24.「会いたくなるんだ」
神様〜。
…っていっても、この世界じゃあデンデくんなんだけど。
まぁ、それはいいとして…
あたしがもう少し恋愛経験豊富だったなら…
こんなに困ったりはしなかったのでしょうか。
『見上げれば同じ空。<24>』
『もう〜、少しは連絡寄越しなさいよ〜。これじゃあ名前も孫くんと同じよ?』
「ご、ごめんなさい」
突然かかってきた孫家の電話。
どうしようか迷ったけれど、また家にはあたししかいなくて。
ちょっぴりドキドキしながら、受話器を取った。
聞こえてきたのは聞き慣れた声…ブルマさんだった。
そういえば、チチさんのことで動揺して突然押し掛けて以降一度も連絡していなかった…
そう考えるとちょっと申し訳ない気持ちになった。
『私の家の番号、教えとくわ。来るのは無理でも、たまには連絡しなさいよね』
「あ、は、はい」
ブルマさんが口にする数字を手近にあったメモに書き記す。
その時、ブルマさんが受話器越しに小さく笑った気がした。
「何ですか?」
『その様子だと、仲直り出来たみたいね』
「べ、別に喧嘩していた訳じゃっ…」
とっさにそう言ったけど、向こうでブルマさんがニヤリとしているのが目に浮かぶようだった。
『そう?でもよかったじゃない』
「はい、その節はありがとうございました、ホントに」
『もう吹っ切れたの?』
「吹っ切れた…というか、あまり気にしないようにしました」
『そう』
ブルマさんに話を聞いてもらって。
真実を知って。
あたしが知っているドラゴンボールとこの世界の違いを目の当たりにして。
色んなことを考えたけど…悟空は言ってくれた。
あたしに会えて嬉しかった…って。
ココにいてもいいんだ・・・って。
あたしにとっては、その言葉が全て。
『ふふ、名前は本当に孫くんのことが好きなのね』
「…へ?」
そんなことを考えていたら、ブルマさんにびっくりな一言を浴びせられてしまった。
「えっ、えぇっ!」
『あら、違うの?』
「っ…」
そして、あたしは言葉を失う。
好き?
あたしが、悟空を??
悟空のことは確かに漫画を読んでいても、一番素敵だと思っていたし、追っていた。
でも、それは“憧れ”としての感情で…
『孫くんもあんな感じだし、私は応援してるのよ?』
「え…」
あんな、って何?
悟空が、どういうこと??
「ふぅ〜」
ベッドにバフッと仰向けに横になるあたし。
ご飯も食べて、お風呂にも入って…後は寝るだけ。
部屋の天井を見つめながら、ボーッと考えてしまう。
「……………」
結局、ブルマさんはあの言葉の真相を教えてはくれなかった。
っていうか、はぐらかされたに等しい。
「む〜…」
ベッドの上をゴロゴロしながら、うなってみたり、口を尖らせてみたり。
たぶん、今のあたしは相当怪しい。
「もう…ブルマさんが変なこと言うから」
どうしても、気にしちゃうじゃない。
…好き?
あたしが、悟空を??
「…あ〜っ、もうっ!!!」
考えていたら、何だか顔が熱くなってきた。
近くにあった枕を思わず抱きしめる。
「…好、き…?」
…よく考えろ、自分!
相手は漫画の中のキャラクターなのよ?
