否欲自殺鬱 -Not masochistic feeling depression day-
電信柱にもたれるように座っている幸稔の姿。
周りには何故かたくさんの猫が群がっていた。黒に茶トラ、ふわふわした毛並の丸い顔の猫……、まるで幸稔に餌をねだっているようにも見える。それかマタタビでも持っているのではないかという目でしか見れない。
けれどもその当人が動かない。猫が頭をこすりつけようとも、手を舐めようともされるがままで動かずただまっすぐ視線を張っている。そこに何かがあるわけではない。同じように電信柱が立っているだけだ。面白いものが見えるわけではない。
不審に思い声をかけた。昨日の今日である。色々と聞きたいこともあったというのが理由だ。
声をかけるとぼーっとした様子で頭をこちらへ持ち上げる。目がカメラレンズのようにピントを合わせるようなそんな雰囲気で動き、脳が認識したのか彼はだるそうにあくびをすると何事もなかったように挨拶をした。よいしょっとズボンを叩いてそのまま学校へ向かう。
「ちょ、おい!」
急いで後を追う。その場に残された猫たちはみーみー鳴いている。それを横目に彼を追いかけた。
また大きなあくび。道行く人、すれ違う生徒などに声をかけられれば挨拶を返す。そんな彼の後ろを歩いていた。
(あー…なんで私はこんなやつの事が気になるんだろうか……)
「じゃ、もう関わることはないと思うけど、学校頑張ってね。みずきちゃん」
手を微かに振って昇降口へと向かう幸稔に、はっとして後を追う。先程から彼を追ってばかりである。彼に追いついたかと思えば既に彼は生徒に囲まれていた。大体女子であるが。
「おはよー幸稔くん」
「ああ、おはよ」
そっけないと言えばそっけない態度だ。けれどもそんな彼に対して嫌な気を感じている者は居そうになかった。所謂人気者ってやつだろうかと泉希は思った。帰りにでも昨日の事は聞けばいいだろうと軽く考えていた。朝、猫に群がられていた姿は思い出すだけで笑えてしまう。けれどもその目はやはりどこか遠くを見ていて無関心さを漂わせていたことを、思い出させた。
彼とはクラスも違う。年は同じだと思う。接点なんてないのにあの瞳が気になって仕方なくなる。
頬杖をついて外を眺める。グラウンドには誰も居ない。教室の窓から見えるその景色はいつもと変わらない、けれどこんなことを授業中にしていること自体珍しいことだった。
「一瀬、次読んでくれるか?」
頬杖を外し、席を立つ。開かれた教科書を持ち読みはじめる。どこまで読めばいいのかわからずとりあえず制されるまで読んだ。こういう場合、慌てふためいたりとか、隣の人に何処とか聞くのが普通なのかもしれない。けれど頭はちゃんと働いてる。ただぼーっとしているわけではない。そう自分では思っていた。
読み終わると黒板に目をやり、必要個所を書き写す。そして気が付くとまた外を眺めている。
本当にどうしてしまったのだろうか? 自分で自分に問いかけた。
「おい、一瀬今日はどうしたんだよ、外なんか眺めてさ」
クラスメイトが話しかけてきた。
「さぁ? 私にもよくわからない」
「自分の事だろうが」
どっと笑い出すクラスメイト。そんな様子に小首をかしげた。そんなに自分の行動はおかしかったのだろうかと。もしそうであるならそれは昨日の彼のせい。サジというあの不安定な彼のせいだと心がもや付いた。
――音楽室。
「……死にたい」
はぁっと溜息を吐いた。ぼそりと小さく呟いた声は誰にも届かない。届いても対応に困る。なら口にしなければいいとも思うのだが、気が付くと大体口にしている。一種の癖のようなものになっていた。
何が楽しくて歌を歌わなくてはならないのか、楽器を演奏しなければならないのか。それで評価をつけられる身にもなって欲しい。好きでもないことをやらされて何の役に立つのだろうか?
