38.温泉パニック!!?


「すみません、遅くなりましたっ」

悟飯くんが遅れてやってきたのは、食事を終えてみんなでまったりしていた頃だった。

「悟飯、遅かったじゃねぇか」」
「あはは、すみません」

悟飯くんの後ろにチラリと見えた人影。
首を傾げたあたしを見て、悟飯くんが後ろの人物を一歩前に進ませた。

「名前さん、この方はビーデルさんです。僕と同じ学校の同級生なんですよ」
「……………」

無言のまま、あたしのことを見ている彼女。

「ビーデルさん、こちらさっき話した名前さん」
「ええ、よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」

…あれ?
ふと感じた違和感。
ビーデルさんのあたしに対する視線があんまり好意的ではないような気がする。

「悟飯くんたち、食事まだでしょ?さっき遅れてくる人がいるってことは言ってきてあるから、連絡だけしとくわね」
「あ、すみません、お願いします」
「オラたち、先に風呂行ってっぞ」
「わかりました。じゃあ、行こうかビーデルさん」
「…ええ」

そのまま悟飯くんと一緒に遅めの食事を取りにいった彼女の後姿をあたしはただ眺めるしかできなかった。




『見上げれば同じ空。<38>』




「あ〜、気持ち良い〜」

広々とした温泉に肩まで浸かってご満悦のあたし。
気持ちよすぎる…やっぱりあたしは日本人だもんね!!なんて一人納得してにこにこしてしまう。

「名前、随分ご機嫌ねぇ」

あたしの横にブルマさんが近付いてきた。

「もう気持ちよくってvvまさに至福!!!ですよね〜」
「え、えぇ、そうね」

グッと拳を作りながらそう言うあたし。
あっ…今、ちょっと引かれたかも(笑)
でも、今のあたしにはそんなの気になりません。
まさかこの世界に来てまで、こ〜んな素敵な温泉に入れるとは思っていなかったからその感激も相当のものなんですよっ!!

「でもよかったわ〜、喜んでもらえて」
「はい!ありがとうございます」
「少しは元気出た?」

そう言って笑ったブルマさんに顔をのぞき込まれる。
やっぱり…舞空術の一件で落ち込み気味だったあたしを元気付けようとしてくれていたんだ…

「はい!何だか元気になってきました」
「そう。よかったわ」

あたしはブルマさんににっこりと微笑み返した。
そうだよね…何でもすぐに上手に出来る訳ないもん。
帰ったら、諦めないでまた頑張ってみよう…舞空術。
そう思ったら何だか胸のあたりがすっきりして、もう一度微笑んで肩までお湯に浸かり直した…その時。

「それにしても…」
「え??」

何故か、ブルマさんがまじまじとあたしのことを見ている気がする。

「な、何でしょう?」

根拠なんてないけど…嫌な予感がするのはあたしの気のせいでしょうか??

「名前ってホント着痩せするのね〜」
「へっ??」
「胸よ、胸。やっぱり名前が好むような服着て隠してちゃもったいないわよ!」

突然のブルマさんの一言にまさに目が点…
全然気のせいなんかじゃなかったっ!!

「ブ、ブルマさん!そんなこと大きな声でっ…恥ずかしいです〜」
「いいじゃない。どうせ貸切なんだし…ね、18号」
「あたしに振るなよ、そんなこと」

ふぃ、と視線を逸らしてマーロンちゃんの面倒を見ている18号さん。
あたしはっ…ブルマさんみたいなナイスバディーじゃないんだから、露出とか無理ですよ〜!!!
とか、喚いてみるけれどブルマさんは楽しそうにしている。
あたし…からかわれているんじゃなかろうか…

「名前、これからどんどんアンタのこと改造していくからね!」
「改造って…ブルマさんが言うと怖いですよ〜!」
「んふふふ〜」

何故かじりじり距離を詰めてくるブルマさんに苦笑いで距離を取ってしまう。
たぶん…無意識の防御行動です、はい。

「これだけ胸あるなら、もう少しセクシー系のスタイルも似合うわよ、きっと。そうすればもっと大人っぽく見せられるし」
「そ…それはちょっと魅力的です、け、ど…」

その時、有り得ない感覚に言葉が出なくなる。
だって…だって…!!!

