28.悪意ない不意打ち。


カチャカチャ


カチャカチャ


水の音と食器が触れ合う音がいつまでも響き渡っているキッチン。
私…名前はただ今食後の食器たちと格闘中だったりします。




『見上げれば同じ空。<28>』




正直終わりの見えない…
それはそれは大量の食器たち。


もう前みたいに盛大に驚くことはなくなったけど、いつになっても見慣れない光景。
こんなに高く積まれたお皿を向こうの世界で見ることなんて、間違ってもなかったから。

「へぇ〜、苦手科目がないなんてすごいねぇ」
「名前さんはあったんですか?苦手科目」
「そりゃあもう…典型的な文系タイプでしたから」

学生時代のことをふと思い出す。
ん〜…こうして思い返せば、もう何年前の話になるのかしら(爆)
横で洗われた茶碗の水分を次々に拭き取ってくれている悟飯くん。

「僕も算数嫌〜い」
「でも、こんな頭の良いお兄さんがいるなんて羨ましいなぁ…いつでも教えてもらえるじゃない」
「それは、そうだけどさぁ」

まだまだ遊び盛りで、勉強の話になると口数少なくなってしまうのが何だか可愛い。
汚れたお皿を一枚ずつあたしに渡してくれている悟天くん。

びっくりするくらいの食器の量だから時間もそれなりにかかるけど。
こうして手伝ってくれるから、実は結構楽しい時間だったりする。
少しずつ綺麗になっていくお皿を前に、3人で色んな話をしていたその時…リビングから悟空がやってきた。

「風呂、沸いたみてぇだぞ」
「あっ、ありがとう」

振り向きながら返事をして、ふと横にいる悟天くんに視線を落とす。

「悟天くん、お父さんとお風呂入ってきちゃったら?」
「うん!」

手伝ってくれてありがとう、と続けるとにっこりと笑う悟天くん。
癒し力満点です。
でもその時、悟空が意外なことを言い出した。

「いや、オラは後でいい。悟飯、先入っちまったらどうだ?」
「え?」
「この後もまた勉強すんだろ?だったら先に入った方がいいんじゃねぇか?」
「それはそうですけど…」

悟飯くんがちら、とあたしの顔を見る。

「あ、あたしならもう終わるから大丈夫だよ。ありがとう」
「いいえ。それじゃあ、先に失礼しようかな」
「わ〜い!兄ちゃん、また手でやる水鉄砲教えてよ」
「はは、わかったわかった」

早く早く、と悟天くんに手を引かれていく悟飯くん。
本当に仲の良い兄弟だなぁ…
働き始めて家族・兄弟と別々に暮らし始めたあたしにとってはちょっぴり羨ましくも見える光景。

カチャカチャ…とまた食器の音だけが響く。

「オラに出来ることあっか?」
「ん、もう終わるから大丈夫だよ」
「そっか」

横から顔を覗き込むようにして聞いてくる悟空に笑顔を見せた。
最近、よくこうして家事をしているあたしに声をかけてきてくれる悟空。
一度ブルマさんにそのことを話したらすごく驚かれたっけ…

「なぁ」
「ん〜?」

すぐ後ろから悟空の声が聞こえたから少し驚いた。
見ると、いつの間にかキッチンの椅子に座って、その背もたれに両腕を乗せるようにしている悟空がいて。

「どうしたの?」
「名前も、この後風呂に入るよな?」
「うん」
「その後は、寝るよな?」
「…?うん」

悟空が何を言おうとしているのかわからなくて、ただひたすら質問に答えるあたし。

「オラ、おめぇが風呂から出てくるまで待ってるからよ…」
「うん?」
「だから、たまには一緒に寝ねぇか?」
「…っ…」

その瞬間、キッチンに高い音が響き渡った。

「わっ、割っちゃったぁぁぁ!!!」
「で、でぇじょうぶか!?」

ガタッと立ち上がった悟空がすぐ横に来る。
足元で粉々になったお皿に手を伸ばそうとしたけど、その手は悟空によって捕えられた。

「怪我してねぇだろうな」

あたしの両手をじっと見て、怪我がないことを確認している悟空。
心配してくれているところ恐縮ですが、今のは貴方のせいですよ?
何なの、今の不意打ちはっ!!?
まじまじと指を見続けている悟空を見ていると、今のはあたしの空耳だったんじゃないかって気さえしてくるけど…

「やっぱ、ダメか?」
「え、何が」
「だから、一緒に寝ねぇかって話」

…やっぱり、空耳ではなかったようです、神様…

「な、何で突然そうなるの??」

普段、あたしは悟天くんと一緒に寝ることが多かった。
一人で寝ているところへ、いつの間にか悟天くんが転がり込んできて…
気が付けば2人で寝るのが当たり前になっていったっけ。
今もまだ動揺したまま、そう聞けばにっこりと微笑む悟空。

「理由なんてねぇさ。ただ一緒に寝てぇんだ」
「でも、普段は悟天くんと寝てるのに、絶対変に思うよ」
「あれ、聞いてなかったんか?明日は悟飯と朝から稽古すんだってよ。名前を起こしちゃ悪ぃから今日は悟飯と一緒に寝るって言ってたぞ」
「…あ、そうなの?」
「こんなこと、なかなかねぇじゃねぇか」
「ん…でもなぁ…」

果たして…頷いて良いものでしょうか。
いくら、大きな子供のような人でも…
悪いことは考えてなさそうに見えても…
…一応、大の大人な訳だし…

「やっぱ、ダメなんか?」
「……………」

どうして、そんな道端に捨てられた子犬みたいな目をするかなぁ…
悲しそうな悟空の表情に思わず言葉が詰まった。
そして思う。
…大丈夫、かな…

「わかった、いいよ」
「ホントかっ!!やったぁ!!」

年甲斐もなく、子供のように喜ぶその姿に小さくため息をついた。
でも、あたしだって気付いてる。
今…きっと、あたしは笑ってるんだろうな。





その夜、初めて悟空の部屋で…彼と同じベッドで寝た。
布団に入った時に、にっこりと笑った悟空に

「大丈夫だ。オラ、何もしねぇからな!」

なんて言われて、余計変に意識してしまって

「そっ、そんなこと言われたら余計に恥ずかしいよっ!!」

と言いつつ、微妙に離れたまま眠りに付いたあたし。
でも朝、目が覚めた時には目の前に悟空の寝顔。
その逞しい腕に優しく優しく包まれていて…


ホント、悟天くんが大きくなっちゃったみたいだなぁ…とか。


そういえば、こんな間近でゆっくり顔を見たことなんてなかったかも…とか。


色んなことを考えていたら、また笑っていた。
自分でもびっくりするくらい、今この時に幸せを感じている。
間近で悟空の寝息を感じながら、彼の胸にそっと顔を埋めて目を閉じる…
気が付くとまたウトウトと眠っていた。

でもその後。
寝ぼけた悟空に力いっぱい抱き締められて、訳も分からないまま危うく閻魔大王様にご挨拶に行きかけたのはまた別の話…

「名前、悪かったって!怒んなよ〜」
「怒ってない。でも、もう悟空とは一緒に寝ない!」
「ほら、やっぱ怒ってんじゃねぇか」
「…あのね〜、サイヤ人の力で締められて、こっちは口から中身が出るかと思ったんだから!!」
「だから、悪かったって、名前〜〜」