厄日-Unlucky day-




 気が付くと探してた。
何故だろうかと思うよりも先に兎に角会わなければという使命感に駆り立てられていた。
ふわりとしたスカートをふたつに結った髪を揺らしながら、その者はある人物を探していた――。





 十一月。
もうすっかり肌寒さが寒さに変わりつつある時期。本日は学園祭。
(あー……、めんどくさい)
「あ、幸稔くん! ちょっといいかな」
同じクラスの女子に声をかけられる。ちっともよかないがにこっと軽く笑って答える。女子生徒が必要物について話している。オレのクラスは面倒にもかかわらず茶店系をやることになった。料理にテーブルの用意は勿論、食品系を扱うものをやる場合には事前に検便というめんどくさいオプションが付くのだ。変な病気でも持ってて食品に移ったらそれこそ大惨事になるっていうあれだろう……。
「わかった、足りなくなった材料を急いで買ってくればいいんだね」
「ごめんね」
「いや、大丈夫。オレ何もしてなかったし、本当はそっち手伝えればいいんだけど」
(頼まれても嫌なんだけどさ……)
「ううん、幸稔くんかっこいいから、幸稔くんにばかり仕事行きそうだし。もしやるんだったらもう少し人が減って来た頃にお願いしようかな……なんて」
「お客さんいない中でやってもな……、まぁいいや、こんな怪我してるんじゃお客さん引くだろうしな。じゃあ急いで買ってくる。それまで頑張ってね」
ぽんと肩を叩く。おそらくこんなことしたらセクハラだとか言われてもいいと思うのだが、そういう目に合ったことが今の一度もない。というか顔を赤くされて終わる。周りはかっこいいとは言うものの……、大半は女子に言われるのだが。その自覚はない。
渡されたメモを手に昇降口へと向かう。
「待てー!」
後ろの方で声がした。野郎の声が複数。
何だとばかりに後ろを横目で見る。メイド服を着た女子が男子生徒及び学園祭に来ている一般男性に追われてる。
(うわーめんどう……)
巻き込まれないように廊下の端へと移動した。だが、あろうことかそのメイド女子がオレの腕を引っ張っていった。
目の前に複数の野郎。凄く嫌なことに巻き込まれたとがっかりした。クラスの出し物の手伝いもしていなかった罰かと、少しばかり自分を恨んだ。
「あの、いくらなんでもこんなに男が寄ってたかったら怖がると思うんだけど?」
「アァ? お前他のクラスの野郎だろう、関係ないだろ」
「まぁ、確かに関係ないね……、うん」
そう弁解すると後ろでおいと小さく反応された。だが今はそれどころではない。
「とりあえずなんでこの子追ってたのかは知らないけど、女の子を怖がらせるのは止めた方が」
「おい、何言ってんだ?」
「?」
「確かに怖がらせたかもしれないけどそいつ、三組の一瀬だぜ?」
「……いちのせ? 誰?」
「おい、私だ! 覚えてないのかこの変人!」
ぐいっと体を反対側に向けられ目が合う。透き通った瞳に長い髪……。
「あ……」
その顔に思い出す。
「何してんの? みずきちゃん」
「だから! あれほど私は男だと! その呼び方やめろ!」
女子より似合っているんじゃないかと思うほどの着こなし、結ったふたつに分けた長い髪、紺色のワンピース型のメイド服。しかもニーハイにストラップシューズと来た。これで男だと言われても、見た目では判断できない……。
「だから、なんでみずきちゃん追われてるの? ってか追ってるの? オレには関係ないけど。巻き込まれちゃったし気になるし。手短にな。オレ買い物頼まれてるから」
吐き捨てて言う幸稔に泉希ではなく、追ってきた図体のデカい男子生徒がめんどくさそうに答えた。
