孫家。
一つは悟空の部屋。
殺風景な印象で、ベッドと小さな衣装ケースだけがあるような…そんな部屋。
一つは悟飯くんと悟天くんの部屋。
2人のベッドと勉強机が置いてある。
悟天くんが勉強に座っているのはあんまり見たことないけど…
そしてもう一つは、お客様が来たときに提供する部屋。
今はここに必要最小限の生活用品を置いて、あたしが自室として使わせてもらっている。
『見上げれば同じ空。<23>』
「名前お姉ちゃん、おやすみなさい」
「うん、おやすみ!」
悟天くんとそんな会話を交わしてから、どれくらいの時間がたっただろう。
この家の人たちはみんな早寝早起きだから。
あたしもこの世界に来てからすっかり規則正しい生活を送っている。
「…ん…」
その日は、夜中にふと目を覚ました。
一度眠りについたら、めったに目を覚まさないのに…とか。
どこでも熟睡出来ることが唯一の自慢なのに…とか。
ぼんやりとそんなことを思いながら、寝がえりを打って再び微睡もうとした。
だけど…
「…ん?」
寝返りを打ったあたしのお腹に何やら柔らかい感触。
一瞬で眠気が覚め、体を硬直させるあたし。
…何、一体?…
時刻は草木も眠る午前3時。
あちらの世界の方々が一番元気になると言われているお時間。
「ま、まさか、ね」
まぁ、この世界は死人でも輪っかを付けて出てきちゃうような世界だから…
向こうの概念は関係ない、か。
あはは、なんて苦笑いしつつ気にしないように気にしないように…
布団の中を覗く勇気もないまま、あたしは必死に眠ろうと目を閉じた。
その時だった。
突然、手にふにっとした感触。
…手を、握られたっ!!!!!
「の、のわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
とてもうら若き乙女の悲鳴とは思えない声をあげたと同時に。
孫家の全ての部屋の電気が一斉に付いた。
ドタドタドタ
バタンッ
「名前っ、どうしたっ!!!?」
「悟、悟空っ…」
ものすごい勢いで飛びこんできた悟空に思わず固まるあたし。
あの、ドア…吹き飛んでますけど。
それと…パンツ一丁で来られても、目のやり場に大変困るんですけど。
色々と突っ込みたいことはあるけれど。
それは今は置いておいて…あたしはもう一度自分の布団の中にあるその姿を瞬きしながら見詰め直した。
「父さん、今の悲鳴は!?それと、悟天がいなっ…あ、あれ?」
「はは、ここにいるみてぇだぞ」
そう…悲鳴をあげると共に捲りあげた布団の中にあったのは、小さく体を丸めている悟天くんの姿だった。
あたしのあの悲鳴にも目を覚ますことなく、静かな寝息を立てて今も眠り続けている。
…か、可愛い…
「悟天のヤツ、いつの間に…眠るときは確かに僕と一緒の部屋にいたんですけど。名前さん、すみません」
「あっ、いいの。ちょっとびっくりしちゃっただけだから…あたしこそ大きな声出しちゃってごめんなさい」
その時、布団を捲られて寒かったのか悟天くんが小さな体をさらに小さく丸めた。
それに気付いて、そっと布団をかけてあげる。
「悟天もまだまだ子供だかんな…珍しく寂しくなっちまったんかもな」
「…そ、っか」
手を腰に当てながら、そう言った悟空は普段とは違う…お父さんの顔をしていた。
そうだよね…どんなに強くっても、元気でも、明るくても…
悟天くんはまだ7歳だもんね。
寂しくなる時だって、あるよね。
誰も、その時は何も言わなかったけど…悟天くんはきっとお母さんのことを思い出していたんだろうと思う。
それなら、悟空でもなく、悟飯くんでもなく、あたしの布団の中に潜り込んできたことにも何となく頷ける。
「悟飯くん、今日はこのまま悟天くんをここで寝かせてあげてもいいかな?」
「え?えぇ、名前さんがそれで良いのでしたら…」
「悟空も、良いよね?」
「ああ」
今日だけは…チチさんの代わりをほんの少しでも良いから、務めることが出来たら。
…そう思った。
あたしなんかがそんなことを言ったら、おこがましいのはわかっているけど。
今日だけ…
今日だけは…
悟空と悟飯くんがそれぞれの部屋に戻って行った後、部屋の電気を消して。
もう一度戻った布団の中で、静かな寝息を立てている悟天くんの体をそっと抱き締めながら…
ただひたすらにそう思った。