61.…どこ行っちまったんだ…


「…な、んでだよ」

あの日。
家に帰ぇったら…名前がいなくなってた。





『見上げれば同じ空。<61>』





「…悟っ、悟空!」

扉をノックし続けてた。
すぐに扉は開いたけど、その時間すらオラにはもどかしく、長く感じたんだ。
オラを見て驚ぇた顔をしてるそいつの肩を、思わずガシッと掴む。

「クリリンっ!名前来てねぇか!?」
「…はぁ!?名前ちゃん?」
「ああ!」

答えながら亀ハウスの中に目配せして、気も探ってみるけど…

「こ、ここには来てないぞ?」
「…そ、そっか」

やっぱそうだよな。
思っていた通りと言えばその通りなんだけど、オラはガッカリした気持ちを抑えられなくて、クリリンの両肩にかけていた手を静かに降ろした。

「何だよ、お前ら…喧嘩でもしたのか?」
「…わかんねぇ」
「わかんねぇ…って」

クリリンが心配してくれてんは、すげぇわかるんだ。
でも、オラはそんなクリリンの言葉も話半分に聞いている状態。
何となく返事をしながら、頭では別のことを考えていた。

「本当に…どこ行っちまったんだ」
「おい、悟空っ!」

他に名前が行きそうな場所を必死に考える。
余裕なんてこれっぽっちもねぇ。
そのまま踵を返そうとしたオラの腕を強く引かれて、振り向くとクリリンだった。

「ちゃんと話せよ、悟空」
「でもよっ、そんな時間っ…」
「だから、ちゃんと話さないとわからないだろ!俺も、力になるからさ」
「……………」
「ちょっとは落ち着けよ…お前らしくないぞ」

クリリンに宥められても、小さく「…あぁ」と答えることしか出来なかった。
オラらしくねぇのはわかってんだ。
でも、名前を探してねぇと気が狂いそうになっちまう…
居場所がわからなくても…気を感じられなくても…





「…そりゃあまた、でかい壁にぶちあたったなぁ、お前ら」

今までのこと、全部話したらクリリンの感想はこうだった。

「でも、チチとはちゃんと話し合ってきたんだ」
「あぁ、それはわかってるよ。お前とチチさんはちゃんと離婚が成立してるんだから、本来なら悟空と名前ちゃんが付き合うのも、一緒に住むのも、何の問題もない」

黙って話を聞いているオラの目をじっと見て…
クリリンは「でもな…」と続けた。

「名前ちゃんが悟空と同じように捉えているかは…難しいところだよなぁ」
「…どういうことだ?」
「考えてもみろよ…あの娘、自分のせいで、って考えそうじゃないか?」

そういや、名前は自分のことよりもまず他のヤツのことを考えてた。
自分よりも他のヤツの心配。
自分よりも他のヤツの幸せ。
ふと、前に名前が言ってたことを思い出した。



“あたしの知っている未来では悟空はずっとチチさんと仲良くしてた!夫婦のままだったの!!”




…あの時の名前、泣いてたんだよな…




“きっと、あたしと会っちゃったからだよ…”




…なぁ、今もどっかで泣いてんじゃねぇのか?




“あたしが悟空からだけじゃなく、悟飯くんと悟天くんからも大好きなお母さんを奪ったんだよ”




「…クリリン」
「何だ?」
「名前の気、わからねぇか?」
「…え?」

オラは顔を上げて、真っ直ぐにクリリンの目を見てそう言った。
早く見付けなきゃって思ったんだ。
オラがいねぇうちにいなくなっちまったくれぇだから、オラのことを怒ってんのかもしんねぇけど。
今すぐ抱き締めてやらねぇとって…

「お前こそわからないのか?名前ちゃんの気」
「それがさっきからいくら探ってもダメなんだ…オラ、気が動転してっから」
「…まぁ、そうだな」

クリリンは意識を集中するように目を閉じた。
待ってる時間がこんなにも長く感じるのは初めてだな。

「…どうだ?」
「いや…ダメだな、俺にもわからない」
「おっかしいなぁ…名前は変わった気をしてるはずなんだけどな…」
「名前ちゃん、気を消したりなんて出来るのか?」
「…いや、たぶん出来ねぇと思う」

