吸血+30x=淫靡堕ち?
黒く沈んだ幕の内側で、激しい吐息が響く。
もつれ絡み合う美しい銀髪が、苦しそうに、切なく呼吸を繰り返すその者に深く顔を埋め固定する。
「……っ ……はぁ、あ…は…ぁ…っ」
激しく羞恥に響く吐息は、ひときわ大きく体を跳ねさせて止まる。
黒く沈んだ夜幕が閉じた。
「今日のは中々美味だったな。顔も体も三流以下だが、血だけはホメてやろう」
終わりを告げたそれを、まるで興味が無くなった玩具を扱うように手放した。
ごつごつとした舗装の行き届いていない地面にその女の体は倒れた。
首元に二つの孔を残した
血乏躯として。
長い銀色の髪を風に遊ばせ、唇に残った血液を親指の先で拭い舐めた。
「次はそう簡単に壊さないモノを見つけるか。一週間前に飲んだ
血[は酷く苦かったし、吟味しなくてはな。女は脆いし
壊れるの[ガタ]が早い。
男でも美味ければそれでいい。……所詮は糧だ」
闇に浮かんだ金色の瞳は、やがてその場から居なくなった。冷たい風の
神[まもの]に抱かれる女。
「あれも不味そうだ。こっちもハズレだな……。あの女も論外……」
人間という生命体で溢れかえるこの世界、いつどこでどんな人間が死のうとそれを一々胸に留める者は殆どいない。有名な者、それ以外はその親族類が嘆き悲しみ、恨み廻るだけ。
流れゆく人混みに毎日取って食う糧を探すのは、些か面倒になっていた。
そんな中、目立つのであろうこの姿に惹かれてか、女が寄って集って来る。
「お兄さん綺麗、私と遊ばない?」
「えー、私が相手してあげるわ。ねぇ? どうかしら?」
着飾った女の
臭[にお]いは、咽かえるほど下品だ。人間の男はこんな下品な
臭[にお]いに惹かれ、モノとするのかと憐れみを浮かべる。下品な赤いルージュ、気絶するような甘ったるい肌粉の匂い。胸元にキラリと輝かせる安物のガラス細工の痛ましいこと。
これ以上付き纏われても面倒だとその場を離れる。
見るからに不味そうな血。そんな穢れた血を飲む気には、今の心情では皆無だった。
あんなに皮膚を覆ったものに牙を立ててれば、ぐにゅりと仮面が割れ、血に混ざる不快な苦みと香りに食事を堪能できない。化粧の濃い者ほど、その血が美味かろうと周りがこれを台無しにする。
(だが、腹が減って来たな……)
そろそろ食事を摂らなければと歩みを進めていると、どんどん人気のない所へ来てしまったようで。
大きく口を開いたその場所で何かを踏んだ。よく見ればそれはダンボールのようだ。それだけならよかったのだが、それが慌てたように動くと中から人間が現れた。
「す、すみませんこんな所で!」
こぎれいな顔をした少年のような顔立ちの人間。頬や服は炭のようなもので汚れている。ダンボールを両手に抱えて道をあけるその男をじっと見つめる。
ぐるるるっと喉が鳴る。この際こいつでもいいと本能が叫ぶ。
腹が減ったと。壊しても構わないと。また、後日探せばいいと。
男はその異様な空気を悟ったのか、顔を強張らせ、逃げ出す雰囲気さえ纏っている。正しい反応だ。それをみすみす逃す気はないが。
夜のトンネルを照らす橙の光の影との間。男はダンボールを投げ捨てトンネルとは逆方向に走ろうとする。それを捕まえようと俊敏に動く腕が避けられた。
「!?」
驚きはしたがすぐにそれが、避けたのではない事に気づく。足をもつれさせその場に崩れただけ。そして思いっきり咳き込む様子から、病人の可能性を疑うも、既に空腹に耐えられるほど、理性を保てないでいる自身に腹を決める。
彼を捕らえるとその首に重厚な首枷をはめた。動きを封じるものだ。万が一逃げられでもしたら、また糧とする人間を探しにこの体を引きずらねばならないからだ。
