29.苦手克服…?
好きなモノは、やっぱり好きで。
苦手なモノは、やっぱり・・・苦手。
『見上げれば同じ空。<29>』
「名前お姉ちゃ〜ん、一緒に遊びに行こうよっ!」
「え?どしたの、急に」
「だっていっつも僕一人でさ〜、つまんないよ〜」
天気の良い昼下がり。
鼻歌なんかを歌いたくなるような上機嫌でリビングの掃除をしていたあたし。
そのあたしの様子を椅子に座ったままじ〜っと見ていた悟天くんが、突然そんなことを言って来た。
今日は出掛けず家にいるから、珍しいな〜…なんて思っていたけど、そういうことか。
一緒に遊びに行きたかったのね。
「ふふ、わかった、いいよ」
「ホント!?やったぁ!!」
「何処に行く?」
「ん〜っとねぇ…」
行き先を一生懸命考えてくれた悟天くん。
そして…
「おい、茶」
「…はいはい」
今に至ります。
あのですね…あたしは確かに孫家にお世話になってますよ?
ええ、もうこれでもか!ってくらいお世話になっていますとも!!
でも、ですね。
「はい、は一回でいいってガキの頃に教わらなかったのかよ?」
「〜〜〜〜〜っ!」
バーダック家にお世話になった記憶はありませんよ〜!
何故!
何故、あたしがバーダックさんの家で家政婦みたいな扱いを受けているのでしょうか。
ねぇ、教えて悟天くん!
…なんて、頭の中では色々爆発しているけれど当然口に出す勇気なんてあたしにはない(涙)
「…まさかバーダックさんに躾の云々を諭されるとは思ってませんでした…」
「これでも2人育て上げてるからな」
「あぁ、なるほど」
言われて、改めて気が付いた。
そうだった…この人、これでもでかい息子が2人もいるお父さんなんだよなぁ。
そして悟飯くんや悟天くんからしたら、おじいちゃん…なんだよなぁ。
うん、はっきり言って見えません。
「何だよ?」
「いえ、別に」
どっかりと椅子に座ったまま、横からお茶を出すあたしを睨みつけてくるバーダックさん。
ごめんなさい、顔に何か書いてありましたか?
「…あんまり、睨まないでもらえますか?」
「あ?」
「怖いんで」
「悪かったな、元々こういう顔なんだよ」
「……………」
けっ、とか言いながらバーダックさんはそっぽを向いてしまった。
正直な話。
あたし、バーダックさんのキャラがまだ掴めません…!
あの後、しばらく悟天くんと2人で空を散歩したりしていたあたし。
あ、散歩と言ってももちろんあたしは悟天くんに抱えられながら…ね。
どれくらい時間がたった頃だったか、ふと悟天くんが行こうと提案してきた場所。
それがバーダックさんの家だった。
…もとい、悟天くんに言わせれば“おじいちゃんの家”だそうだけど。
正直、バーダックさんとはまだどんな話をすればいいのか困ってしまうことがある。
会ったのだってこの前が初めてだし、今日は悟空もいない。
バーダックさんは何故かこうやってあたしにお茶を入れさせたりと絡んでくるけど…
さて、どうしたものか。
そんなことを悶々と考えていたその時。
「おい、親父!あんまり苛めんなよ。困った顔してるぜ、そいつ」
「苛める?ふん、誰が」
「全く。ててっ、悟天!髪ひっぱんな!」
「きゃははっ」
リビングに入ってきたラディッツさん。
その後ろには長い髪の毛にじゃれついている悟天くんがいる。
ラディッツさん…悟空のお兄さん。
なんかあたし、漫画を読んですごく悪い人ってイメージだったけど。
「名前、だっけか?」
「あ、はい」
「お前も食うだろ?」
その手には焼きたてホカホカのホットケーキが。
…い、意外と家庭的なんですね。
「い、いただきます」
「おう。じゃ、そっち座れや」
「は〜い」
顎でテーブルを指すラディッツさんに従って、嬉々としながらテーブルにつく悟天くんとあたし。
誰かに作ってもらったホットケーキを食べる…
一体、何年ぶりだろう。
「美味しい」
「そりゃよかったな」
ぶっきら棒にそう答えるラディッツさん。
バーダックさんよりは話しやすい雰囲気だけど、こういうところを見ているとやっぱり親子なんだなぁ…なんて思ってしまう。
そして、またしても気になるものがあたしの目に飛び込んできて…
思わず手を伸ばした。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「うん、やっぱり良い手触り」
「名前〜〜〜っ!」
フワフワのラディッツさんの尻尾。
うん、あたしはやっぱりこの尻尾の手触りが結構好きだ。
いきなり触られたからかな…
ラディッツさんは背中を仰け反らせるようにして驚いていた。
「はぁ、てめぇはそれしかすることがねぇのかよ…」
「だって」
「力いっぱい握るのはよせよ?そいつは鍛えてねぇんだからな、尻尾」
呆れたように横目であたし達を見ながら、バーダックさんが声をかけてくる。
「親父!余計なこと言うんじゃねぇよ!」
「けっ、自業自得だろうが」
あ…ラディッツさん、ちょっぴり涙目…
「そんなに気持ちいいの?僕も僕も〜!」
「悟天っ、てめぇは来んなっ…あ゛〜〜〜〜っ!!!」
あたしの手からスルリと抜けていったラディッツさんの尻尾に今度は悟天くんがじゃれている。
ふぅ、と息をついてテーブルに座り直すとバーダックさんと目が合った。
「ラディッツさんはホントに苦手なんですね、尻尾に触られるの…」
「元々俺たちサイヤ人の弱点だからな」
「そう、なんですか」
ちょっぴり驚いた。
あたしはドラゴンボールを知っているから、サイヤ人のこともわかっていたけど…
あのバーダックさんが自分から弱点のことを話してくるなんて。
もちろん克服しているんだろうけど…それでも思った。
平和になった世界にいるせいで丸くなった…のかな。
…あれ?
