消えたdaydream

真実の血清その2


「あたしの血はな、傷も病気も治す代わりに息するだけで死ぬほど痛ぇ身体に変えちまうんだと」

 彼女の声が男に届いているかどうかは疑わしい。マフィアはただ床を転げ回ってのたうち廻っていた。

「ひっ、ぎぃっ! がっ、いだっ、いだっ、あぁああああっ!」

 ビーストが男に近づいていく。乱暴に赤い髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる。

「安心しろよ、一生その身体ってわけじゃあねぇ。そのうち効果は切れる」

「がっ、ぐぎゃ、ぎぎっ、うぐあぁああああっ!」

 マフィアが暴れた。祐未は相変わらず冷たい目と凶暴な笑みで男を見ている。

「早く喋りな。でねぇと血を追加するぜ。どんな傷でも治る不死身の身体だ」

 あらゆる傷も病気も治す代わりに、激しい激痛をもたらす身体。それを拷問に使うというのだから末恐ろしい少女だ。"治す"という特性よりも先に"痛み"という特性に注目した。彼女は、死なないということすら痛みを与える上でなんら不都合でないと知っている。
 バーバラはそれが、彼女の人生経験を象徴しているように思えてならない。

「まあ、頭やられたらマズいかもな。衣擦れだけでも痛ぇのに、どんだけ痛ぇと思う?」

 少女がホルスターから銃を抜き、男の頭に突きつけた。銃口の感触すら彼にとっては激痛だろう。
 苦しそうに呻く男を見てビーストが笑みを深める。彼女は鋭い八重歯をむき出しにして、わざとらしく猫なで声をだした。

「前は足だったが、今は遠慮なく顔でも腹でもぶち抜けるわけだ」

 男は痛みで半ば理性を失っていた。口の端から唾液を垂れ流し、獣のようなうめき声を吐き出す。

「がっ、あ゛っ、わ、わがっ、わかったっ! わかった言う! 取引の時、がっ、あ゛っ、あいつのアジトに行ったっ! ミッドタウンのはずれにあるっ、ぐっ、あ゛、廃病院だよっ!」

 牢屋の外に立っていたバットガールが顎に手を添える。心当たりがあった。

「元サントクィド病院ね」

「そうだっ! そうだよっ! あ゛、がっ、ぁ゛あ゛、あの女、居場所変えてなきゃ、がっ、そこにっ……いるはずだっ!」

 ビーストが笑う。銃をしまい、男の身体から手を離す。

「Goodboy!」

 男がまた地面に倒れ込んだ。痛みで身体を小刻みにふるわせていた。祐未はすでに彼への興味を失い振り返らない。

「じゃあ行こうぜ、バットガール」

 ビーストの言葉を聞いてマフィアが悲鳴を上げた。

「おっ、おい待ってくれっ! ぐっ、がぁっ……! これ、これっ、治してくれよっ……!!」

 祐未が背を向けたまま答える。

「大丈夫さ。まあそのうち治るだろ」

 バーバラは男に対してヒラヒラと手を振った。

「ごめんなさいね。どのくらいの時間で効果がなくなるのか、まだきちんと調べてないのよ」

「そんなっ、ひっ、ぎゃぁああああ!! あぁあああっ……!」

 牢屋が閉ざされ、バットガールが施錠をし直した。ガシャンと重い音がする。まだマフィアの悲鳴が建物中に響いていた。
 バーバラが言う。

「刑務官を起こさなきゃね。この悲鳴で他の連中が起きるかもしれないし」

「そうだな」

 目指すはミッドタウンにある廃病院だ。
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