土や炭に汚れた体に牙を立てるのに少々抵抗があり、近くにある拠点のホテルへと彼を横抱きにして向かう。道行く人にどう映ろうと知ったことではない。
(……なんで、体に力が、入らね……。三日も食べてないにしても、いきなり)
横抱きにされながら、男は首に手をやった。はめられた枷にこれの所為かと思考を巡らせた途端、頭に石が投げ入れられたように重くなり意識がなくなった。
広々として、重いカーテンが閉まったホテルの一室。
食事の前にこいつを洗わねばと、シャワールームへと向かう。意識を失ったままの彼を一度壁の端へ置くと、バスタブにシャワーヘッドを向け温度を調整する。
その間に彼の元へと戻り、その衣類をすべてはぎ取る。痩せこけた体ではあるが筋肉はそれなりについている。首の枷を一度外し、男の汚れを全て洗い流した。
事が終わればそのまま枷をし直し、彼をベッドへ転がした。
薄く色づいた肌色。白過ぎないその肌に喉が鳴る。枷を再度外し、空気に少しの気を混ぜて指を鳴らした。
暗い感覚、重い感覚にゆっくりと白む浮上感を感じると、視界が開けた。眩しい視界に入るのは豪華な天井。まるで昔どこかで見た教会の天井のようにさえ思えた。
視線を動かすと、先程の銀髪の男がこちらを見下ろしていた。
恐ろしいくらい綺麗な金色の瞳。綿密に創られた
陶器人形[ビスクドール]のような瞳、顔立ちに胸がさぁっと冷たくなるのを感じた。
「目覚めたか」
声が出ない。目の前の男に恐怖を無意識に抱いているのだろう。逃げ出さなければと体に力を籠めるも違和感に視線を落とす。
声にならない声が上がる。息を呑んだという表現が合うのかもしれない。
(な、なんでオレ裸なんだよ!!?)
微かに起こした体、目に映るお粗末なモノ隠そうと更に体を起こすがそれは叶わなかった。
ベッドの上へと再び戻された体はスプリングに微かに浮く。上に圧し掛かるようにその金色の瞳が見下ろしている。
「目覚めて早々だが、食事をさせてもらう」
「食……事……?」
体に折り重なって来るその男に恐怖を感じた。指が輪郭をなぞり首を下る。首下のくぼみをグッと押され、息が一瞬詰まる。そのまま指は鎖骨を撫で、止まる。男の顔が近づいて来る。吐息がかかる近距離。首を傾け、鎖骨と甲状腺の間に固く冷たい、尖ったものが押し当てられた。
(いやだ……)
拒絶しているのに体はまともに動いてはくれない。事は待ってはくれず、柔らかい皮膚は貫かれてしまう。
耳に届いた気味の悪いプツっという皮膚を貫いた音。それと同時にやって来る痛みと冷たさ。ズキズキと傷口に塩を刷り込まれているような痛みが脈打ちながらやって来る。
呼吸をする度に圧迫されて、気持ちが悪いのに、呼吸をしなければ酸素不足でどうにかなりそうな感覚。不規則な呼吸が貫かれているそこを圧迫する。じゅるじゅるという音が、時折響いて来る。ぬるりとした肌を滑る感触が、目の前の男の唾液なのか自分の血液なのかさえ、分からなかった。
痛みも圧迫感も止まない。もっとと強請るように牙を押し付けて来るその男のされるがまま。抵抗も叶わない。
感情がぐちゃぐちゃに混ざって眼孔から生理的な涙が溢れ出た。何が何だかわからない。
体を剥かれて、喉に牙を立てられている。何故こんなことになっているのか、自分はどうして抵抗しないのか、何も……考えられなくなった。頭の中が真っ白になるとは、今の状況を言うのだろう。目の前が白んでふあふわして目を開けているのかさえ認識できなくて、ただ幸せと呼べるのかはわからないその幸福感に似た感覚を帯びながら、何も考えられず視界が徐々に色という感覚だけに呑みこまれて行く。そんな感じだ。
唇は動くのに音は出ない。その度に食い込んでくる牙の感触にひたすら恐怖する。
「……んっ」
