まあ、だいたいそんなもんじゃねぇの?」 「君の異常回復能力と、驚異的な身体能力は地球外生命体の寄生によるものか?」 「商品説明にあったろ? "ニナズ"って名前らしいぜ。傷が治るのも腕っ節が強くなるのもありがたい限りだ。あたしがヤバくなると暴走しちまうんだってよ」 「虹彩の色が黒から赤に変化する」 「こうさい?」 「目の色」 「ああ、ンなこと言われた気がする」 スラスラと答える少女を見てロビンが眉を顰めた。どうやら訝しんでいるようだ。 「さっきまで暴れてたのに、やけに素直だね?」 「人生諦めが肝心だろ。逃げられねぇなら従ったほうがラクだ」 バットマンもロビンも、彼女の意見にはなにも言わなかった。代わりに蝙蝠男が畳みかけるように尋ねる。 「入手したデータにはY21としか記述がなかったが、君の名前はなんだ」 「Y21だよ」 ロビンは呆れた様に言った。 「それはコードナンバーじゃないか。ちゃんとした名前だよ」 「ネルガルじゃそれしか呼び名ねぇよ」 「嘘だろ……僕がそんな名前で呼ばれたら一週間で家出する自信があるよ」 バットマンが小さく呟く。 「普通はそうだ」 Y21と呼ばれている少女は彼らの指摘に気分を害した様子もない。蝙蝠は少し考えた後、彼女に向かって言った。 「……では、"祐未"。ネルガルについて説明して貰いたい」 突然の呼び名にY21は首を傾げる。 「祐未?」 「少なくとも君の偽造パスポートにはこの名前が使われていた」 「へぇー」 生憎彼女は、自分の呼称にあまり興味が無いのだ。あまりピンときていない祐未に、蝙蝠が再度尋ねる。 「組織について知っていることは?」 「つっても、仕事以外はいっつも檻ン中だからな」 彼女が"ネルガル"について知っていることは思いの外少ない。Y21はネルガルの商品であって、構成員ではないのだ。扱いは末端の構成員以下である。 「あたしのいた研究所はアメリカにあるらしいけど、たぶん本部じゃねぇと思うぜ。使ってた空港はいっつもバラバラだったし、車もヘリも貨物室に窓なんかねぇし、研究所が山奥にあったことしかわかんねぇよ」 ロビンが呻るように呟いた。 「貨物室」 「まあ、生体兵器って要するに商品だし、荷物だからな」 「君、それでよく抵抗しようとか思わなかったな。強いのに」 「抵抗したら頭爆発するようになってんだ。あと逃げても爆発するし、時間内に戻らなくても爆発」 いいかけて、やっと気がついた。今の状況がとても不自然だということに。 [しおりを挟む] 目次 戻る |