消えたdaydream

irony


 バーバラがバットケイブを訪れた時、空気が妙に張り詰めていた。
 既にコスチュームを着た祐未とディックがそれぞれ離れた場所に座っており、バーバラに気づいた祐未が片手を上げる。

「よっ、バーバラ! 迎えに行けばよかったな」

 その声に不安や怒りは感じられない。

「別にいいわよ。それよりなに? なんでそんな離れて座ってるの?」

「なんの話だ?」

 彼女にこの空気の原因を話す気はならしい。バーバラはひとつため息をついて、仕方なくコンピューターの前に座ったディックに近寄った。

「ディック? どういうことなの?」

「別にどうもしないよ」

 彼の方はいつもより声が固い。視線も頑なにコンピューターから外さない。

「そうは見えないけど」

「それより、コーヒーでも飲んだら? アルフが今淹れてくれてるから」

 どうやら彼も重苦しい空気の理由をバーバラに教えてくれないらしい。
 彼女が弟分に小言を言う前に、執事が丁度良いタイミングでコーヒーを持って来た。

「どうぞ。ミルクと砂糖は1つずつでよろしかったですかな?」

「ええ。ありがとうアルフ」

 バーバラがコーヒーカップを受け取り、香りを楽しんでから口付ける。
 祐未もアルフからコーヒーを受け取っていた。
 シュガーポットとミルクピッチャーも受け取っている。

「祐未様、あまり砂糖を入れすぎると身体に悪うございますよ」

「でも苦いと飲めねぇーんだよー、甘いほうが好きだしさー」

 いつもはここでディックが子供っぽいとか味覚音痴とか言ってからかうはずなのだが、彼はさっきから何も言わずブラックコーヒーを飲んでいる。
 祐未にいたってはわざとらしいまでにディックから視線を外し、砂糖を大量に投入していた。
 それだけならまだしも、よりによってティースプーンでかき混ぜるのを忘れたままコーヒーを飲んでいる。
 案の定彼女は目を白黒させて叫んだ。

「苦っ!」

「だって貴方混ぜてないんだもの」

 バーバラの指摘を聞いて、祐未が舌を出す。

「ちくしょう忘れてた」

 いよいよ様子がおかしい。
 見かねたバーバラがアルフレッドにそっと訪ねた。

「ふたりともどうしちゃったの?」

 するとアルフレッドもバーバラ同様、そっと彼女に顔を近付け答えてくれる。

「どうやらそれが、昨日喧嘩をされてしまったようで」

「あら……」

 しかし小声の会話は当事者たちに聞こえていたらしい。
 彼らはまったく視線を交わさず、しかしまったく同じタイミングで反論してきた。

「「喧嘩なんかしてない」」

 バーバラとアルフが視線を交わし、肩を竦める。
 それから少女が呆れたように訪ねた。

「じゃあなんでこんなに空気が張り詰めてるのよ」

 祐未はようやく均等に攪拌したコーヒーを飲み干して答える。

「気のせいじゃねぇの?」

 ディックはコンピューターから目を逸らす様子がなかった。

「自分たちだけで自警活動するから緊張してるんじゃないか? 僕は平気だけど」

「あー、つまり私がピリピリしてるからってこと?」

「さあね」

 ディックが多少生意気なのはいつもの事だが、それにしたって今日はトゲがある。
 いちいちまともに取り合うのも面倒になったバーバラは、結局腰に手を当てて

「まったく。別になんでもいいけど、連携はちゃんとしてよね」

 と言うに止めたのだった。
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