ぐちゅりと牙を引き抜き、生まれたままの姿で気を失っている彼から視線を逸らせないでいる。残った血液を舐め取り、目元を濡らしているそれを唇ですくいとった。
腹は満たされた。
味はまずまずだが、見た目の具合もある。血液自体はさほどドロドロしてはいないが、味の濃薄に差があった。このまますべて飲み干してしまおうとも思ったのだが、なんだか勿体無い気がした。また毎日糧を探すのも面倒。
それなら一人から定期的に頂けばいいと。元の目的もこれで達成だと口角を上げる。
「お前はもう逃がさない。私の糧になるのだからな」
ばさっと外套を乱雑にその体に被せると、その男は備え付けられている受話器を持ち上げ、ある場所へと繋いだ。
頭がガンガンと痛む中、会話のような話し声が聞こえる。
体が重い、何故だが熱っぽさと寒気がする。どちらかと言えば熱っぽさが優っている。
目を開ければ視界は歪み、ぐるぐると回転し出す。正直気持ち悪い。
「………」
視界に昨日の男が映り込む、いや、果たして時間は昨日なのかまだ今日なのかはわからない。締め切られたカーテンと何ら変わりない色味の部屋に思考を巡らせるだけでじわりと汗が浮かぶような感触。
男は無言で近づく。それを制することも叶わず、顔を歪める。
その手が意外なことに、自分の額に当てられた。
冷たい手。冷え切っているその手に今はただ心地よさだけが満たされる。
すっと痛みや気持ち悪さが溶けていっているような気がした。言葉に表せない不思議な感覚だった。再び目を開けると先程の症状が嘘のように消えていた。酷い眩暈のようなぐるぐると回転する感覚もない。
茫然とその状況の中に落ちていると、その体が浮遊感に見舞われぎくりと体を硬直させる。この銀髪の男が抱き上げたのだ。
「な、何するんだっ!?」
「……。うるさい」
ぴしゃりと言われ、そのまま椅子に下された。
目の前には用意された食事が並んでいる。生唾を飲んだ。
久しぶりのまとも過ぎる。いや豪華すぎる食事。
「それを食え」
「……? な、なんで?」
「血が足りないからだ。お前らはそうして血肉を作るんだろう。必要なことだ」
「それはお前がっ」
(そうだ、オレ……こいつに……)
目の前の銀髪の男にされたことを思い出し毛が逆立つ感覚と共に身震いをした。
血が足りないという言葉、目の前の豪華すぎる食事から彼は事に至った。
(そうか! オレ無理矢理献血に協力させられたんだな!)
けれど目の前に出された食事に手を伸ばすことを躊躇われた。
(でも、待て……。献血じゃオレの血どうした。確かこいつ……)
事をもう一度思い出す。鳥肌が立つが仕方ない……。
(こいつ確かオレに噛みついて来たんじゃねぇか!! 献血じゃねぇ! 騙されるなオレ!)
こんな所に居たらいつか殺される、席を立ち逃げ出そうとしたがそれはあっけなく制された。口元に押し付けられたまるい物体が、口元を割って入って来た。
「んぐっ!?」
口の中でそれに歯を立てたらしく、それは弾け、ドロッとした液状の物体が広がり、同時に生臭さと酸味が広がる。
「けほっ、ゴホッ…うぇっ、トマト……」
「何も入っていない。お前が今すべきは食べる事だ」
「お前何なんだよ! オレはただ――」
言葉はそれ以上は紡ぐことは出来なかった。甲状腺よりさらに下辺りからやって来る、熱を帯びた空気が喉を酷く刺激して咳き込ませて来るのだ。こうなってしまえば収まるまで何も出来ない。咳き込めば咳き込むだけそれはやって来る。けれどもそれは永遠ではない。
床に崩れ落ちる体をどうにか出来るほど体力もない。とりあえず今は収まれと願うだけ。なんとも無力だ。
「お前、病気なのか?」
「……お前に関係はない」