「一瀬のやつ見た目女子だろ」
「ああ」
「『ああ』じゃない! 納得するな!」
「で、今年から体育館で美男美女コンテストやるから参加勧められてて」
「あー……そんなこと言ってたな。オレのクラスでも」
「で、クラス別じゃなくてもパートナー選んで出ていいコンテストだから一瀬に頼んだんだよ」
「……」
(お前がか? オレから見てもお前は美男って柄では……。寧ろ家畜コンテストならよかったんじゃないか……、多分四組……、のブタ子と出たら一位間違いなしだと思うぜ)
「それなのに、一瀬の奴断ってさ!」
「当然だ!」
「そりゃ当然だろ」
後ろで反論する泉希。とりあえずうるさい。手で彼を制して続けた。
「みずきちゃん女の子じゃないし」
一瞬変な空気が流れた。
「そうかもしれないけどよ、お前優勝賞品何だと思ってるんだよ」
「……何って……、ナニ?」
「知らないからそんな反応なんだよ!」
おおぅとその場の迫力に少し後ろへ体が下がる。だから何だというのだ。たかが学祭のコンテストの賞品なんてたかが知れている。良くてネズミーペアチケットみたいなのだろう。去年の職員が出店していた射的での景品がそれだった。
「驚くなよー、最新ゲーム機ウェアUだ!」
「………なんだ、ゲーム機かよ。くだらね」
聞いて損したと首を動かす。グキ、ゴキッと骨が変な音を鳴らした。
(今ので骨だかどっか傷ついたか? まぁ人間には快楽にしか感じないって書いてあったけど……)
「くだらねって……、ああ! そうだ。じゃあお前が出ろよ」
「……は?」
あからさまに嫌な顔をした。こんな顔女子が見たらおそらく引くんだろうなと思った。
「オレ男、女子とつるむ気はない」
解ったか? というように下から睨み付けた。
「だから、お前と一瀬で出ればいいんだよ」
女子じゃないから女子とつるむわけじゃないだろうと上から見下された。図体がデカいだけの巨漢の癖にと目を横に泳がせる。
「……。はぁ? なんでオレがみずきちゃんと出ないといけないんだよ。ってかオレ買い物あるからそんなコンテストに参加してる時間はない」
買い物ね……と図体のデカいその男は幸稔の手からメモを奪い取ると、買い物なら俺が行ってきてやるよとにやりと笑う。
――最悪だ……。

 その後、メモの他にも頼まれてるものがあると大量にものを書き加えてやった。クラスには必要なものではあるから問題はない。
そして今、体育館のステージ前に居る。
「はぁ……死にたい」
「……。すまない私のせいで」
「別に。オレとみずきちゃんが出た所で必ず優勝できるって決まったわけじゃないんだし、無理矢理すぎるんだよ。ってかあのゴリラ誰だったんだ?」
「……私も知らない」
あっそと返して、コンテスト参加用紙に記入をする。だが、記入用紙には男女で名前を書く欄がある。うちの生徒なら一発でバレる気がするのだが、もう面倒だったので女子の方に泉希の名前を書く。
「あ、そういや漢字どう書くんだ? みずきちゃん」
「あ……ああ、泉に希望の希だ。……いちのせも"の"の部分は要らないからな。数字の一に逢瀬(あいせ)の瀬……」
「あいせ? ……もしかして逢瀬(おうせ)か?」
そう訊ねられ泉希は一瞬で顔を逸らした。失態を晒したと顔が紅潮する。
「ああ、死にたい……」
「はぁ、ほんと、死にたい」
受付を行っている女子生徒がぎょっとした様子でこちらを見ているのには気づかなかった。こんな場所で死にたいだなんて、普通聞いたら驚くのが普通だ。
周りではこちらに並んでくださいとか、衣装はあちらですとか色々と聞こえてくる。
