50.悪気ゼロ!!?


「名前お姉ちゃん、それ痛くない?」
「え?」

悟空とのちょっぴり未遂事件があった翌日。
何事もなく帰宅して、みんなで夕飯の食卓を囲んでいたその時。
正面に座っていた悟天くんに、ふいにそんなことを聞かれた。

…ん?何のこと??




『見上げれば同じ空。<50>』




「うめぇな〜、これ!」
「ホント?ブルマさんの家みたいに豪華なご飯は出来ないんだけどね」

もぐもぐと豪快に食事を続ける悟空に突然そう言われて。
あたしは肩を竦めながら笑って見せた。
正直、好きな人に作ったご飯を美味しいって言われて、嬉しくないはずがない。

「でも名前さん、みるみる上達していきましたよね、料理」
「悟飯くんの教え方が上手なんだよ」
「いえ、そんなことはありませんよ。あとは…」

そこで一旦言葉を切って、悟飯くんの視線は宙を彷徨う。

「野生動物を一から調理出来れば、完璧なんだけどなぁ」

いやいや、悟飯くん?
簡単に言いますけどね??
皆さん、おわかりだとは思うけど…パオズ山の野生動物を甘く見てはいけない。
下手をすれば、こっちが食べられそうになるんだから!!

「…ん〜…そこは、なかなか…ねぇ…」

調理できる食材の形になってしまえば、料理するのは何てことはない。
問題は…その食材にするまでの工程。
これだけはどうしても出来なくて、今も悟飯くんに頼り切っている状態のあたし。

「やっぱり、もっと頑張らないと、ダメだね」

思わず苦笑いをしてしまうあたしを見て、悟飯くんが笑った。

「あはは、無理することはないですよ。難しいところは僕に頼って下さい」
「でも…」
「僕としても一緒にキッチンに立てるのは結構楽しいので」

…悟飯くんは本当に優しい。
ありがとう、と笑顔で返したその時。
正面に座っている悟天くんが箸を口にくわえたままじ〜っとあたしのことを見ていることに気が付いた。

「悟天くん?どうしたの?」
「ん、名前お姉ちゃん、それ痛くない?」
「…え?痛くない…って何が?」

当然何を聞かれているのかわからなくて、キョトンとするあたし。
悟天くんはそんなあたしの横まで歩いてくると「ほら、ここ」とあたしの首にそっと触れた。

「え…何?悟天くん」
「ん〜、痛そうだなぁって…大丈夫?」
「う、うん、大丈夫だけど…何だろう?」
「何処かにぶつけた?」
「ううん?」
「そうなの?」

キョトンとしているあたしの首をそっと悟天くんが撫で続けている。
…く…くすぐったいよ、悟天くんっ…!

「じゃあ虫か、蛇にでも噛まれたのかなぁ」
「やっ、やだっ…やめてよ、悟天くん〜。あたし虫も蛇も苦手なんだからっ」

正直、考えるだけでもゾッとする!
でも、その時だった。
あたしはあることに気がついて、また別の意味で一気に汗が噴き出してくる。

「でもほら…本当に赤くなってるんだよ?」

…うっすらとだけど、何となく記憶に残っている…
まさか…まさか…

「ち、ちょっと、待っててね」

冷や汗&苦笑いでいかにも怪しいけれど、それどころじゃない。
事態は急を要する。
あたしはバタバタと洗面所に走り、鏡を確認した。
そして、思わず顔が真っ赤になる。

「…や…やだ…」

首筋にくっきりと残っている紅い痕。
思い当たることなんて、一つしかない。

「…あの時だ…」

昨日の夜の悟空との未遂事件。
確かにあの時、首筋にちり、と痛みを感じたような気はしたけど、あたしはそれ以上に余裕がなくなっていて…
大して気にしていなかったし、第一今の今まで忘れていた。
ということは、全然気付かずにブルマさんたちに別れを告げ、今まで過ごしていたことになる。
…はっ、恥ずかしいっ!!!

「あ、名前さん、大丈夫でしたか?」
「…う、うんっ」

とりあえず、心拍数を何とか落ち着けて…食卓に戻った。
悟天くんも心配そうにしていたから「や、やっぱり、どこかにぶつけたのかな」とだけ言っておいた。
でも、その時。
今まで黙々と食事を続けていた悟空があたしが隣の席に戻ったとほぼ同時に問題の首元を覗き込んでくる。

「…あぁ!」

そして何かを思いついたような表情。
…ちょ、ちょっと待って。
まさか…いくらなんでも…ねぇ?ちょっと、悟空さん??
ひたすら嫌な予感が脳裏をよぎるあたし。
そんなあたしに相反して、悟空の表情は明るい。

「それな悟天、父ちゃんが」
「わっ、わぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぅわっ!」

とっさに悟空の言葉を阻止しようとしたあたしの行動は正しいと信じたい。
あまりの衝撃に隣の悟空の口を塞いだあたしの勢いは止まらず…
そのまま2人一緒に椅子から転げ落ちてしまったけれど。

「悟っ、悟空っ!!何を言おうとしたの、今っ!!!」
「何って…オラ別に」
「オラがやったんだ、って言おうとしたでしょ!!?」
「あ、あぁ」

内容は切羽詰まっているけど、あくまで小声でやり取りをするあたしたち2人。
でも…でも…っ!!!

「悟天くんは、まだ7歳なのよぉぉぉぉぉ!!!(叫)」

我慢できなくなったあたしの叫びに悟空もどこか驚いているみたいだったけど、本当にそれどころじゃない。

「僕、もう8歳になったよぉ」

…という悟天くんのツッコミにもとりあえず「ごめんね!でもこの場合はどっちでも大して変わらないわっ!」とだけ答えておいた。
何か…精神的に泣きたい。

「名前、おめぇどうしたんだ?オラなんかしたか?」
「〜〜〜…あのね、悟空」

ガックリとあたしが肩を落とした時。
何故か響き渡る悟飯くんの咳払い。
何かと思って悟飯くんのほうを見れば、食事を口に運んではいるものの…ほんのりと顔が赤い。

「名前さん…僕らの前で、その格好も…ちょっと…」
「…え?」

悟飯くんに指摘を受け、ふと自分の姿を見下ろしてみるあたし。
あたしに倒され、呆気に取られながらも後ろに手をついて上半身だけを起こしている悟空。
そしてあたし、その悟空の上に…馬乗り。

「っあ!あぁぁぁ、ご、ごめんっ!」
「い、いえ…」

思わず真っ赤になって、あたしは慌てて起き上がる。
悟空はそんなあたしを見て…

「な〜、謝んのは悟飯じゃなくて、オラにじゃねぇのか?」
「え?」
「おめぇ、結構力あんだなぁ…オラも割と痛かったぞ」
「ごっ、ごめんっ!!?」

でもっ…元々は悟空が悪いんだからね!
あたしはものすごく恥ずかしくなって、元凶である首筋をコシコシとこすりながら、席に戻った。
そして、隣に座り直して食事を再開している彼を見て思う。



…教えなきゃならないことが…たくさんある…(遠い目)



孫家は今日も…平和です。
精神的に涙目のあたしを除いては…