33.予期せぬ事態。


「さて、ではよろしく!」
「あり?何だ名前、わざわざ着替えてきたんか」
「そ、そりゃスカートのままやる訳にはいかないでしょ」

すぐに飛べるなんて当然思っていないけど…もしも…もしも飛べたりしちゃったら。
パンツ丸見えになっちゃうじゃない!
それはどうしても避けたい事態だ・・・一応乙女として!どうしても!!

「ま、いいけどなっ。じゃ、早速始めっか」
「お願いします!」

家の外に出て早速舞空術の修行開始。




『見上げれば同じ空。<33>』




…なのは、いいのですが…
もうすでに1時間…いや、2時間…??

「ん〜〜〜〜〜〜」
「違う違う。もっと気を集中して、足元に集めるようにすんだ」
「ん、んんん〜〜〜〜〜っ!!」

必死になって集中しようとするあたし。
いえね、集中しているつもりなんですよ?
なんですけど、全然、全く、浮かぶ気配ないんですけど!
直立不動のまま力み続けるあたしに悟空は困ったように頭を掻いた。

「おっかしいなぁ…何でだ?」
「何で、と言われましても」
「変わってはいるけど、大した“気”は持ってると思うんだけどなぁ」

なんか、想像してたのと違う。
本の中でビーデルさんが悟飯くんに舞空術を教えてもらってた時、こんな感じだったっけ?
いや、違った気がする。

「あ、あのね悟空」
「ん?」
「大変言いにくいんですけど…あたし、“気”の扱い方を知らないんですけど」
「いぃ!?なぁんだ、そうだったんかぁ」

ポン、と手を叩いて悟空がニカッと笑った。
はは、まいったまいった〜、と一頻り笑った後…その場にドカッと腰を下ろす。

「名前、ここ座れ」
「う、うん」

胡坐をかいて座っている悟空の向かいにペタンと座るあたし。

「じゃあ、“気”のキソから教えっからな」

そう言って、悟空は両手をかざしてその中心に小さな光の玉を作って見せた。
これこれ!ビーデルさんもやってた!!

「綺麗…」
「これが“気”だ。まずはこれを自由に出せるようにしてからだな」
「ん」

これはビーデルさんがやっていたのを見たことがあるから、何となくイメージが出来る。
早速あたしも両手をそっとかざしてみるけど…

「ん〜〜〜」

やっぱり力んでしまう…結構難しい。
その時だった。

「名前、力んでも“気”は出ねぇぞ。力抜いて、楽にすんだ」
「む、むつかしい…」
「ほら〜、また力が入ってっぞ」
「っ…!!」

悟空の大きな手があたしの両手を優しく包んだ。
こっ、こんなことされたら余計に力入っちゃうんですけど。
何だか一気に緊張してしまったけど、悟空の手の暖かさが伝わってきて…少しずつ落ち着いてきた。

「そうだそうだ、いいぞ〜」

うん、何だかちょっとわかってきた。
さっきとは感覚が違う…暖かい。
…で、出来るかも。
心を静かに構えて、あたしは両手に集中した。

「あ、そういえばよ」
「っえ…?」

だけど突然あっけらかんと話しかけられて、あたしの集中力はポッキリと音を立てて折れた。

「な、なに?」
「おめぇ、何で急に舞空術を教えて欲しい、なんて言い出したんだ?」
「ん〜、色々不便だなぁ…って」

それは以前から思っていたこと。
出掛けたいと思っても、ここはパオズの山奥。
交通手段なんて当然ない。
ジェットフライヤーの免許もない。
あたしに残された手段といえば、悟空たちにお願いして連れて行ってもらうしかないけど…

「それじゃあ、あまりにも迷惑かけすぎだなぁって思って」
「そっかぁ?オラは別にそれでもいいけどな」
「修行に行ってて家にいないことのほうが多いくせに〜」
「いやぁ、それはそうだけどよぉ」

ちょっぴりむくれたように頬を膨らませると、悟空は困ったように笑った。
そして極めつけは今日の宅配屋さんだった。
こんなところまで荷物を届けてくれたけど、その様子はあまりに不憫…
もしあたしがもっと手軽にブルマさんに会いにいけるようになったら。
そう思わざるを得ない。

「それにね、あたし自分で空を飛んでみたかったんだ!だから、頑張るから」

そっか、と言いながら笑う悟空は嬉しそうに見えた。

「じゃあ、もう一回…」

ん、と気持ちを集中させて再びかざした手の中心を見やる。
今度はすぐに暖かさが沸いてきた。

「どうだ?今度は良い調子なんじゃねぇか?」
「ご、ごめん、悟空。ちょっと黙って、て…」

その瞬間だった。


ボンッ


「わっ、わわわっ」

出た!
何か出た!!
でも、これって…

「ひゃあ〜、でっけぇ〜」

今、あたしの両手の上にプカプカと浮いている光の球体。
予定では2〜3センチのを出すはずだったんだけど、今のは…50センチはあります、余裕で。

「ど、どうしたらいいの!これ!」
「そっとだ!そ〜っとだぞ〜、静かにもう一度体ん中に戻すんだ」
「そんなこと言ったって〜!!」

両手に集中してみるけど、一向に消える気配のない球体。
もうダメ〜、なんて思いながら仕方なくあたしは人のいない方角に球体を放った。
次にあたしの前に起こったのは轟音と爆風…それがおさまった後、目に入ってきたのは綺麗にトンネルが出来ちゃったお山でした。

「…あ…ご、ごめんなさい…」

目の前の光景に唖然とするあたし。
固まるあたしに反して悟空の表情が晴れやかだった。

「すげぇじゃねぇか、名前〜!やっぱおめぇっ、修行し」
「だから、しないってば〜〜!!」

あたしはっ…
あたしは、ただ一人で空を飛べるようになりたかっただけなのよぉ!!!

まだまだ…まだまだ前途多難のようです。