二人はステージ裏から待合室になっている部屋へ案内される。
 「あ、そういやオレ制服なんだけどいいのか?」
「別に構わないだろう」
「まぁ、そうなんだけどさ。隣にメイド服女子がいるのにその隣が普通の制服ってのもなんか目立って嫌だなと……」
「なんならお前が着るか? 脱いでやってもいいぞ」
そんな泉希をバカかと突っぱねた。
「さっさと終わらないかな……、寝てたい」
怠そうに体を伸ばす幸稔。
「……そう言えばお前のクラスは何やってるんだ?」
「あ? オレのクラスは茶店かな。みずきちゃんたちと似たようなものだよ。お茶出したりお菓子出したり」
じーっとこちらを見てくる泉希に何? と目を半目に近い形にさせる。
「なら、これが終わったらお前はクラスを手伝え」
「いや、オレがやると迷惑掛かるっていうか、そう言われてるんだけど……」
「………」
そうこうしている内に順番が回って来た。
ステージに立つのは本当嫌だった。人前に出るっていうのは抵抗がある……。
 ステージに上がると歓声が上がる。
上がる筈なのだが……、しんと静まり返った。
(ほら、な……。だから、嫌なんだ……人の目は)
特に見せるものもなかった。ステージに立っただけましだと思えとばかりに踵を返す幸稔。そんな彼を泉希は制した。そして、片頬を覆うようにしていたガーゼに手を伸ばした。
「!」
反射的だった、その手を振り払おうとしてバランスが崩れた。ステージに倒れ込む。観客たちが一瞬騒ぐ。
「おま……いきなり……」
さらっと髪が散らばり下りた。結っていた髪が今の拍子で解けたようだ。長い髪が重なった体に幾何学模様を描く様だった。そのままガーゼで隠した頬に触れた。
「やるなら、どうにでもなれって感じだろ?」
ぐっとガーゼを握られそのままそれは剥された。
剥き出しになるそれ。目の下から頬にかけて長い*(あか)の傷。グロテスクなそれに言葉を失う。
幸い後方の者には見えないだろうその傷。その傷を皆に魅せるように立たせ、長い髪で微かに傷が隠れるように前から抱きしめる形をとった。長い髪が、来ていたメイド服が、まるで魔女の様に思えるその光景に回りは息をのんだ。
観客側に目を細めて妖艶的な空気を浴びせた。
おいと声をかけるも反応を返さない。そしてそのままステージを去ろうと手を引かれた。今は何かを言う気力もなくなっていた。
ステージから下りると、そのまま手を引かれ人気がない棟の廊下に連れて来られた。
ステージに立つことは終わった。だが結果を見なければならない。それもお構いなしに泉希は幸稔の手を離せないでいた。
「みずき、ちゃん?」
「すまない、悪ふざけが過ぎた」
それだけ言うと手が離された。けれど思い出したようにまた自然と手を引かれた。
「ま、待て」
黙ったまま泉希は幸稔の手を引いて保健室へやってきた。担当の先生がいない……。
探している時間が惜しいので、彼を適当な椅子に座らせると泉希はガラスケースから色々と取り出した。ガーゼと消毒液と固定テープだ。手際よくそれらを出して手当と保護をする。
「その傷、また死にたくてやったのか?」
「……別に」
頬にまたガーゼが居座り始めた。一本また一本と固定テープが千切られ貼られていく。
「ならそんなことしなければいいだろう。わざわざ隠すんだったらしない方がいい」
「……そう、だな」
いつもの遠さと違うものを感じたような気がしたが、それが何なのか分からない。だから、今は少し落ち着かせた方がいいのだろうかと考え、
「私はクラスの方に戻る、こんな茶番に付き合わせてしまい悪かったな。結果はお前が見てくれると有難い」
