13.嬉しいけど、素直に喜べない



「なぁなぁ、名前」
「あのね悟空…何度言われたってあたしには無理だって」
「そんなことねぇって。オラ優しく教えっからさ」
「そういう問題じゃないのよ…」



『見上げれば同じ空。<13>』



ブルマさんの家から帰ってきて、みんなで夕食も食べた。
だけど、悟空は帰ってきてからというものずっとこう…あたしの行くところ行くところを付いて回っている。本当なら「なんて美味しい状況!!」とか思いながらテンションが上がるところのはずだけど、当のあたしは困り果てていた。
だって…


悟空があたしに修行を付けたいって言って聞かないんだもん…!!


宇宙最強の悟空ですよ!
戦い大好きの悟空ですよ!!
いくら優しく修行してくれたって…あたし、きっと死んでしまう。

「悟天、さっきから父さん何やってるんだ?」
「ん〜、名前お姉ちゃんに修行を付けたいんだって」
「は?修行って…何で?」

あたしと悟空の動向をひたすら眺めていた悟天くんが、遅れてリビングにやってきた悟飯くんにそんな説明をしているのが何となく聞こえた。そうだよねっ!悟飯くんだって何で、って思うよね!!

「なぁ名前、どうしてもダメなんか?もったいねぇぞ」
「ダメっていうか、あたしみたいなごくごく普通〜な女の子を鍛えたって面白くないよ」
「またそんなこと言うんか…んなことねぇって言ったろ?名前は元々変わった気を持ってるしな!ちゃんと鍛えれば絶対ぇ伸びるさ」

いやいや、そんなこと絶対ない。
困り果てたあたし…とりあえず、今は何とか話題を変えることにしよう。

「さて…あたし、お風呂沸かしてこようかなっ」
「あぁ、それならもう沸いてますよ」
「えっ…」

ドアノブに手をかけたまま振り返ると悟飯くんの爽やかな笑顔。
とっても良く気の付く子に育ったんだね、悟飯くん。きっといつもならそう思ってホロリとしていたところだろうけど、逃げの口実を一瞬で崩された今のあたしは思わず頬に汗が伝いそうになってしまう。
しかも…

「お、風呂沸いてんのか!ならオラも名前と一緒に入ってくっかな」
「っぶ…!?」

またも飛び出す衝撃発言!!
悟天くんはそれを聞いて「僕も〜!」なんて喜んでいるけど…いやいやいやいやっ!!
口をパクパクしているあたしに代わって、悟飯くんがまたしても悟空を静止してくれていた。
わかってはいたけど…実際に自分がこの天然発言の直撃を受ける立場になってしまうと…正直、しんどいです。心臓がもたない…

「男と女は一緒に入ったらダメなんか」
「ま、まぁ極論で言うとそうですよ!そりゃ、特例みたいのは、ありますけど…」

って、悟飯くんまで顔を真っ赤にしちゃってる…

「特例って何だ、悟飯?」
「え、え〜っと…」

あ〜、もう!悟空もそこ詰め寄らないっ!!

「とっ、とにかくね!あたしと悟空は、一緒に入れないんだよっ!!」
「そうなんか…ちぇ〜」

ちぇ〜…って貴方。何だか子供のようにしてむくれる悟空だけど…説得に加勢したあたしはものすっごく恥ずかしい。
だけど悟空も何とか納得はしてくれたようで、ふぅ、と小さく息を吐いたその時。

「お姉ちゃん、それ…」
「ん?」

悟天くんが何やらあたしの方を指差している。その声に導かれるようにして、あたしの視線も自分の右手へ…

「…うっそ…」

そこには、あたしにしっかりと握られたまま…ボッキリともげているドアノブの無残な姿。
まっ、またやった!!!壊しちゃったっ!!人様の家のドアノブをっ!!!

「ひ〜〜っ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!」

有り得ないことが立て続いたせいか、もう何が何だかわからないままひたすら謝るあたし。その姿に一瞬キョトンとしていたけれど、2人の表情がみるみる明るくなっていくのをあたしは見逃さなかった。
はっとして、思わず握っていたドアノブを後ろにサッと隠すけれど、時すでに遅し。

「お姉ちゃん!やっぱすごいよっ、女の子なのに!!」
「だから言ったろ〜?なっ、オラが修行して名前のその力をちゃんとコントロール出来るようにしてやっから!」

まるで水を得た魚のよう…

「あ、いや…」
「どうしてもダメなら、護身用の武術でもいいからよ〜…なっ、なっ!!」

悟、悟空さん??護身用の武術でもいい…って、一体どこまで本格的にあたしを鍛えるつもりでいたんですかっ!!
再び、ここぞとばかりに“修行”を押してくる悟空の姿を見ながら、あたしは呆然と立ち尽くしていた…