国語だとか数学とかはそれ相応だとは思うが音楽って心を豊かにするため! みたいなこと言われたらはっ倒したくなる。
教科書に載っている偉大な作曲家たちに平然とらくがきをするのが学生というものだ。しかしそんな気は起きずただ、らくがきの変わりに台詞を走らせた。
ベートーベンには『まだお前は死ねない理由があるのだ! そう、これは運命だ!』とか書いてみた。うん、我ながら上手い。運命なだけに。くすっと小さく笑った。
シューベルトには『なんならこの私が刺殺してやろうか?』とか書いてみた。どう見ても写真に載ってるペンは小さな矢にしか見えない……。隣のページには魔王の歌詞やらなんやらが載っている。CDで曲を聞かされたが爆笑ものだと思う。いや、周りはアホみたいに笑っていた。
内容はとても笑えるものではない。けれど、日本語に直してしまうとそれはそれで台無しになるものもあるんだなと心が痛んだような気がした。本来はドイツ語で歌われたりというものがあるらしい。気が向いたら聴いてみようかとも思った。それまでにオレが魔王と手繋いでなければ。
(なんだ? 今日はやけに冴えてる? 結構上手いこと考えるじゃんオレ……)
学校も授業も、流れるように過ぎてゆく。家に帰ったって誰も居ない。気ままに過ごせる。けれど最近はどうしてか口癖にさえなってしまった。死を求めることが多い。けれどそれが実行できずにいる。
(昨日は出来ると思ったのにな……)
脳裏に髪の長い女子生徒……否、男子生徒を思い出す。
あのオンボロ歩道橋の上から、身を逸らしてそのまま頭から落ちれば、きっと成功していた……と思う。しかも五分置きで電車も来るので失敗したとしても、電車で轢き千切られるから確実だと思う。
ふと考えてみた。
視界に景色を映して、その後目を閉じ暗転の中、地面からゆっくりと足を離して傾く体が、重力に従って頭に重心を集め下へと落下する様を。
グシャリといった音でも出るのだろうか? それとも鈍い鉄の音でもするのだろうか? 地面に埋められた鉄骨の線路に頭蓋骨が直撃して鈍い音を放った後、カルシウムで出来た脆い骨という頭蓋骨は砕かれて、見たこともないようなドロドロとした物体が液体と固体とが混ざったそれが、自分の中から飛びだして動かなくなるのを。
その動かなくなった自分の姿を。人を奇異的な目で見るだろうか、目を逸らすだろうか凝視するだろうか。
頭を授業に戻す。
けれど授業内容はあまり頭には入ってこなかった。時間だけはゆっくりと過ぎ去る。楽しい時間はあっという間というのは時々正解で不正解。人間の時間の感覚というものも気紛れなのだろう。長く感じた音楽の授業が終わる。生徒たちは教室を出て行き、自分らの教室へと向かう。
太陽は傾く。ゆっくりと。
そして学生にとっての一番の楽しみと言われる時間がやって来た。
「飯だ―――!!!」
わぁっと教室は空っぽになる。一人残された教室。何を思うでもなく教室を出ていく。この時間は昼休みではあるが購買部に人気のパンだとかがあるため競争率が激しい。一種の戦争みたいなものだ。
(はぁ………、昼飯かぁ……だるいな)
ちらっと購買の方に目をやる。そこには食べ物に飢えたように血眼で弁当やらを手にする生徒の姿が映る。現実と理想なんてかけ離れているものだ。
『今日はメロンパンにしようかな』
『イエーイ! 焼きそばパンとプリンゲットー!』
『後で一口頂戴。あたしのゲットしたマカロン少しあげるから!』