そう言って保健室を出て行くことにした。
長い髪を揺らして……。まとまっていた筈のそれが不規則に動いて。
彼もまた暫くは動けなかった。静かな保健室でただ椅子に座りどこか遠く、天井の端の方を見つめていた。
(もう躊躇い傷みたいなのは作らないって決めた……筈だったのにな……)
保護されたその箇所にそっと指先が、掌が触れる。
じわりと熱を感じるそこに瞳を閉じる。固まった傷口から手の温度が直に伝うようだ。
 廊下を暫く歩いた。歩みが段々と重みを増して、止まってしまう。
(あいつ、なんであんな酷い傷……)
思い出しただけで胸が絞めつけられるような息苦しさを感じた。
目の下から一気に引かれた(あか)の固まったライン。黒の塊、暗紅(あんこう)色、鮮紅(せんく)……。琥珀色の塊。
それは繰り返し行われたのだろう、そのラインは歪んで酷く幅を広げているように乱雑なものになっていた。肌色を割いて出来た傷。躊躇いなど微塵も感じないそれに、表情が歪む。
あの日見た傷とは比べ物にならないくらい、深く新たに刻まれたものだった。
(早くクラスに戻らないと……、皆に迷惑がかかる)
一度だけ保健室の方を振り返り、ぽつりと呟いた。誰かに聞かれたとしても、聞き取りづらいくらいの小さな声で。
「………太宰治?」
――みたいなやつだな……。

 「さて、結果見ないとか」
腰を上げ保健室を後にする。体育館へと戻るのだった。あの図体のデカい奴に買い出しは頼んだが、自分のクラスを知っているだろうかという面倒事を思い出し、急いで体育館へ向かった。
体育館ではまだコンテスト最中だった。周りを見渡す、まだあの図体のデカいゴリラは居ない。
 ステージに立つペアは当たり前だが男女のペアだ。中には場違いじゃないかと思うようなペアが出てくる。それは個人的意見のため、問題の範疇ではない。それでも自分たちは男女ではなく、男男というペアだったので気が重い。そうこうしている内に最後のペアだと宣言される。
ステージに立つペアは自分たち同様、立ったはいいがどうしたらいいのかわからない状態でいた。
そんなペアはもうガクガクに震えていて今にも泣きそうだった。
(あー……)
見ていて少し気の毒に思えた。けれども自分もどうしたらいいのかわからないので助言も出来ない。
コンテストの司会をしている女子生徒がその空気に、二人をステージに下げるようにアナウンスをする。
「可愛らしいペアでしたね。ありがとうございました! 結果は皆さまにお配りした投稿用紙に記入していただき前の投票箱に入れてください」
ステージに立っていた二人もどこかホッとした様子でステージ裏の方へ向かうのが人が騒めき出した視界の端に見ることが出来た。
(まぁ、オレたちが選ばれるとは思わないけど。あのゴリラ、因縁つけて来なければいいけど……)
頭の中であのゴリラが買い物袋を持ってやって来て、当たり前顔で自分に商品を寄越すよう迫ってくるのがイメージ出来た。商品がなかった場合のイメージは……――最悪だ…。
 某青い猫作品に出てくるゴリラのような体格のいじめっ子が脳裏を掠めた。
オレはあの眼鏡のいじめられっ子とは違うと頭を振った。だが気が重い。
「……はぁ、死にたい」
司会をしている女子生徒が声を高らかに集計が終わったことを宣言した。
いつも以上に面倒だと思いながら、体育館の入り口に背を預けながらその結果に耳を立てる。
「優勝は七河(しちかわ)伯斗(はくと)さん、泉川(いずみかわ)水畝(みなほ)さんです! ステージにどうぞ」
