34.力の使い方

「きゃぁぁぁぁぁっ!!!!」
「名前、すげぇぞ!見てみろ、浮いてっから」

あたしのすぐ横に来た悟空にそんな励ましを受けた。
だけど、そんな悠長なことを言っている状況でないのだけは確かです。

「ダメッ、ダメッ、っ落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

はるか上空にて。
あたしはもう今日何度目かもわからないスカイダイビングを経験している。
これは浮いているって次元ではないと思うのですがっ。
何で、気を集中して体が軽くなったと思った瞬間、一気にこんな上空まで飛び上がってしまうの!
何度も、何度も…

「よっと」
「っ…」

あたしの落下速度に合わせて横を飛んでいた悟空に抱きとめられた。
たぶん、悟空は再び上昇することを期待して、すぐには助けないで様子を見ているんだろうけど…
ご期待に添えなくてごめんなさい。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「大丈夫か?」

心配そうにあたしの顔を覗きこんでくる悟空。
とりあえず、必死になって頷いておいた。
…声を出せるような余裕なんてものは全くありません!
すぐ飛べるようになるなんて思っていなかったけど、これって想像してたのとだいぶ違う。。。(涙)







『見上げれば同じ空。<34>』







「だからさ、そんな気にすんなって」
「……………」

隣で悟空がさっきから同じような言葉を何度もかけてきている。
その度、あたしは力なく笑って見せるしか出来ない。

ココは西の都。
カプセルコーポレーション。

舞空術の練習を終えて、傷心のまま家に帰ったあたしの目に入った電話機の点滅する光。
確認するとブルマさんからの留守電だった。
服のお礼を言いたくて、あたしが電話した時にはちょうど不在だったのよね。
忙しい合間をぬって、ブルマさんのほうからかけ直してくれたらしかった。
しかも…

“暇してるなら、迎えに行くから夕食食べに来なさいよ〜”

というお誘いまでもらってしまった。
迎えに来てもらうなんて申し訳なさすぎるっ!!
そんな訳で、嬉々としている悟空と一緒にブルマさん宅を訪れたのですが…
正直、あたしはまだ昼間のことを引き摺っています。

「どしたの?名前、元気ないわねぇ」
「今、自分の才能の無さに力いっぱい凹んでいるところなんです…」

ポツッと呟くあたしを見て、キョトンとするブルマさん。
悟空はそんなあたしの隣で相変わらず困ったように頭を掻いていた。

「何だか良くわからないけど…とにかく、そんな暗い顔しないの!」
「んむっ…」

笑顔のブルマさんに頬をむにっと摘まれて、あたしは無理矢理笑顔を作らされる。

「そんな顔してたら、せっかくの可愛い顔が台無しよ〜?」
「ブ、ブルマひゃんっ…」
「ねぇ、孫くんだってそう思うでしょ?」
「ん?ああ、そだな。オラ、笑ってる名前が好きだぞ」
「っ…」

な、何を言いますか、悟空!
ぎょっとするあたし。
ブルマさんはそんなあたしと悟空の様子を見て、にっこりと笑った。

「あらあら、仲が良いのね、ホントに」
「ああ、まぁな!」
「ちょっ…悟空〜」

またあたし、一人で慌ててる。
悟空にそんな自覚がないのはわかってるけど…何だかいつもあたしばっかり心を掻き乱されてるみたい。

「それにしても嬉しいわぁ。私が送った服、早速着てくれたのね」
「あ、はい。ありがとうございました、あんなにたくさん」
「いいのよ、あれくらい。そうだ!ちょっと来て」
「えっ、あ、ブルマさん!」

ふと思いついたように、ブルマさんはあたしの手を取って立ち上がらせた。
あっという間にブルマさんに手を引かれ、連れられていくあたし。

「孫くん、ちょっと名前のこと借りてくわね〜」
「え?あ、ああ」

時としてブルマの勢いは凄まじい…
悟空としても、頷くしかなかった。

な、ブルマなら大丈夫だろ。
名前もブルマといる時は楽しそうにしてっしな。

一人になった悟空。
その場からは動くことなく、ソファの背もたれに凭れかかるようにして頭の後ろで手を組んだ。
今、名前は側にいないのに…何故かその口元は笑ったまま。

いやぁ、楽しかったなぁ。

ふと、名前に舞空術を教えていたときのことを思い出す。
嬉しかった。
たったあれだけのことでも、名前が自分を頼ってきてくれた。
“気”の使い方だけではあるが、武道を教え、一緒の時間を過ごすことが出来た。
そして、それでも…と今もやはり思ってしまう。

「やっぱ、もったいねぇよなぁ」

ボーっと天井を見つめたまま、無意識のうちにそう呟いていた。
その時。

「貴様、一人で何を言ってやがる?」
「お?」

声をかけられた方角に見知った姿を見つけて悟空は笑った。

「あ、べジータ。おっす」
「ふん」

挨拶を返すこともなく、腕組みをしたままのべジータ。
当の悟空も気にはしていないようで、にこにことしている。
べジータはそんな悟空を軽く睨むと、ふと顔を上げた。

「来てるのか、あの女も」
「ああ。今ブルマと一緒だ」
「…目立つな。本当に変わった“気”をしてやがる」

なんと言葉にしていいのかわからないが…
思わずそう口にせざるを得ない。
それくらい、名前の持つ“気”は特殊でこの世界の誰が持つそれとも異なっていた。

「なぁ、べジータ」

言葉を発することなく悟空のほうに視線を向けることで返事をするべジータ。

「もし鍛えたら、うんと強くなりそうなヤツがいたらよぉ…やっぱ鍛えてみてぇって思うよな?」
「何?」
「オラ、ずっと前からそう思ってたけど、何度言ってもアイツは嫌がっちまうんだよな」

もったいねぇよなぁ…と小さく呟く悟空にべジータが眉を寄せた。
まさか…と思う。

「ちょっと待て。貴様、まさかあの女のことを言ってるんじゃないだろうな」
「いや、でもよぉ…かなりのリキは持ってると思うんだ」
「信じられんな」

悟空は思う。
気を具現化しようとして、いきなり球体を出してしまったことも。
静かに浮かび上がろうとしているだけなのに、いきなり上空にまで一気に飛び上がってしまったことも。
はじめは自分の教え方が悪いのかと思っていたが、何かが違う気がする。
名前は自分の中に秘めている“気”をうまくコントロール出来ていないのではないか。
だから、何かのきっかけで簡単に溢れ出して来てしまうのではないか。
何度も考えたが、悟空にはそうとしか思えなかった…

「…随分と肩入れしてやがるな」
「ん?何がだ?」
「あの女に対して、だ。」

まさか、自分で気付いていないのか?とべジータに続けられた悟空。
すぐには返答できずに天井を仰いだ。

「ん〜、どうだろうなぁ…でも、楽しいんだよな、名前といると」
「……………」

天井を仰ぎながらも、嬉しそうに口元に弧を描かせている悟空。
べジータにとっては異世界の女、と聞けども興味はさほどない。
だが、悟空にこんな表情をさせる女…となればどんな女なのか、わずかなれその存在も気になるもの。

「…ふん」

ふい、と視線を逸らしたその時。
戻ってくる2人の足音が少しずつ近付いてくることに気が付いた。