一瞬考えた後、オラはそう答えた。
そうだよな…気の消し方なんて、オラ教えてねぇし。
気のコントロールを教えた時だって、決してコントロールがうめぇって訳じゃなかった。
でかすぎる気をうまく扱えてねぇ…っていうのがぴったりだったもんな。
気を消すなんて繊細なコントロール、今の名前には無理だ。

「オラ、もう少しその辺を探してみる」
「あぁ…俺も何か感じたらすぐに教えるよ」

クリリンのありがたい申し出に「あぁ、すまねぇ!」と言いながら片手をあげて…
宙に浮かびあがるオラ。

「あっ、そういやブルマさんには聞いてみたのか?」
「あぁ、一番に聞いてみたさ!名前、ブルマと仲良いかんな…でも、行ってねぇってよ」
「そ、っか」

…ホントに、どこ行っちまったんだ。
このまま天界まで行ってみっかな…
名前の行きそうなところを考えて、進路を天界へと変えながらオラ、思ったんだ。

身体はあんなにすげぇ小せぇし、軽いのによ。
オラの中では…こんなにでっかい存在になってんだな…って。





それから3日。
名前は見付からないまま…オラはふと思いついて、父ちゃんの家に向かった。
名前は何でか父ちゃんのことが苦手みてぇだったから、まさかココにはいねぇだろうなって思ってたけど…
そのまさか…だった。

「名前か?いるぞ?」
「ほっ、ほんとか、兄ちゃん!?」
「っ、本当だからっ、掴みかかるんじゃねぇ!」

表で洗濯物を干していた兄ちゃんはオラのことを見て、少しびっくりした顔をして…
その次に二ヤリと笑いながら「ようやく来たか…馬鹿め」なんて言うからよ。
まさかとは思ったけど、ココに来てたんか。

「…よかった」

知らずのうちにそう呟いていた。
何だか…全身から力が抜ける感じだ。

「まぁ、俺がたまたまお前の家に行ったらあの状況だったんでな…」
「兄ちゃんが連れてきたんか?」
「あぁ、文句は聞かねぇからな。お前、ゴタゴタは片付けてきたんだろうな?」
「もちろんだ」

しっかりと頷くオラに兄ちゃんは「ふ〜ん」と呟いただけだった。
そのまま部屋の中に案内してくれるみてぇだったから、オラも黙って後に続いた。
その時だった。
前を歩く兄ちゃんが突然足を止めたんだ。

「っ、親父っ…」

立ち止まる兄ちゃんの視線を追って、オラの視線も家の窓へと向けられる。
その時、目に映った光景に一瞬時間が止まったような気さえして…
次の瞬間、気が付いた時にはオラ…
家の中に飛び込んで、父ちゃんの腕を掴み上げていた。
見間違いなんかじゃねぇ…父ちゃんと名前の重なった影。

「…父ちゃん」

ギリ、と歯を噛み締めて睨みつけるオラのことを見下ろす父ちゃんの表情は…余裕だった。
すげぇカッコ悪いことしてんのはわかってるけど、身体が勝手に動いたんだ。
こんなこと…初めてだった。

「けっ…ガキが一丁前に威嚇してやがる」
「いくら父ちゃんでも…許さねぇぞ」
「ふん…てめぇが決められることじゃねぇだろうが」

「離しやがれ」と言いながら、強い力で父ちゃんに腕を振り払われる。
睨みつけ続け、今にも飛びかかりそうになっているオラ。
そんなオラの姿を見て、父ちゃんがもう一度「ガキが」と呟いたのが聞こえた。

「俺に噛みついてる暇があるんなら、まずソイツを何とかしやがれ」
「…なに?」

父ちゃんが指差す先をゆっくりと追う。
オラが向けた視線の先には、名前がいた。
両腕で自分の身体を抱き締めるみてぇにして、小さな身体を余計小さくしている名前。

「…名前…」
「…っ!?」

ゆっくりと顔を上げた名前と目が合う。
ずっと探してたんだ。
ずっと会いたかったんだ。
その名前が目の前にいる。
でも…

「名前」
「……………」

…なぁ。
何で、そんな怯えた目で…オラのことを見るんだ?

なぁ…名前?