スリーピングゴッサム セシリアがウェイン邸の屋根に移動すると、冷たい風が頬を撫でた。 髪が視界を遮ったのでかきあげる。 夜の闇に浮かび上がるゴッサムの夜景が飛び込んできた。 彼女の能力で宙に浮いたロビンは気絶したままだ。それでも彼女は少年に向かって語りかける。 「ゴッサムって賑やかな街よね。いつも誰かが楽しそう」 返事はない。セシリアが微笑んだまま夜景に向かって手をかざした。 「好きじゃないわ」 風とは別の力で少女の金髪がたなびく。セシリアの身体全体が淡く発光し、街の方から轟音がした。 「私以外全員眠って貰いましょう。邪魔者が出ないように」 街の明かりが消えていく。鳴るはずのサイレンはいつまでたっても聞こえてこない。 少女が愛おしそうに目を細め、ロビンの頬をそっと撫でた。 「ロビン、貴方が目覚めた時には私と一緒にネルガルにいるのよ」 冷たい風が吹いている。 ふたりの姿は一瞬にして屋根の上から消えていた。 彼女が一晩で眠らせた人間は630万人に登る。 この事件は"スリーピングゴッサム"と呼ばれ、死者50名、重軽傷者100人以上の大災害に発展した。 人々が突然眠りについたことにより多数の事故が同時多発的に発生。火災や交通事故、転落事故など一晩で起きた事故は数え切れない。 この数多の事故に隠れた不思議な現象は、人々の間で囁かれる都市伝説となり、稀にテレビなどで面白半分に紹介される程度の存在になった。 即ち"この時眠っていた人々が、近しい人間と同じ内容の夢を見ていた" ひとりの少女が使った大規模なテレパシーの弊害だろうか。 親しい人間との間で精神の混線が怒ったのだ。 無論それに気づいた人間はいない。そもそもスリーピングゴッサム事件は原因不明のまま、"精神の混線"とともに都市伝説となったのだから。 [しおりを挟む] 目次 戻る |