そういえば、あたしの知っているドラゴンボールの世界では死んでしまったはずのバーダックさんもラディッツさんも、どうしてこの世界では生きているんだろう。
そんな風にも思ったけど、これって聞いていいことなのかどうしてもわからなくて…
あたしはその疑問をグッと飲み込んだ。
「そういや…」
「え?」
声をかけられて顔をあげると、バーダックさんが頬杖をついたままジッとあたしを見ていた。
「お前ら、何だって急に来やがったんだ?」
「何で…って、悟天くんが行こうって誘ってくれて」
「あ?」
そう、あたしも訳がわからないまま気が付いたらココに着いていたような状況。
何で、と聞かれたってわからない。
その時、ラディッツさんとじゃれていた悟天くんがパタパタと戻ってきた。
「だって、だってね!」
元気いっぱいの表情の悟天くんの後ろのほうでラディッツさんがソファにぐったりと倒れこんでいるように見えるのは…
あたしの気のせいでしょうか??
「おじいちゃん、名前お姉ちゃんに会いたそうだったから」
「…へ?」
悟天くんの一言にキョトンとしてしまうあたし。
思わずバーダックさんのほうを見ると、思いっきり眉間に皺を作っていた。
「はぁ?何言ってやがる…んな訳あるか」
「だっておじいちゃん、僕にお姉ちゃんのことよく聞いてたよ。元気にしてるのか、とか変わりはないか、とか」
悟天くんにそう言われて、バーダックさんは小さく舌打ちをした後すぐに顔を背けてしまった。
「遊びにおいでよって何回も言ったのに、おじいちゃんもおじさんも来ないんだもん。だから、僕が連れてきてあげたんだよ」
おじさんも名前お姉ちゃんに会ってみたいって言ってたしね。
ニコニコしながらそう言い切る悟天くん。
バーダックさんが、あたしに??
…それはないでしょう〜…とか思いつつ。
子供は正直だってよく言うけど、本当なのねぇ…なんて感心してしまう。
孫だからこそなのか、このバーダックさんを目の前にしてこれだけズケズケ言いたいこと言えちゃうとは…
悟天くん、将来絶対大物になるわ!
「俺は!ただ親父がやけに口にする名前だから一回会ってみてぇなって思っただけだぜ」
「あ、そういえばはじめまして」
「あぁ、そだな…よろしく」
復活してきたラディッツさん。
そういえば初対面だったことをふと思い出し、にっこりと挨拶をする。
ラディッツさんは少し照れくさそうに頬を掻きながら、顔を背けた。
思わず笑ってしまうあたし。
「何だよ?」
「だって、ラディッツさんとバーダックさんそっくりなんだもん」
目付きの感じとか。
顔を背ける仕草とか。
雰囲気がそっくりだと思った。
でも、2人にとっては心外そのものだったみたいで…
「あぁ?どこが!?」「はぁ?どこがだよ!?」
すぐに言い返してくるけど、その反論はものの見事にハモっていて。
「ほら、ね」
ふふ、と笑うあたしに対して、バーダックさんとラディッツさんはお互い睨みあったまま不服そうにしていた。
バーダックさんは顔は悟空に瓜二つだけど、雰囲気は完全にラディッツさんと同じなんだなぁ。
うん、ちょっとだけ…ほんのちょっとだけど、この人のキャラが見えてきたような気がした。
「けっ、てめぇが俺に似てるなんざ…考えただけで鳥肌モンだぜ」
「俺だってだよ!だいたい、俺は親父みたいにズボラじゃねぇ」
「それはてめぇが女々しいだけだろうが」
「なっ…俺に家事全般押し付けといて、そういうこと言うかよ」
もしかして親子喧嘩勃発…?
あぁ、ひょっとしてこういう流れでこの前もラディッツさんがご飯作らない、なんて言い出したのだろうか。
あたしはちょこんとテーブルについたまま何処か遠巻きに様子を伺っていた。
悟天くんも黙々とホットケーキを食べ続けているし、右に習えとしますか。
だけど、思った。
バーダックさんもラディッツさんも目付きと口は良くないけど…悪い人じゃないんだ。
この人たちともいつの日か仲良くなれたらいいなぁ。
「悟天くん、ホットケーキ美味しいね」
「うんっ!」