31.…お、怒ってる…?


…悟空が変だ。




『見上げれば同じ空。<31>』




ターレスさんの一件で、バーダックさんの強烈なゲンコツをくらった悟空。
あの後、悟空に促されるまま悟天くんと3人で帰ってきた。
あれからずっと…
何だか、悟空が変…な気がする。
いつも通り、悟空に抱っこされて舞空術で帰って来たけど、その間の口数も少なかった。
悟天くんが話しかけてくる言葉に「ああ」とか「そうだな」とか相槌を打つ程度。

「……………」

いつもだったら、ニコニコ楽しそうに悟天くんと話してるのに。
そして…ですね。
只今、気まずさMAX。

「……………」

夕食も終わって、悟飯くんは勉強。
悟天くんはリビングでテレビを見ている。
キッチンで洗いものをしているあたしの背中に…悟空の視線が突き刺さっているような気がして仕方がないのですがっ!!!

あたしが、気にしすぎ??
自意識過剰なだけ??
だいたい、いつもなら悟空もリビングにいることが多いのに、何で今日に限ってキッチンにず〜っといるの?
あっ、もしかして食べ足りない??

「…ね、ねぇ悟空」
「何だ?」

気まずさを振り払って洗い物をしながら、振り返ると案の定…
キッチンの椅子の背凭れに凭れかかるようにしたままでいる悟空とバッチリ目が合った。

「ご飯、足りなかった?」
「いや、そんなことねぇぞ」
「そ、そう」

じゃあ、一体何なの〜〜!?

「……………」

気まずさに耐えられなくて、あたしは視線を洗い物へと戻した。
どうしよう…
もしかして、何か怒ってる??
…そういえば、ターレスさんにも何でかすごい怒ってた…
色んなことが頭の中をぐるぐると回る。

その時。

「…っ!!!」

脇腹の横から急に腕が出てきて…思わず飛び上がりそうになった。
バクバクと煩くなる心臓。
その腕の感触は悟空だ…

「ご、く…」

言葉が出てこないあたしの体を悟空が後ろから抱き締めてきた。
首元にも暖かい感覚。
たぶん、悟空が額を預けてきている。
思わず手を止めるあたし…水の流れる音だけが響く。

「悟空…どう、したの?」
「…わかんねぇ」

即答されたけど、意味不明。
あたし、一体どうすればいいですかっ!!

「何か…変だよ?」
「あぁ…オラもそう思う」
「…怒ってるの?」
「…わかんねぇ。でも、確かにイライラすんだ」
「っ…」

その一言にドキッとする。
…あたし、何かしたかな…?
どうすることも出来なくて、濡れていた手をタオルで拭いてから腰に回っている悟空の手をポンポンと撫でてみた。
悟空の腕にぎゅっと力が籠もる。

「…おめぇ、さ」
「え?」

顔を横に向けると悟空も顔を上げていて。
あまりにも至近距離だったことに少し驚いた。

「ターレスのこと、どう思う?」
「どう、って…」

一瞬何を聞かれているのかわからなかった。
どう、と聞かれても…ね。

「今日初めて会ったし…特に、何も」
「……………」
「悟空に似てるなぁ、としか思わなかったよ」

…っていうか、正直色んなことを考えている余裕なんてなかったしね…

「そ、っか」
「…?」
「オラ、何かモヤモヤしてんだよな…あれから、ずっと」

あれから…たぶん、バーダックさんの家でのことを言ってるんだろうなって思った。
あたしの顔のすぐ横で、悟空は困ったような顔をした。

「なんか、ターレスに名前を取られちまうって思ったんだ」
「…へ?」

変だよな、と笑う悟空にあたしは否定も肯定も出来なかった。

「そしたらすげぇイライラしてよ…」
「…超サイヤ人になってたしね」
「ははっ、そうだなぁ…でもよ、今はすげぇホッとしてんだ」
「…?」

抱き締められていた腕が緩んで、そのまま頭を撫でられた。
悟空の大きな手で頭を撫でられるのは正直嫌いじゃない。
至近距離でちょっと恥ずかしいけど、悟空のことをじっと見つめるあたし。

「オラん家で一緒に飯食って、後片付けしてくれてる名前の後ろ姿見てたらな…なんか、何でイライラしてたんだろうな、って」
「ははっ」

気が付いたら、あたしは腰に回っている悟空の手をそっと握っていた。

「あたし、ココしか帰る家ないもん」
「ああ」
「だから…」

悟空が怒っているとどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
悟空の笑顔が好き。
太陽のような表情をしている悟空の暖かさが好き。

「名前」
「えっ…」

その時、悟空の大きな手が頬に添えられた。
真剣な表情…
悟空のこんな表情を見たのは初めてだった。
自然と瞳を閉じるあたし。
…何となく、そうしなければいけないような気がしたの。
でも、次の瞬間。

「名前お姉ちゃ〜ん!」
「っ…!!?」



ドカッ



ガシャンッ



「こっちにも洗い物あったよ〜!」
「あ、悟っ、悟天くん!あぁ、ありがとねっ!!」
「うん!…あれ?お父さん、何やってんの??」
「い、いちち〜…」

リビングに残っていたらしいカップを持ってきてくれた悟天くん。
あたしにカップを渡しながら、何故か壁に凭れかかり後頭部を押さえている悟空を不思議そうに見ている。
あ、はは…思わず吹っ飛ばしちゃった…悟空のこと。
こっちに来て以来、何故か怪力になってしまっていたこと、すっかり忘れてた。
まぁ、悟空なら大丈夫だろう…たぶん。

「何かお手伝いする?」
「ううん、大丈夫よ、ありがとう」

今もドキドキとうるさい心臓を持て余しつつ、あたしは悟天くんの頭を撫で続けた。
…何にしても…
悟空もどうやら普通に戻ったようだし…よかった、かな?