kills ROBIN3「……なんでそんなこと言うんだ?」 「なんでもなにも事実だ。お前は認めたくねぇかもしれねぇが」 ああほら。 頭のどこかが冷静にそう呟くのと同時に、他の部分にカッと血が巡るのを感じた。少女の肩を乱暴に掴む。力を入れすぎたのか、薄いシャツ越しに祐未の身体が跳ねた。 無理矢理振り向かせようとすると、少女が声を荒げる。 「おいディック!」 知ったことか。最初に挑発してきたのは彼女の方だ。手を振りほどこうとする祐未の頭からタオルをはぎ取る。 シーツの上に布が落ちた。 黒い瞳がディックを睨んでいる。今までどんな表情をしていたのかはわからなかった。 負けじとディックも少女を睨み付ける。 「君が世界に失望するのは自由だ。諦めるのも、勝手にすればいい」 ディックは世界がどうしようもないとは思っていない。でも結局それは、祐未ほどの地獄を見ていないからかもしれなかった。 祐未のように他人を踏みにじってしか生きられない環境に置かれたらどうなるかわからない。耐えられずに死んでしまっていたかもしれないし、祐未のように絶望して世界に唾を吐き捨てたかも知れない。 だからそれに関しては良い。いつか彼女が変わってくれればいいとは思っているし、世界に希望を持ってくれれば嬉しいとは思うけれど、無理強いはしたくない。 今は、生きようと思ってくれているだけでも充分だと思えた。 世界には絶望して命を絶つ人間がたくさんいる。 けれどひとつだけ、どうしても許せないことがあった。 「だけど僕もブルースもアルフも、君になにも失望してない。バブスだってフィルムのことを知っても君に失望したりしないはずだ。勝手に僕らを諦めるのはやめてくれ。勝手に僕らとの間に壁を作るのはやめてくれ!」 ブルースは祐未に手を差し伸べた。ディックもそれを素晴らしいと思った。フィルムの話を聞いてなお、ブルースもディックも意見を変えるつもりはない。 なのになぜ、手を差し伸べられたほうの祐未が先に諦めてしまうのだろう。 それがどうしても許せなかった。 祐未が一瞬顔を歪め、痛みに耐えるような表情を作る。腕に力を込めすぎたのかと少し怯んだ瞬間、少女の腕が彼を突き飛ばす。 「うわっ」 ディックの身体がベッドに沈んだ。スプリングが軋む。祐未は座ったまま、少年から目を逸らした。 「テメェが、なにいってんのか……わかんねぇよ」 ディックがゆっくりと起き上がる。シーツの上に肘を突き、相手を見上げた。 「本当に?」 自覚がないのだろうか。わざと距離を置こうとするような言動にも態度にも。 どうせ離れていくのだからと言わんばかりに、先に自分から離れていこうとするような行為にも。 ディックは不愉快だと思った。 こちらは手を離す気などないのに、勝手に『どうせ手を離す』と思われるのは業腹だ。 いつか見捨てられると思われるのは不愉快だ。 こちらは相手を信頼しているというのに、信用さえしてくれないのは悲しかった。 けれど祐未は頑なにディックから目を逸らし、感情を押し殺した固い声で言う。 「ああ」 彼女はディックがこうして無理矢理距離を詰めてもなお、壁を作っている。 信頼も、信用さえもしていない。 「……そうか」 少年がベッドから立ち上がった。これ以上言葉が見つからない。きっと今の彼女になにを言っても無駄だ。 話し合いの余地はない。 諦めて部屋の扉をあけた。出ていく瞬間、まだ顔を逸らし続ける家族に向かい呟く。 「……また明日。おやすみ、祐未」 返事はない。 ドアが閉まっても、祐未は俯いたまましばらくベッドに座り込んでいた。 [しおりを挟む] 目次 戻る |