なんて微笑ましい光景なんて、探したところで本の中か映像の中だ。現実は飢えた獣状態だ。どんな状況で購買部を利用するかは知らないが、ただ単に寝坊して弁当忘れただけならこの購買部は悲惨だろう。とにもかくにも この学校(うち)の購買部は限定食が多すぎるのが問題だと思う。
だからこう落ち着いて買い物もできないのだ。
幸稔は屋上へと上がる。
学校の中でもここは一番のお気に入りかもしれない。次があまり生徒が使用しない第二図書室。
「はぁ……死にたい……」
ドアを閉め空を見上げた。時計が掛かった少し高くなっている建物。無論中に入ることはできないが時計の点検のため備え付けられている梯子が建物には取り付けられている。上に上がることはできる。
幸稔は銀色の梯子を上り時計の傍まで来た。大きな時計。離れた所から見て見えるのだから近くで見たらそれなりに大きいとは思っていたが、長針と短針がまるで凶器の様に鋭くて思考が繋がる。
「この針にでも刺されたら死ぬよな。まぁ横にしか移動しないし……――あ、長針を曲げておけば時間が来たら貫通するか?」
「……誰かいるのか?」
「!」
下から聞こえた声にそっと下を覗き込んだ。しかし影になっているのか声の主は見えなかった。別に気にすることではない。ごろりとその場で寝転がる。空だけは本当に高くて手を伸ばしても触れない。伸ばした手を落とした。
「ちょーだるー…」
喉に軽く違和感あるけだるさ、なんだか眠い。昼を喰わずにこのまま昼寝をしてしまおうかと目を閉じた時だった。上から声が降って来た。めんどくさそうに片目を開ける。太陽を背にした人影逆光でシルエットしか伺えない。
「だ、れ?」
「私だ」
その声に驚き目を見開く。二人の間を柔らかい風が通り抜ける。
「みずき、ちゃん……?」
「だから、」
そこまで口にして音を紡ぐのをやめた。口元に手を当てて少し考えてから口を開いた。
「私は
一瀬泉希。見た目がアレだからよく女子に間違われるが男だ。わかったか? サジとやら」
「え……、オレも自己紹介的なのやるの?」
ぽかーんとしてそんな返答が返って来た。普通自己紹介されたらするものだろうと泉希は思った。これは個人的な意見ではあるが……。
めんどくさそうな顔をして、彼は体をだるそうに起こすと泉希の透き通った瞳を見て
「……
幸稔。オレの名前ってさ、幸せが
稔るって書くけどさ、しょーじき名前合ってないんだよね。最近はずっと死にたいって思ってる。そんな変人ですよーっと、じゃあ」
それだけ言うと視線を外して再び寝転がってしまう。
「死にたいってなんで!?」
「なんとなく」
「ってかお前昼は?」
「持ってきてない。購買は買う気失せたから要らないやって。もしかしたら空腹で死ねるかと思って……」
無気力にも質問には答える幸稔。そんな彼に泉希は彼を無理矢理引っ張り起こすと、鞄の中に突っ込んでいた弁当を差し出した。
は? という表情で泉希を見る幸稔。有無言わさず食えと言った。渡された当人は意味が分からないとばかりに固まっている。一向に手を付ける気配が感じられないのが気に障ったのだろう。弁当を取り戻す。弁当を開けると適当におかずを掴んで幸稔の口の中に突っ込んだ。
「ん?!」
目を白黒させる。
(な、何してんだこいつ……)
口の中に香ばしい香りとじゅわっとした肉のとろけた感触。肉の
甘みを感じた。どうやら唐揚げでも突っ込まれたようだ。突っ込まれたものを毒でもないなら吐き出すわけにもいかず仕方なく飲み込んだ。毒でも飲み込む気はあるけど。
「何してんだ、お前……」
「昼飯を食わないというから私の弁当をやっているだけだ」
「いや、そしたらお前が昼飯ないだろ?」
「心配には及ばない。私は購買で焼きそばパンとカツサンド、野菜ジュースも手に入れている」