「ブッ、ブルマさんっ!!?」
「ん?なぁに??」
「むっ、胸さわっ…さ、わ…ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!」




一方、男湯。




「「「「「「「……………」」」」」」」

…一同、赤面。
壁と天井の隙間がわずかに開いているので、女湯の会話が筒抜けなのです。
2人の声が大きいものだから、余計に…

「ブルマさん…何やってんすか、まったく」

顔全体を真っ赤にしているクリリン。
その横でトランクス、悟天のお子様コンビも口元まで湯に浸からせて顔を赤らめている。

「トランクスくん…僕、なんか恥ずかしい…」
「言うな。俺もなんだから…」

ブクブクしながら会話をしているところが何とも可愛い2人。

「……………」
「ヤムチャさま…大丈夫ですか??」
「あ、あぁ…」

ヤムチャのことを気遣うプーアルも同じく赤面している。
声だけしか聞こえない、というのが色々想像してしまってよろしくない…
その時。
ふと視線を移したクリリンの目に不穏な動きをする2人の姿が入ってくる。

「…武天老師さま、何やってんですか?」
「ウーロンも」

何やら壁に張り付き、せわしなく動いている2人。

「何…こういう温泉には大抵壁に穴が開いてるもんなんでな…ちょいとそれを」

それ、明らかに覗き行為をしようとしてますよね!?
とっさにそう思ったクリリンの顔がますます赤くなる。

「ちょっ…それ、犯罪じゃないですか!?」
「だからちょっとだけじゃよ、ちょっとだけ」
「や、やめて下さいよ!だいたい、向こうには18号もいるんですから」

悟空だってべジータだって怒りますよ…
そう言いながら振り向けば2人とも、まだ洗い場で猛烈に髪を洗っている。
全くこちらの状況に気が付いていない。

「ヤ、ヤムチャさんも何とか言って下さい…よ…」
「はっ!ヤムチャさまぁぁぁぁっ!!!」
「………」ブクブク

ヤムチャ…自分でしてしまった妄想とのぼせも合わさって…ダウン(笑)
沈みかけたところをプーアルに何とか引き上げられている。

「亀仙人さんもウーロンさんもっ、それ、いけないことだよ!」
「そうだよ!だいたい、ママ怒らすと怖いんだからな!」
「な、何だよ、だからちょっとだけだって」
「「だめっ!!」」

思わずたじたじになっているウーロンに一喝のお子様コンビ。
意外な援軍にクリリン…思わず涙が出そうになった。
だが、2人の言葉を聞き武天老師の手元がふるふると震えている。
そして…

「何じゃ何じゃみんなで寄ってたかって!!わしは老い先短いんじゃ!!少しくらい良い思いをさせてくれたって良いじゃろ〜!!!」
「な…何も泣かなくてもいいじゃないすか」

クワッと振り返った武天老師に思わず一歩引いてしまいそうになるクリリン。
でも、その時だった。



ヒュルルルル…




カッコーーーーン…



何故か降って来た洗面器が武天老師の頭頂部を直撃。

「…な、なん…」

ドサッ。
武天老師…ダウン。

「ふんっ、でかい声で話してるから全部聞こえてんだよ!」

壁の向こうからそんな18号の声が聞こえてくる。
おそらく壁と天井の隙間から武天老師めがけて洗面器を投げてきたのだろう。
ものすごいコントロール…

「さっすが18号!」
「すご〜い、18号さん!」

さらにブルマと名前の声まで聞こえてきた。

「ウーロンも欲しいかい?」
「ひぃぃっ!ごめんなさいっ!!!」

直接名前を呼ばれてしまったウーロンもたまらず壁際から離れ、そのままザブンと湯に飛び込む。
人知れず胸を撫で下ろすクリリン。
その横ではトランクスと悟天が「18号さん、カッコいい〜!」と騒いでいる。

「…あり?」

そこへ髪を洗い終えた悟空がようやく湯に浸かりに来た。
プーアルにタオルで扇がれているヤムチャ。
洗面器を頭に直撃させたまま壁際で倒れている武天老師。
湯に浸かったまま顔を引き攣らせているウーロン。
それぞれを見た後にキョトンとして一言。

「…みんな、何やってんだ?」
「お前がいない間にさ、色々あったんだよ」

思わず脱力してしまうクリリンに、悟空は「そっか」と大して気にしていない素振り。
はぁ、と小さくため息をついて悟空の横に浸かり直した。

「俺さ、たまにお前の性格が羨ましくなるよ」
「ん?何だよ、急に」

悟空の質問にクリリンはただ苦笑いのまま首を横に振るのだった…