その後無理矢理という形で用意された食事胃に突っ込まれた。三日ぶりの食事に胃が付いて行かない。けれどももうこんなことはないと余ったパンの山からパンをナフキンに包んで逃げるようにその部屋を飛び出した。
あの男は追いかけては来なかった。
昨日居たトンネルの前までやって来た。流石に今日は此処に居たらいけないと、新しい住処を探す。
このパンも他のホームレス仲間にも分け与えるには十分だった。
けれども、その思いは虚しくまたあの男に居場所がバレ連れて行かれるのだった。そんな日があの日から毎日続いた。やることは変わらない。無理矢理血を奪われる行為。
連れて来られてすぐに逃げ出そうとしたこともあったが、どういう訳か先程入ったばかりだというのに扉はびくともしないのだ。有無を言わさずそのまま皮膚を鋭い牙で食い破られる。
次第に奴には遊ばれるように扱われるようになった。
ベッドの上で手招いてくる視線。それに逆らえない。何度やられても慣れることのない行為。傍まで行くと、体を抱き寄せられ、それが合図のように熱が上がり脈打つ速度が高ぶる。
顔を首に近づけられ、体は恐怖に支配する。その奥に潜む牙がたまらなく怖くて、抵抗する。それでもそこから逃げられることなんかない。その様子を面白そうに見つめながら容赦なく鎖骨と甲状腺の間にそれを突き立てる。
じんっと痺れる感覚に体が麻痺する。何度も繰り返された行為の後遺症か、最近は牙を立てられる度にそこが痺れを放ち、その後に甘い痺れがやって来る。痛みもなくなり、やがて安堵感が生まれる。
どうしようもなく欲しくなってしまうその感覚に、嫌悪している自身とせめぎ合う。そんな事、奴は知らないだろう。
「……
冬月[かづき]の血は最高に美味いな」
遠慮なく血を吸われ続ける。彼の声が逆らいを拒絶し支配する。体は疲労と快楽に近い感覚に溺れる。
ぐっと深く突き立ててくる牙に体が跳ねる。
「……っふ……、も……理……っ」
伝い落ちるのは血液ではなく汗と涙と吐息。痺れに頭がぼうっと白んで胸に熱を帯びる。赤く燃え盛る焔。その熱を納めるにはその行為を止めてもらう他ないのだが、冬月の言葉を聞き入れることはなく、その柔らかくも骨ばったくぼみに牙をより深く突き入れる。血がまたわずかに溢れる感覚に呼吸が乱れる。ぬるりと流れる血液に抗う気力もなくなる。全身が怠い。毎回今日で終わるのではないかと思いながらまた何度も目覚めるのだ。
浅い呼吸を繰り返しながら、体の異変に気づいた。
徐々に顔が紅潮して行くのが分かる。胸ではなく今は顔に熱が集中している。
牙を抜かれるそのわずかな感覚に体は感じて、身震いする。漸く終わったというのに、今はこの事態を見られたくないと、心がかき乱される。
「……顔が赤いな。血が足りなくて発熱でも起こしたか?」
体を引き離そうとしてくる彼に、
「イワン!」
制止の呪文を唱える。名前を呼ぶことは今の一度もなかった。効果はてきめんだと思われたのだが、自身にとっては逆効果のようだった。持ち上がっていた熱が更に主張をはじめて彼の体に当たった。
「っ」
思わず身が震える。感じた事のない快楽が全身を走る。ただ、ぶつかっただけでだ。それに気づかない筈がない。
体を引き剥されそのまま体勢を換えられる。抱き上げられていた体はベッドへと押し倒され、視界が回転し天井が映る。そしてすべてが露わになる。
毎度服を剥がれてされる吸血行為。別に首以外から吸血することはないのに何故か服を全て剥される。それが今の今の中で一番最悪な形となったことを悟る。
紅潮した顔を隠すより、今は目の前の反り立ったそれを隠したい気持ちでいっぱいになる。
視線が痛い。ふっと笑うとイワン。
「……随分と立派に育っているではないか。血を吸われて感じたか?