ふふんっといったように言ってのける彼。どれだけ食う気だと少々胃もたれ感を覚える幸稔。彼の弁当は二段重ねの普通の弁当ではあるがそれに先程の量のパンを合わせるとえらい食べようだ。見た目も女子に見えるのでギャップが激しい。これが体育会系だったらまだ入るんじゃないかとか言えるのだが。
わかったなら食えと弁当を膝の上に置かれる。それには幸稔もげんなりした様子で深く溜息を吐く。
「ちょーうざい」
置かれた弁当箱を手に取ると渋々と箸を動かし始めた。その行動を見て泉希は微かに口角を緩め笑った。
なんとも微笑ましい男女に見える構図だった。
泉希も昼飯を口にし始める。
普通の学生の他愛もない昼飯風景。特に話すこともなくただ黙々と食事を摂るだけ。だと思っていたが時折話しかけられた。最低限のマナーを守っての事だ。泉希は話しかける時は全て飲み下してから話す。こちらから質問のような返答をすると、少し時間を置いて答える。どうにも時間が掛かる場合は手を口元に当てて遠慮がちに返答する。男にしてはそれなりにマナーのいい方。珍しい方である。
まず自分の周りにはあまり居ない希少種的存在だ。
そうこうしている内に昼休みが終わりに近づく。気づけば渡されたお節介弁当を全て平らげていた。後味が悪い。
「口に合ったようでよかった」
そう言うと泉希は幸稔から弁当一式を手元に戻すと、鞄の中にしまい残り時間を遠くを見ながら過ごした。
弁当箱洗って返すとは言ってみたものの必要ないと断られた。チャイムが鳴る前に彼は降りて屋上を後にした。残ったのは空虚な満腹感と、満たされない心。
「死にたい……」
その場に立って下を見下ろす。屋上まではそれなりにある。けど死ねないのだろうと直感は働く。それでもいいやとその場から体を下へと降下させた。鈍い痛みと痺れるような感覚。地面に体が叩きつけられただけで痛みが全身を走る。
「……いってぇ」
すぐに立ち上がれなくてぼやく。打撃を受けた体は暫くすると動くようになった。一瞬の痛みに機能が麻痺したようだ。血も出てない、ただ痣が出来てそうな痛みだけが手足を纏った。
(授業行くのおっくうだな……)
体を引きずるように屋上を後にした。教室に戻ると授業は始まっていて自分の見てくれに教室は騒いだ。
(流石にうざすぎ。学校ではあまりこういうのしないようにしよ……)
改めて誓うのだった。
その日の帰りまた彼に会った。
「ちょーうざい……」
「そういうのは私がいないところで言うか自分の中で言え……」
眉間に皺を寄せる泉希。
「だったら一緒に居るなよ」
「まだ話が終わってないからだ」
「話?」
「昨日の事だ。昼にも聞いたが明白な答えは聞いてない」
そう続ける彼に何のことだと目が虚ろになる。
「その前に、なんだ、その格好は!」
無関心な彼に指摘した。昼会った時とは違いボロボロの彼に事をただす。
「あ? 別に学生ならこんなの普通だろう」
「普通じゃない! どうしたらそんなにボロボロになるんだ。喧嘩か」
「オレ喧嘩とか面倒なことしないし」
「じゃあなんだ?」
その視線が鬱陶しく感じた。なので適当に言ってさっさと帰ってしまおうと思った。
「転んだ」
「嘘つけ!」
「……女子みたいなみずきちゃんには言われたかない……」
かっと赤くなって幸稔に拳がとんできた。が、それをかわして幸稔は足早にその場から逃げた。
「あいつ……」
待てと叫びながら後を追う。どうせ駅で追いつくそう思っていた。
しかし駅に着き、改札を通ってホームにやって来たが彼の姿がない。昨日の歩道橋にもその姿は確認できなかった。
(何処に行った?)
