25.2人きりの時間は…


人それぞれ、苦手なモノの一つや二つ。
…あるものよね。





『見上げれば同じ空。<25>』





「止まないねぇ、雨…」
「そうだなぁ」

悟空と並んで窓から外を見上げるあたし。
この世界に来て初めての大雨。
たまにだけど、遠くで雷も鳴っている。
イヤだなぁ…あたし、雷苦手なんだよね…

「パオズ山って、よくこんな大雨降るの?」
「いやぁ、ここまで降んのは珍しいぞ」

空を見上げる悟空を隣からふと覗き見てみた。
突然抱きしめられたあの夜。
でも、あれからまた何のことはない日常が戻ってきて…
気まずくなるんじゃないかと心配したりもしたけど、案外悟空はいつも通り振舞っていたから。
あたしもあんまり気にしないほうがいいんだよね…きっと。

「ん?何だ?名前」
「えっ…あ、なんでもない」

えへへ、と笑って見せると悟空も「そっか」と微笑んだ。
そして悟空は「おっ」と視線をドアへと向ける。

「え、何?」
「帰ぇって来たな」
「え?」

キョトンとしながら、もう一度悟空を見上げる。
それとほぼ同時に…



バタンッ



「たっだいま〜」
「ただいま」

悟天くんと悟飯くんが帰ってきた。
やっぱり今のも、“気”でわかったのかなぁ?

「いつも思うけど、その“気”っていうの便利だよねぇ」
「まぁな。名前にも教えてやっか?」
「ん〜、出来るかなぁ、あたしに。はい、悟飯くん」
「あ、どうもすみません」

2人とも雨にびっしょり濡れて帰ってきた。
あたしは悟飯くんにタオルを渡してから、悟天くんの頭の水分を拭き取ってあげる。
悟空譲りのくせっ毛も雨に濡れるとヘニャッとなるらしい…
何だか、ちょっと可愛い。

「ん〜、お姉ちゃんもういいよ〜」
「ダ〜メ。風邪引くよ?」

ふふ、と笑うあたし。
あたしに本当に子供がいたら、こんな感じなのかなぁ…
そう考えると何だかむず痒い。

「さっ!風邪引く前にお風呂入っちゃいなよ」
「うん!」
「よし悟天。兄ちゃんと一緒に入ろうか」
「わ〜い」

パタパタと走っていく悟天くん。
悟飯くんはそんな後姿を見て、小さく笑って…

「じゃあ、ちょっと行って来ます」
「うん、ごゆっくり〜」

お風呂場へと消えていった。
本当に、仲の良い兄弟だよなぁ。
見ているあたしまで微笑ましくなって来る…そんな光景だと思った。





そして、今。

「なぁなぁ、名前〜」
「ん〜?」
「なぁってば」
「……………」

悟空があたしの周りをウロウロしている。
ウロウロ…というか、あたしの背後に立って右から顔を出したり、左から顔を出したり。

「名前〜」
「悟空…あたし、ご飯作ってるんだよ?」
「それはわかってっぞ」
「そんなウロウロされたら、進まないよ〜…」
「そっか?」
「包丁だって持ってるし、危ないよ?」

持っている包丁を見せながら、後ろの悟空に振り返る。
悟飯くんからパオズ山で取れる食材の料理法の手解きを受けた最近のあたしは、こうして料理当番も出来るようになった。

貴方のために頑張っているんですよ〜。

たっくさん食べる貴方たちサイヤ人のためにいっぱい作ってるんですよ〜。

「でもよぉ」
「な、なに?」
「せっかく、今2人きりじゃねぇか」

その言葉に思わずキョトンとしてしまうあたし。

「へ?…きゃっ!」

気が付いた時、あたしはまたしても抱きしめられていた。
ほ、包丁…キョトンとしつつも手放しておいて、よかったぁ。

「悟、悟空っ」

何で!?
何で、こんなことになってるの!?
まさか・・・この間ので“2人きり=抱きしめてOK”の公式が悟空の中で出来上がっちゃってるとかっ!?
心の中ではまたしても思考の嵐…

「…あ、あの…」

しかも今回は悟空にクルッと体を反転させられて、思いっきり正面から抱きしめられている。
ど、どうしよう…
悟空はあたしをキュッと抱きしめると、首筋に顔を埋めてきた。

「オラ、やっぱこうしてると落ち着くなぁ」

悟空が呟いた一言。
それって、すごく嬉しい言葉ではないか。

「名前?」
「えっ?」
「名前は…イヤか?オラとこうすんの」

そう言いながら、あたしの顔を覗きこむようにしてくる。
イヤな訳がない。
黙ったまま、フルフルと首を振るあたし。
悟空はそんなあたしを見て嬉しそうに笑って…また強く抱きしめた。

自分の思ったままに行動をする悟空は時として大きな子供のよう。
そんな悟空がたまらなく愛しい。
今なら、あたしも悟空を抱きしめることが出来るかもしれない…
あたしは抱きしめられたまま、自分の両腕をそっと悟空の背中へと回した。

だけどその時。
悟空にとっても、あたしにとっても予期しない出来事が起こった…