冬月[かづき]」
「違っ……」
「知っているか、冬月。一番新鮮な血が流れているのは――」
焦らすように、弄ぶようにイワンの細い指が冬月の腹をなぞり、熱の根元をくるりとなぞり通って下肢を下っていく。止めようにもその指の這う感覚に力が入らなく、その感覚にきつく目を閉じ耐える。
指が止まると目を開き様子を確認したが、
「ここ。足の付け根近くの血管が一番新鮮な、綺麗な血が流れている」
彼の口元がニヤッと歪む。
「ついでだ、精気と一緒にここから血も少し頂くとしよう」
信じられない言葉に何とか反論を返す。
「……もう無理だって。これ以上吸われたら……」
胸を上下に揺らしながら、言葉を紡ぐも冷血非道の吸血鬼の前では、聞き入れられない。
「先に吸血をしたら弾けてしまうな」
イワンの細い指が高まり詰めているそれを撫でる。それだけで、おかしくなってしまいそうなくらい、ビクビクと体は痙攣を始める。変な声までが勝手に漏れてしまう。
「触、るな」
「これも私が頂く、お前はただ感じてればいい。人間にとっての幸福は快楽に等しいのだろう」
張り詰めた質量を維持した熱を撫でまわす彼に、その深く痺れる感覚が胸に広がって来るのを感じて不安を帯びる。
「っ……あぁ……!」
撫で回されていた熱を急に掴まれ、周りを包み込む柔らかな温かさに体がビクッと跳ね、嫌でもいちもつへの違和感を感じる。ぎゅっと絞めつけられる感覚。ゆるりと蠢くものにそれが擦られしだかれていく。今まで感じた事のない感覚に恐怖を覚えながらも、その快楽に溺れかけてしまう。
「さぁ、私に精気を差し出せ。すべて飲み干してやろう」
「んんっ。……や、や……あ…。…うご、……っ……な」
ゴリゴリと表面を擦られる度に訪れる掻痒感に、全身が粟立つのをとめられない。
「このまま搾り取るのも構わないが、少し悦ばせてやろう」
繰り返される上下運動の最中、身がぞわりと強張った。
圧迫されたまま、上下に動かされ今か今かと中心に熱が渦巻きはじめているその中。何かが膨らんだ質量に絡みつき、更にきゅっと絞めつけはじめたのだ。思わぬ絞めつけに声が上がる。舌足らずな、意味を持たない単音が零れていく。
「
悦[よ]さそうだな」
きゅんと先の方に熱が集中したような感覚の後、耐えられない熱がその中にわずかながらに吐き出される。繰り返し揺さぶられ、その細くも太いそれは絡みついて絞めつけるのをやめてはくれない。やめるどころかそれはますます食い込んで来て……。
「んぁっ…♡ や、やら……! んっ…く……。なんか、出る……」
気持ちよさに目が眩んでゆく。流されるなと、必死に思考を繋ぎとめようとしてもそれは途切れてはまた繋がるという不確かなものにしか出来ない。
「〜〜〜っ」
胸の飾りに酷く掻痒感を感じ、それが痛みにも似た違和感に体は高まっていく。
「っ」
ドクンッと脈打ち、精は吐き出された。それでもまだ足りないと言わんばかりに絡みつく内壁は更に精を絞り出そうと脈打ちながら吸い付いて来る。
イッたばかりの体はとてつもなく敏感で、ちょっとの刺激が誘発物質に変わる。身体が勝手にその刺激を快楽へと変化させるのである。
熱く蕩ける精を呑みこみ、体が満たされるのをイワンは感じた。吸血行為の何倍もそれは濃く、満たされた。自身から冬月の熱を取り出す。彼が出ていく度に切なくそこは疼く。完全に彼を取り出すと、まだイッている敏感な彼の体に触れる。落ち着きを取り戻した熱を横に、容赦なくその場所に牙を立てる。
「んっ、ふぁ……」
ルビーのように赤く、固まりかけた血の結晶のように橙を帯びた血液は混じりっ気のないのど越しで、思わず我を忘れて吸い尽くしそうになるほど。
けれど既に血は先程一定量近く飲んでいる。これ以上吸い続ければ、彼は死ぬだろう。
彼を手放さない、手放せない理由はない筈だ。糧を毎回探す面倒が出来るだけ。
極上の精、飽きの来ない血液。それだけがイワン=アスワンを牽制しているわけではない。
「お前も他の人間と大差はない筈なのに、何故こうも私を惑わす?」
ゴミ程居る人間をどれだけ喰らおうが関係はない。それなのに何故この一人の人間にここまで執着しているのかがまるで理解出来ない。
くらくらする意識の海の中、もう殆ど沈み切っているその温かな感覚に、牙を立てられ続けられた体はまるで、麻薬のように、媚薬に踊らされているかのように心とは裏腹に求めている。
(何してるんだよ、オレは……)
このような行為に意味はない。ただ相手の腹を満たすだけ。その都度痛みに苛まれる体。
それなのに、怖いと逃げ出したいと思っているのに、その金色の瞳に見つめられると、体が勝手に動くような、そんな覚束ない足場の悪い感覚。
本当に操られているのか、それとも
吸血鬼[イワン=アスワン]の毒牙に侵されてどうにかなってしまったのか……。
――混ざり合った白と赤は薔薇色になって、満たされて行ってしまう。
その無い筈の体温を、温もりは……この
壊心[こころ]に酷く浸透して陶酔を起こす。
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