ぱちぱちぱちと拍手が大きくなる。どうやら生徒以外の参加者のようだ。大学生……もしくはそれ以上だと思う。女の方は物凄く可愛い。男の方はまずまず、あのゴリラよりかは完全にイケメンである。
照れたようにステージでそわそわしている二人。まさか優勝するとは思わなかったのだろう。そんな様子を横目で眺め、結果は結果だと諦めた。あのゴリラにはそう伝えればいいと。
(さて、教室に戻るか……)
預けていた体に勢いをつけて起こすと、渡り廊下を歩いて行く。
「続いて準優勝の発表です! 準優勝は……紅葉(くれは)幸稔(さじ)さん、一瀬(いちのせ)泉希(みずき)さんです。ステージへどうぞ!」
ざわつくような激しい雨のような拍手の中、ステージにその二人が立つことはなかった。
周りの生徒が口々に言う。
「一瀬って、三組のだよね?」
「幸稔くん居ないの!?」
「クラスの方に出てるんじゃないかな」
「呼んできてやった方がいいのか」
「みなさん静かに! えっと、準優勝の二人はここには居ないみたいなので、後ほど伝えるということで――」
「えー、幸稔くん準優勝でしょう」
「優勝と並んでほしい!」
「初めてのコンテストなのに!」
「あたし呼んでくる! 一瀬さんって三組なんでしょ! 行ってくるよ」
「あたしも!」
「しょうがねーから紅葉を呼んできてやるよ」
「えっと……優勝のお二人には少々待っていただく形になってしまいますが、少々待っていただけますか?」
「え、はい」
二人は顔を見合わせてそう女子生徒に返す。
「ちょっと男子、椅子! 二人を立たせたままにしない!」
「お、おう」
女子生徒に促され、急いでステージにパイプ椅子を運び二人に座って待っててもらうことにした。



 「ご注文はハートのクッキーセットとジャム紅茶ですね」
「はいはい! そこのツインテールのメイドさん! 注文良いですかー?」
一瞬左目がヒクッと吊ったようなそんな筋肉の動きをした。周りには気づかれてさえいないだろう。呼ばれたためにその客人の元へと向かう。
紺色のワンピース型のメイド服に、先程女子につけられたリボン型シュシュで髪をサイドで高く結ったツインテールが揺れる。
「ご注文はなんでしょう……」
「あれ、声低い。でもそこがなんかクるよね」
(……こいつもか……)
「オレはアイスティーとスコーンで。お前はパンケーキとレモンティーだったよな」
ああと返事を返しずっとこちらを見ている客人の片割れ。
「レモンティーはホットとアイスがございますが、どちらにいたしましょうか?」
「じゃあホットで」
「かしこまりました」
(まったくもって不愉快だ……)
注文を確認し、オーダーを告げる。どいつもこいつも自分を女として見ているようで虫唾が走った。いつもの事だと言えばそうかもしれないが、慣れなんか来ないので毎回うんざりしている。ただこの学校の生徒とは違いやたら苛々するのは確かだ。生徒の方の反応には慣れてしまったという訳ではないのだが。
そんな中、教室に女子生徒がやって来た。
「いらっしゃいませ」
と気づいた者が挨拶をする。それに一瞬驚いてわたわたする女子生徒が、口ごもりながらも、お客さんじゃないですと尻すぼみになりながら言った。
「あの、一瀬さんに用事があってきました!」
女子生徒がそう言う。見た所知らない生徒だった。困惑しながらも
「一瀬は、私だが……」
と前に出ると、パシッと腕を掴まれ一緒に来てくださいと言って走り出した。何が何だかわからない。兎に角知らない女子生徒に腕を引かれどこかに連れて行かれている。
「ちょっと、何処に!?」
「体育館です!」
(体育館……?)