そうこうしている内に電車がホームに入ってくる。このまま帰ってしまっていいのだろうかとも思ったが、探すあてもない。仕方なく家路につく。
電車の中、夕方ということもありいつもは比較的空いているのだがそれなりに押し詰まっていた。
電車という密閉空間では一人の迷惑行為が多者を巻き込む。まさに今の電車内がそれだった。車両に充満する異臭。軽く酔いそうだ。強いアルコールの匂いと甘ったるい化粧の匂い、頭痛がする。
泉希は何とかその匂いに耐え最寄り駅で倒れた。
(少しは迷惑を考えてほしいものだ……)
口元に手を当てる。顔色は物凄く悪いのだろう。寒気と吐き気を感じていた。
泉希は駅を出て自宅へと向かう。駅から徒歩二十分という距離だ。住宅街を過ぎると造りの違う住宅街に出る。ぽつりぽつりと建つ家屋の中で一番の日本家屋を思わせるそれが彼の自宅だった。
「ただいま……」
中から返事が返ってくる。長い髪を結いあげて和装をした綺麗な女の人……。否、男である。
「おぉ、帰ったか。泉希今日はどうだった?」
「どうっていつもと変わらないよ。女子にやたら構われるし、シキタリっていうけど何で男の私がこうも髪を伸ばしてないといけないのですか?」
「そう言うな、現に私だってお前と同じじゃないか」
笑顔で答える彼に諦めたような顔で息を吐いた。
「兄さんは別に女子にからかわれたりしないでしょう……」
家の家系はシキタリにより男であるにもかかわらず髪を伸ばすことになっている。その所為で昔から女系家系だと思われてきたほどだ。
「泉希は私と違い容姿端麗。しかも料理も出来るから余計に女性に間違われるのだろう」
「容姿端麗は兄さんもでしょう」
「まぁこの話はもういいだろう。夕飯が出来ている」
「髪切っちゃ駄目ですか……?」
「だ、駄目に決まっているだろう! これは我が家系のシキタリなんだぞ」
「今どき忍の家系って言われても信用されないような時代だっていうのに、なんでこんなにシキタリシキタリって……。別に誰かに怒られるわけでもないのに。たかが髪で」
「あぁ、居るぞ、忍の家系の奴。私の友人の
日向がそうだと聞いている」
「兄さんの友人は知らないよ。それよりもう寝ます」
「ええっ、夕飯はどうするんだ!? 泉希」
「凄く気分悪いので結構です……」
顔色の悪い弟に手を当てる兄。
「熱はないみたいだな。確かに顔色は悪いが、何か変なものでも食べたのではないだろうな?」
「変なもの? 食べてないですよ。今日は焼きそばパンとカツサンドとか食べましたけど」
「泉希! お前弁当を持って行ってそれだけでは足らずそんなに暴食して……どうりで顔色が悪いわけだ」
「……顔色悪くて体調不良なのは電車のせいです。じゃ、少し休んだら夕飯も食べますので放っておいてください」
溜息を吐くとそのまま部屋の戸を閉めた。
「はぁー……疲れた……。なんであんなに過保護なのかな……
涼子兄さん……」
鞄を置くとそのままベッドに倒れ込んだ。畳にベッドなんとも歪な部屋だ。もう慣れてしまったけど。
真っ暗な部屋。
家に帰っても誰もいない。喧嘩しようが、家の物壊そうが何も言われない。
(そんなことしようとも思わないけど)
暗がりを手探りで探す。それに手が触れるとそれを握りしめ一呼吸する。昼間のあれが痛い。けれど気にしない。チチチッとそれを出す。小刻みで心地よい響きと震音。
「リストカットってさ、なんで自殺の象徴みたいなイメージついちゃったんだろ……? こんなところ切っても死なないのにな」
むき出しの銀を首に滑らせる。かゆくざわつく冷たさ。それを滑らせ顎、目の下へと持ってゆく。そして目の下に先を押し当てると直線を描いた。
面白いように何かが流れる。熱くて冷たくて訳の分からない心地。涙を流しているようなそんな錯覚を思わせる。痛みはあっという間になくなる。残るのは流れている感覚だけ……。
「オレは、死にたいんだよな……?」
鏡に映る自分の姿。微かな光だけでは見られないその姿。ただ、自分に問いかける。鏡の中の自分へと……。
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