好きとか、そういう感情を持つなんて、そんなこと…
悶々と考えながら、ふぅ、と息をついた時だった。
「名前〜、まだ起きてっか??」
「っ…!!?」
ドアの向こうから突然聞こえた、悩みの原因となっている人の声。
思わず大慌てで起き上がった。
「悟っ、悟空っ!?」
「ちょっと入ってもいいか?」
「う、うん」
あたしが返事をすると、すぐにドアが開かれて悟空がひょっこりと顔を出した。
ベッドの上に座って、枕を抱きしめているあたし。
悟空はそんなあたしを見て、少しだけ申し訳なさそうな表情をした。
「悪ぃ、やっぱ寝るとこだったよな」
「ううん、まだ大丈夫だけど…どしたの?」
とてもじゃないけど、貴方のことを考えて悶々としてました…
なんて、言える訳がない。
そんな後ろめたさもあってか、枕を抱きしめたまま、無意識に体を小さくする。
悟空はそんなあたしの横に腰掛けた。
ベッドのスプリングが小さく軋む。
「……………」
「……………」
ただ黙ってあたしの隣に座っている悟空。
「…?」
何も言わない悟空を不思議に思って、そっと顔を覗いてみる。
「どうかしたの?」
「いや、別に用があった訳じゃねぇんだけどよ」
「…?」
あたしは首を傾げたまま、悟空の顔を覗きこむ。
瞬きを繰り返すあたしに悟空は「ははっ」と笑った。
「おめぇ、目が真ん丸になってんぞ」
「…だって、悟空が何も用がないのに来るなんて…」
少なくとも、あたしが知っている漫画の中の悟空はそんなキャラではなかったはず。
しかも、こんな夜更けに。
元々早寝の悟空が。
色々考えると、ますますわからなくなってきた。
じ〜っと悟空のことを見つめ続けるあたしに悟空は一瞬困った顔をして、頬を指で掻いていた。
「オラ、やっぱ変なんかなぁ…」
「変って…何が?」
「なんつぅか…名前に、会いたくなるんだ」
「…へ?」
悟空の言葉に目が点になるあたし。
固まっているあたしをよそに悟空が続ける。
「一緒に住んでんだから、毎日会ってるのによ…もっともっと会いたくなるんだよな」
あたしの瞳が悟空の漆黒の瞳に捉われた。
「寝る前とか、修行中にもたまに思うんだ。名前は今何してんのかな…会いてぇなぁって」
「……………」
「こんなこと初めてで、オラよくわからねぇ。でも今もすっげぇ名前に会いたくなったから…だからオラ来たんだ」
「……………」
…何ですか。
悟空と視線を外せないままあたしは思う。
…な、何ですか、その一撃必殺的な台詞はっ!!
あたし、からかわれてる??
いやいや、悟空に限ってそんな意地悪するわけない。
じゃあ…確信犯?
いやいや、そんなわけも絶対ないって。
「…え、えっと…」
どうすればいいの、あたし!!
頭の中はすでにプチパニック。
言葉すらうまく出てこない。
どうしたらいいのかわからず、視線も上を見たり、下を見たり…
悟空がそんなあたしを見て、また笑ったような気がした。
そして次の瞬間。
「なっ…」
「悪ぃな、ちょっとだけ」
あたしの体は悟空の逞しい腕に包まれていて…
抱きしめられている、と自分の頭が理解するまでに随分時間を要したような気がする。
「オラ、知ってっぞ」
「え?」
「こういうことは、二人っきりの時にしかしちゃダメなんだろ?」
見上げると悟空もじっとあたしのことを見下ろしていて、目が合った瞬間「へへっ」と笑った。
その屈託の無い笑顔を見ただけで、何故か胸が暖かくなる。
「今なら、いいんだよな?」
「……………」
あたしは何も答えられなかった。
抱きしめる悟空の腕にきゅっと力が篭るのを感じる。
あたしから、返答がなかったからだろうか…
本当ならものすごく嬉しい。
貴方の背中に腕を回したい。
だけど、体が動かない。
「名前」
呟くように悟空の口からあたしの名前が紡がれる。
ねぇ…どうしてそんな風にあたしの名前を呼ぶの?
どうして、あたしを抱きしめるの??
頭の中で、ブルマさんの声が聞こえたような気がした。
きっとそうだ…変に意識してしまうのは、ブルマさんの言葉があったせい。
でもダメだよ、あたしは単純だから…有り得ない期待をしてしまうよ。
ねぇ…悟空…