その言葉に少し前に彼と居た事を思い出した。そのことにも困惑した。体育館に行かなければならない理由、動揺しか生まれない。

女子生徒に手を引かれ渡り廊下を駆け抜け、体育館へと体がダイブする。
息はそこまで切れてはいないものの、女子生徒の方は切れ気味でぜーぜーいってる。
ステージ手前の階段でめんどくさそうに腕を軽く組み、ながら背を壁に預けている幸稔の姿を見つけた。視線に気づいてか、彼は顔を上げこちらを見た。それと同時に司会の女子生徒が声を上げた。
またステージに上がれとの事だ。既に優勝した組がパイプ椅子に座って待っている状態だ。
「大変お待たせしてしまい申し訳ございません。それでは仕切り直しまして、もう一度! 優勝は七河伯斗さん、泉川水畝さんです。もう一度盛大な拍手をー!」
辺りが拍手の海になる。男子だろうか指笛のような音も一緒に飛び交う。
「そして、準優勝は紅葉幸稔さん、一瀬泉希さんです。ステージにお願いします!」
二人はステージに上がる。優勝の二人を見つめると、軽くだけど深く頭を下げた。待たせてしまった事にだ。
そしてステージからまた人の海になった体育館の方へ向き直る。拍手は止まない。
「では、こちらから優勝賞品と準優勝賞品の授与をいたします」
そう言ってマイクを置くと、普段は体育準備具が入っているところへ入り商品と記念品花束を持って、司会の女子生徒と男子生徒が出てきた。
「長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした」
頭を下げて詫び、手にした花束と記念品。そして優勝賞品であるウェアUを渡した。
「優勝おめでとうございます」
そう言って拍手を送る。それに合わせるように周りも拍手をし出す。恥ずかしそうに双方は一度体育館の方へ向き会釈をする。
そして、男子生徒が幸稔たちの方へやって来て、祝いの言葉と先程の二人と同じように、記念品と花束、準優勝の賞品を手渡す。準優勝賞品は銭湯巡りチケットだった。
(正直どうでもいい。風呂行くなら温泉行った方がいいし……)
(この辺りの銭湯と掛け合ったのだろうか……、予算的にだろうし)
止みそうにない拍手の中、二組はステージ裏から体育館を抜けた。
「疲れた……。てか優勝できなかったからこれあのゴリラに渡しといて」
そう言って貰った銭湯巡りチケットと記念品を泉希に押し付けて、幸稔はどこかへ行ってしまおうとする。それを慌てて引き止める。前が花束が邪魔で上手く見えない。
「何故私が渡さなければならない……」
「だって、みずきちゃんに頼む予定だったみたいだし、オレ関係ないだろ?」
「……。なら私のクラスの出し物に来い」
「何で?」
「どうせ暇してるのだろう。だったら少しは……私のクラスに貢献しろ」
一瞬言葉に詰まった。なんて言おうと思ったのだろう。あまりにも言葉に詰まってしまって気付いたら思ってもみなかったことを口にしていた。正直後悔した。
「……まぁいいけど」
けれど彼の方も意外な返答で、微妙な空気は変わらなかった。前が見えにくそうだったので花束の方を幸稔が持つことにした。
 その後、廊下であのゴリラに会ったので優勝は出来なかったのでと手に持っていた物すべてを押し付けて二人で逃げた。考えてることが一緒であったこと、なんだかおかしくて気づけば二人で笑っていた。
それに互いは気づいていない。
双方、相手が笑っているからいいかくらいにしか思っていなかった。
きっとこれに自分が笑っていれば、所謂"青春"ってやつなのかもしれないとどこかで思っていた。
(こんな風に笑うんだ……)
(こんな風に笑えるのか、それはきっと満ちてるからなんだろうな)
「みずきちゃんの所ってみんなそんな格好してるの?」
「女子と私は……な…」
「男子は?」
「………執事?」
「………。みずきちゃんはそっちの方があってると思うよ」
「それは嫌味か」
「褒めてるつもりなんだけどな」
「私は男だ!」
 言われた通り、泉希のクラスに貢献した。だが、思いの外………。
「きゃー! 幸稔くんが来てるー!」
「幸稔くんって甘いの大丈夫なイメージ少しなかったから意外」
「泉希くん、折角だし写真撮ろうよ!」
「な、何でだ!?」
「他の子に聞いたのー。幸稔くんと美男美女コンテスト出て準優勝したんでしょう」
「記念記念♪」
みんなで撮ろうよーなどとがやがやと賑やかを通り越してうるさい教室となった。
そして、貢献しに来た彼は、小さく舌打ちをして、クッキーを頬張り、
「ちょーうざい」
頬杖をついて小さく悪態を吐いた。

こうして、二度目の学園祭が物凄くうるさく幕を閉じる。
明日からは普段通りの普通の授業風景が戻る。それを考えると、学園祭って結構あっけないモノだと思う。まるで死と似てるなとどこかで幸稔は思った。

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