14.今になって気付いたこと。




『見上げれば同じ空。<14>』



「ふぅ、これで大丈夫だと思います」

そう言いながら、あたしに笑いかけてくれる悟飯くん。

「ありがとう。ホントに、ごめんね?」

当のあたしはまだ立ち直れないまま、椅子に座ってうな垂れていた。そうなんです…またしても、有り得ない怪力を発揮してしまった自分自身にショックを受けているんです。ドアノブは悟飯くんの手によって、何とか使える状態には戻った。
とりあえずテープで補強されている状態だから、痛々しい見た目になってしまったけれど…最初自分で壊しちゃったんだし、あたしが直そうとしたんだけど…不器用すぎて無理でした。何もかもが、正直今のあたしには凹む材料になってしまう…そんな感じ。
ちなみに、悟空は悟天くんと入浴中。
そんな訳で、とりあえず今のところは悟空の粘り強い修行への勧誘も逃れることができている。

「本当に、気にしないで下さいね?」
「そう言ってもらえるとホントにありがたいんだけど、ね…はぁ…」

悟飯くんの優しい言葉にも知らずのうちにため息が漏れる。

「実は、今日ブルマさんの家でもやっちゃったの」
「そ、そうなんですか?」

ほんの少し肩を竦めながら、今日の日中に起こったことを告白すると悟飯くんも驚いたようだった。

「あたし、今までこんなことなかったんだよ?物を壊すほどの力なんて、もちろんなかったし…体育の授業だって特別秀でたところなんかもなかったし…」
「そうですか…時空を超えたせいで身体的にも変化が出てきているのかもしれませんね」
「え、何?時空??」
「名前さんの元いた世界がこの世界にとっての異世界になるのだとしたら、おそらく時空を超えてしまったということになるのだと思います…たぶん、ですが」

悟飯くんの言葉を「なるほど」なんて思いながら聞いていた。確かなことはわからないけど…でも今、あたしの中に嬉しい、という感情が沸いた。

「悟飯くん、あたしが別の世界から来たって信じてくれてるの?」
「え?えぇ、信じてます」

初めて会った時。
何となくだけど、悟飯くんはあたしのことを疑っている感じだった。無邪気な子供たちとは違う雰囲気を感じたし…当然の反応だと思うけど、同時にそれがほんの少し寂しかったのも事実だから。

「名前さんが嘘をついているようには、見えませんから」
「そ、っか…ありがとう、悟飯くん」
「い、いえ」

嬉しくて、思わず満面の笑みになってしまうあたし。
悟飯くんは何故か言葉を濁しながら顔を背けるようにしてしまったけど…
そして、どこか慌てたように話し始める悟飯くん。

「あっ、名前さんの力ですが、それも少しずつ慣れてくると思いますよ」
「そ、そうかなぁ…」
「そうですよ」

悟飯くんが笑顔を見せてくれる。悟空にとてもよく似ているけれど…何処か違った雰囲気を纏う、優しい笑顔。

「僕も父さんも、自分の力に慣れるまではよく家の物を壊して、母さんに怒られました」

悟飯くんが何の話をしているのか、あたしには何となくわかった。内緒にしているから黙っていたけど、この世界のことをあたしは知っているから。
昔、悟空と悟飯くんは超サイヤ人の力に慣れるために、その姿で生活していた時期があった。確かにあの時はコップを割ったり、ドアを壊したり…色々していたっけ。あたしも…慣れていけるように頑張ろう。
とっさにそう思って、少し前向きになれた気がした。
でも、それと同時に、重大なことに気が付いた。


悟飯くん、今“母さん”って言った…


思わずハッとする。
そういえば、チチさんがいない…どうして、今まで気が付かなかったんだろう。
それだけ、この世界に来たことで頭が混乱していたのかもしれない…孫家にお世話になっていながら、いるはずの存在がいないことに気が付いていなかった。家事をしているらしい悟飯くんの姿に、言い知れぬ違和感のようなものは感じたけれど、それがどうしてなのかまではわからなかった。
だけど、今はっきりした。


どうして、チチさんがいないの?


瞬間、何故かものすごく怖くなった。

「悟飯くんの、お母さん?」

その証拠に聞き返した言葉が自分でもびっくりするくらい震えていた。

「えぇ、僕と悟天の母です。元気にはしているんですけど」

今は一緒には住んでいないんです。
一瞬だけ言葉を濁したあとに、そう続けた悟飯くん。その言葉はしっかりと聞いているのに…内容の半分くらいしか頭では理解出来ていないような気がした。


どうして…あたしの知ってる『ドラゴンボール』と違うの?

どうして…

どうして…