11.帰るための道しるべ。



女同士の話は楽しいもの。
つい時がたつのを、忘れてしまいました。



『見上げれば同じ空。<11>』



ブルマさんは面白い人だ。
あ、もちろん失礼な意味じゃなくてね!

「へぇ〜、じゃあマンホールに落っこちて、気が付いたら荒野に寝てたって訳??」
「…はい」
「ドジね〜、しっかりしてそうな顔してるのに」
「ブ、ブルマさん〜〜〜」

わかってはいるものの、そうはっきり言われてしまうと、切なくもなるもので…ほんのちょっぴりしょげるあたしにブルマさんは笑った。

「あははっ、でも本当に不思議なことがあるものね」

そう言いながら、ブルマさんは組んでいた足を組みなおして、持っていたカップに口を付けた。

「あたしも、正直自分に何が起きてるのか実感ないんです」
「まぁ、そうでしょうね…マンホールに落ちたのがきっかけで時空でも超えちゃったのかしら?」
「そ、そんなこと可能なんですか?」
「ん〜、どうかなぁ…でも有り得ない話ではないと思うわ」

未来の私だって、タイムマシンを作ったくらいなんだし。
そう続けるブルマさんに、そういえば…なんて妙に納得してしまった。何の偶然が重なってしまったのか、理論的なことはわからないけれど。

「ねぇ、どんなところなの?紅愛がいた世界って」

少し身を乗り出しつつ、そんなことを聞いてくるブルマさん。
正直、最初ブルマさんと2人っきりになったときはすごく緊張した。何を聞かれるんだろう。どんな話をすればいいんだろう…って。

「あたしの世界、ですか?」

でも今は全然そんなの気にならなくて…すごく自然に話をしている自分が、あたし自身何だか不思議だった。

「科学はあるけど、この世界よりはずっと遅れてると思います。車だって空は飛んでないし」
「あら、そうなの?」
「はい。でも、ココと似ているところもあって、ものすごく都会もあれば、自然がいっぱいある場所もまだ残っていて」

そんなことを言いながら、あたしはふと思った。

「あ、でも恐竜とかサーベルタイガーはいなかったなぁ…」

あれは正直な話、あたしには衝撃体験でした…と続けて、思わず項垂れる。
サーベルタイガーに襲われる一歩手前だったり、家の中を普通に恐竜が闊歩していたり。

「あはは、紅愛ってやっぱり面白いわね」
「ちょっぴりトラウマになりそうな体験でしたけどね」

笑うブルマさんにつられてあたしも思わず笑顔になる。そして、思った。



あたしがこの世界のこと、みんなのこと、知っているのは内緒にしておこう。



もしかしたら、このときのあたしは怖かったのかもしれない…色んなことを知っているってみんなにばれたら、きっと怪しまれるって思ったから。

「でも、大丈夫よ」
「え?」

突然真剣な表情で見つめ返されて、一瞬ドキッとした。

「すぐには無理だけど、少しだけ待ってもらえたら、きっと紅愛も自分の世界に帰れるわ」

キョトンとしているあたしに対して、軽くウィンクをするブルマさん。

「この世界にはね、ドラゴンボールっていう良い物があるの。7つ集めればどんな願いも叶っちゃうんだから」
「へ、へぇ…」
「この前トランクスたちが一度神龍を呼び出しちゃってるけど、願いは叶えてないし半年もすればたぶん大丈夫よ!」

そっか!神龍にお願いすれば帰れるんだ!!
一瞬、いくらドラゴンボールでももし本当に時空を超えてしまっていたとしたら無理があるんじゃ…なんて思ったけど、自信満々なブルマさんの姿を見ていたら、信じてみようって気持ちになってきた。
半年…
そしてその単語にも、何故かあたしは言い様のない気持ちになった。
半年も後の話?
たった、半年後の話??
頭がゴチャゴチャしているようで、よくわからない。

「だからそれまで、慣れないことばかりで大変かもしれないけど頑張ってね」
「は、はい」
「何か困ったことがあったら言ってちょうだい。力になるわ」

見ず知らずのあたしに…
得体の全く知れないあたしに…
どうしてこんなに良くしてくれるんだろう。胸の奥から込み上げてくるものがあって、思わず黙ってしまったあたしにブルマさんがまた話しかけてくる。

「それにしても、孫くんにもああいう所あったのねぇ」
「え?」

ふと顔を上げると、ブルマさんが何やらニヤリと笑っている。

「私も一度だけ聞いたことあるわ。トランクスも言ってたけど、孫くんと夢の中で会ったことがあるんですって?」
「えぇ、まぁ…」
「だから孫くんもあんなにアンタのこと気にかけてんのね〜」

一瞬、ブルマさんの言葉が理解出来なかった。
悟空が、なに?

「言ったでしょ?孫くんとべジータはライバル同士でしょっちゅう手合わせしてんのよ。いつもなら孫くん、ココに来るとすぐに重力室に行くの」

そこで、あたしはハッとした。
今日は確かにそんなことしてなかった。
ブルマさんに声をかけられるまであたしと一緒にいてくれて、そのうえあたしに“一人で大丈夫か”って。

「それだけ気になってるんでしょ、紅愛のこと」
「そう、なんでしょうか」
「アイツと付き合いの長い私が言ってんのよ〜。そうに決まってるわ」

何故か力説しているブルマさんに、ちょっぴり頬が赤くなるのを感じた。

「優しいんですね、悟空は」
「ん〜、それはそうなんだけどねぇ…ま、その辺は自分で感じ取りなさい」
「???」

何だか、意味ありげなブルマさんの笑顔。
あたしはただただ首を傾げることしか出来なかった。