64.お気に入りを通り越し…

「えぇぇぇぇっ!」
「え…?」

目の前でいきなり悲鳴をあげられてしまい…あたしは思わず一歩後ずさってしまった…




『見上げれば同じ空。<64>』




「名前さんっ!それ、本気で言ってるだか!!?」
「え…本気と言いますか、嘘はついていませんが」

目の前にいるのはチチさんとブルマさん。
そのチチさんにいきなり悲鳴を上げられただけでなく、今度はガシッと両肩を掴まれて…
あたしは持っていた紅茶入りのカップを置いて、苦笑い。
そんなびっくりされるようなことを言ったつもりはないんです。
えぇ、断じて。

「でしょ?チチさんもびっくりしちゃうでしょ?」
「んだ。おら、てっきりもう…」
「名前、よ〜く聞いておきなさいよ?普通の感覚でいったらこういう反応が返ってくるものなの」
「は、はぁ…」

チチさんの隣で「うんうん」と頷きながら話を聞いていたブルマさんが諭すかのようにそう言ってくる。
とりあえず頷くけど…はっきり言って生返事くらいしか、あたしには出来ない。

「おらが言うのも変だけんど、悟空さ、おめぇのこと本当に好きだべ」
「……………」
「悟空さの態度やおらにおめぇの話をした時の顔をみりゃあ、すぐにわかるだ」
「…何か、どう言っていいのか…」

やっぱり元…とはいえ、同じく悟空のことが大好きだったであろうチチさんにそう言われると本当にどう返していいのかわからなくなってしまう。
照れくさいのと、正直ちょっぴり申し訳ない気持ちにもなってしまって…
困ったように頬を掻くあたしだったけど。

「そうなのよ!だからこそ不思議なのよね〜」

そんなあたしを、気まずすぎる本題へと戻らせたのは…ブルマさんだった。

「それなのに、何でまだヤッてないの?って思うでしょ?チチさんだって」
「んだ」
「ブッ、ブルマさんっ…そんな、直球すぎますっ!!」
「いいじゃない。どうせ誰も聞いてないんだから」

顔を真っ赤にするあたしに対してブルマさんはヒラヒラと手を振って見せている。
思わず口を噤んで、そ〜っと向こうを見ると確かに悟空たち男性陣は出された食べ物に夢中なようで…
広いブルマさん宅の庭の一角でこっそりと開かれているガールズトークには気が付いていないらしい。

(よ…よかった…)

心の中で人知れず胸を撫で下ろすあたし。
…でしたが。

「冗談じゃねぇだ!名前さんは本っ当に性格良し、器量良しの良い娘だべ!」
「…へ?」

目の前でいきなり立ち上がり、高々とそう言ったチチさんにあたしはまたまたびっくり。
言われている内容はとっても嬉しいんだけど、勢いがありすぎてキョトンとするしか出来ないでいるあたしの前でチチさんは続けた。

「なのに…」
「…チチさん?」
「なのに、何で悟空さはそんな名前さんに手を出さねぇだ!情けねぇ!!それでも男だか!!」
「ちょ…!」

グッと強く握られている飲み物の缶が…今にも潰れそうです、チチさん。
しかもそんなことを大声で言ったらダメです!!
「まぁまぁ…」と何とかチチさんを座らせようとその腕に手をかけるあたし。
だけど、チチさんは止まらない。

「名前さん、安心してけれ!」
「…はい?」

この状況で一体どう安心しろと!?

「おらが直接悟空さに言ってきてやるだ!」
「っ、ぎゃぁぁぁぁ!やめて〜!!?」

今にも駆けださんとするチチさんの腰に、あたしはとっさにしがみつく。
こういう時の嫌な予感ほどよく当たってしまうものだ!
その時、目に入ったのはチチさんの手元。

「チッ、チチさん!お酒飲んでますね!?」
「そんなの関係ねぇだ!悟空さぁぁぁ!!!」
「ひぃぃぃっ、目が据わってますよ〜!!」

今はまだ遠くにいる悟空に聞こえてたまるか、と必死のあたし…
ファインプレーが炸裂し、チチさんの口元を抑えることに成功した。。
そして必死の形相で助けを求めた先にいるのはブルマさん…だったけど。

「いいぞ、チチさ〜ん、言っちゃえ言っちゃえ!」
「ブッ、ブルマさんまでぇぇ!」

同じくその手元に握られている缶ビールは容易にあたしを絶望へと突き落とした。

「ぷはっ…名前さん!こういうことははっきり言ってやらねぇとダメだべ!」
「いいんですって〜、あたしもまだ心の準備が…」
「甘いっ!」

チチさんと分かり合えただけじゃなく…何だか気に入ってもらえているらしいことは自覚済み。
でも…何か、もう…

「…頑張れ、あたし…」

ちょっぴり、泣いちゃってもいいですか…?
何とか悟空のほうに行かないよう、チチさんとブルマさんの注意を自分に向けつつ…
心の中でこっそりとそんなことを思っていた。

とりあえず…
その場にあった他のお酒類は全部隠し、2人が疲れてしまうまで集中業火を受け続けよう…と心に誓ったのでした…くすん…