消えたdaydream

シークレット・シークレット3


「そ、そんな脅しに、誰がッ……!」

「ほーぅ、なかなか良い根性じゃねぇか」

 ビーストがショルダーホルスターから銃を一丁引き抜いた。右手が男の足に銃口を押しつける。そうしてマフィアの耳に口を近付け囁いた。

「おもしれぇ。足にゴム弾ブチ込まれてもその減らず口が叩けるかどうか試してやる。至近距離から撃ち込めば鉛玉よりヒデェことになるぜ。ホローポイント弾知ってるか? あれと同じさ。弾道が安定しねぇまま着弾するからキリモミ運動おこして身体ん中をめちゃくちゃに這い回る。貫通はしねぇ。鉛玉より速度が遅ぇからな。身体に弾が確実に残るんだ。ものにあたると先が潰れて変形しちまうから、傷口は普通よりかなりデカくなる。足ならまぁ、死にゃあしねぇだろうさ。松葉杖と一生お友達にはなるだろうけどな」

 少女の手が撃鉄にかかる。ガチャリと硬質な音がした。銃口が男の足をゆっくりと撫でて、ちょうど付け根のあたりに押しつけられる。
 男の表情が恐怖に染まり、顔が青ざめた。額から冷や汗が噴き出し、身体は小刻みに震えている。
 ビーストがトドメとばかりに囁いた。

「なに? キズモノにしたら売れるモンも売れないって? 安心しなよ、ちゃぁーんとに売り払ってやるからさ。売春業者ならマダム・ラユネンは知ってんだろ? あのババア、テメェみてぇな奴がキレイ所に嬲り殺されるのがだぁーい好きだったよなぁ……?」

 細い指が引き金に触れたあたりで、とうとう男が悲鳴を上げる。

「うわぁあああああああ!! わかった! 話す! 話すよ! やめてくれ!! その銃をひっこめろっ!!」

 ビーストが男から少し離れた。それでも銃口は足の付け根から離さず、冷たい声で畳みかける。

「なら3秒以内に吐きな。3、2」

「トライゲート橋だ! トライゲート橋のふもとで取引がある! 西側の港だよ!」

 こうなれば彼は、質問になんでも答える人形のようなものだ。少女が笑みを深める。
 首を傾げてわざとらしい猫なで声を出した。

Goodboyいい子だ。さあ、取引相手は?」

「にゅ、ニューヨークの変態だよ! サイモン・アバネシーって奴だ! ガキ専門の店開くのに人数が必要だって言うから!」

 ビーストの表情が変わる。彼女が片目を細めると、マスクも表情筋につられて動いた。

「ほぅ、ゴッサムみてぇな都会からわざわざガキを攫うってか? そんなイカれた計画だれが考えた? テメェか?」

 男が必死に首を横に振る。もはや最初の威勢はどこにもない。滑稽なほど怯えきっていた。

「俺じゃねぇ! 金髪のメスガキだよ! アホみてぇなカッコした、16歳くらいの! ココに頼みに来たんだ! 大金積まれたからやったんだ!」

「ふぅーん。"トライゲート橋"と"金髪のメスガキ"ね」

 ビーストが男に押しつけた銃をホルスターに戻す。それからバットマンとロビンを見てニヤリと笑った。

「だってさ、ボス。思ったより素直な男でよかったぜ」

 彼女の言葉を聞き、バットマンがマントを翻す。

「ロビン、ビースト、トライゲート橋に向かうぞ」

 彼の黒いマントを追ってロビンがまず歩き出した。

「了解」

 少女も男の喉から左手を離す。マフィアが咳き込み肩をふるわせた。彼の仲間は完全に怯えきっていて、去って行く3人を見送るだけだ。
 脅されて情報を引き出された男が、忌々しげにドアのほうを睨み付ける。

「テメェ、クソアマ……汚ねぇマネしやがって……!」

 ビーストは振り返らない。男がさらに表情を歪め、苦し紛れといった感じで叫んだ。

「おいクソアマ! テメェの声、どっかで聞いたことがあると思ったが……思い出したぜ! テメェ、"ウリディンム"だろ! "kills ROBIN"のウリディンムだ!」

 ビーストが立ち止まる。それに気を良くしたのか、男がさらに声を荒げた。

「テメェが自警活動なんざ笑わせやがる! 俺は知ってんだぜ! テメェのフィルムだっていくつも捌いたんだ!」

 少女がゆっくりと振り返った。マスク越しの目が赤い。すぐ近くにいたロビンの背筋に悪寒が走った。自分に向けられたものではないが、凍り付くような殺気。彼女はショルダーホルスターに手をかけている。その銃から発射されるのはゴム弾だ。この距離で撃てば死にはしないだろう。
 だというのに、身体が震えるほどの殺気だ。

「テメェ、去年のビデオでロビンのコスプレしたガキをぶっ」

 彼は最後まで言葉を言えなかった。バットマンがドアの近くから男の目前まで一足飛びに近づき、その勢いのまま敵の顔面に拳を叩きつけたからだ。
 ひどく重い音がして、男がゆっくりと仰向けに倒れた。すぐ背後にあった壁に背中を叩きつけ、ずるずると座り込む。白目を剥いているので気絶したのだろう。前歯も折れたようだ。
 バットマンは男が黙ったのを確認すると、怯える他のマフィアどもを無視して再び店の外に出た。

「無駄話に付き合っている暇はない。いくぞ、ロビン。ビースト」

 ビーストは忌々しげに舌打ちして、構えようとしていた銃を元に戻した。彼女にしては珍しい対応だ。たいてい仕事中皮肉げな笑みを浮かべているのに。

「いこうぜ、ロビン」

 そう言った時には、既にいつもの彼女に戻っていた。あの殺気も忌々しげな舌打ちも、一瞬のうちに消えてしまった。

 ロビンはバットマンが、ビーストの過去について自分になにか隠しているのだと気づく。しかし問うている場合ではないし、そもそも訪ねて良いものかもわからない。
 結局彼は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしたのだった。
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