「名前、ここにいたんか〜」
「え?」
家の庭で洗濯物を干していたら、ふいに声をかけられた。
振り返ると悟空の笑顔が目に入る。
「おら、これから天界に行くけどおめぇも来るだろ?」
「天界?どうしたの、急に」
「アイツらの気を感じっからさ!また修行の相手になってもらおうと思ってよ」
悟空の言うアイツら。
この嬉しそうな顔を見れば、誰だかすぐにわかる。
「ん〜…そうだなぁ、もう洗濯物も終わるし一緒に行こうかな」
「よし、じゃあ早速行こうぜ!」
「…え?」
にっこりと微笑んだ悟空があたしの肩にポン、と手を置いた。
え?と顔を上げた次の瞬間。
一瞬にして…一面に広がっていたパオズ山の景色が変わった…
『見上げれば同じ空。<65>』
「…と、いうことがあったんですよ」
神殿の入り口の階段に腰をおろして…
肘をついた両手の上に顎を乗せつつ、ぼんやりと宙を眺める。
ちらちらと目に入る先には組み手中の悟空とベジットさん。
「あたし、悟空のこと大好きです」
普段は恥ずかしくて言えないけど、今こんな風にはっきりと言えるのは悟空が聞こえない場所にいるから。
金色のオーラに包まれている彼のことを見て…ふぅ、と小さくため息。
本の中の主人公として見ていた時から、貴方のことが好きで好きで、大好きで。
信じられないけどこうして実際に会えて、もっともっと好きになって…
だから…
「何て言うか…こうして想い合えて、一緒にいられるだけで…あたしは満足なんです」
…というより、それ以上が考えられない。
今が幸せすぎて…
だって、そうでしょう!!
夢にまで見たあの悟空と実際に会えただけでなく、こうして両想いになれただなんて。
でもっ…
「でも、ブルマさんたちとはちょっと考え方が違うみたいで…」
困ったように頬を掻きながら、そう呟くあたし。
あ…さっきからそうだけど、もちろんあたしの独り言じゃあないんです。
「……………」
この通り、ずっと返ってくる反応はないけど。
でも、こちらもきっと修行中なのだろうから気にしない。
宙に浮いた状態で瞑想中のピッコロさんの横でブツブツ言っているあたしはとっても迷惑だと思う。
だけど、特に文句を言われる訳でもなかったからひたすらピッコロさんの横で呟かせてもらった。
…うん、ちょっとすっきりしたかもしれない。
「…ふぅ…」
小さく息を吐いて、ふと顔を上げるとちょうどピッコロさんと目が合った。
瞑想の体勢を崩すことなく、片目だけを開けてあたしのことを見ている。
「…ごめんなさい、やっぱりうるさかったですよね」
「……………」
うぅ…睨まれてる…??
そう思ったその時、ピッコロさんは再び瞳を閉じてしまう。
「お前が、それで良いと感じてるんなら良いんじゃないのか?」
「え…?」
「満足してるんだろう?だったら何を悩む」
思わずキョトンとしてしまうあたし。
ピッコロさんが横でブツブツ言っていたあたしの話をちゃんと聞いていてくれたことにまず驚いた。
瞬きを繰り返していると、ピッコロさんはまた目を合わせてきて…ため息をつく。
「だいたい、何でそれを俺に言うんだ…」
「何で、と言われるとちょっと困りますが…」
「俺には恋愛などというものは、よくわからんぞ」
「あっ、いいんです!聞いてくれただけで…ありがとうございました」
律儀に答えようとしてくれたピッコロさん。
何だか嬉しくなって、気が付いたらあたしは笑っていた。
その時。
「…あっ!!」
ふと見上げた先、目に映る悟空とベジットさんとの組み手に思わず息を飲む。
ベジットさんのパンチが見事に悟空の頬に入ったのが見えたから。
「…?」
「悟空、大丈夫かな…今の、痛そう」
「っ…お前、あれが見えるのか?」
「え…?」
驚いているらしい声に横を向くと、ピッコロさんが難しい顔をしてあたしのことを見ていた。
あれが見えるのか…って。
「悟空たちのこと、ですか?」
「そうだ」
「見えるというか…何となくですけど」
「パンチが入ったところまで見えてる。それ、何となくって言わない」
「わっ…!びっくりした」
後ろからいきなり声がして、びっくりして振り向くといつの間にかポポさんが立っていた。
初めて会った時も思ったけど…本当に、気配がないなぁ…
「あの2人の動きを目で追える…それすごいこと。ポポには見えない」
「そ、そうなの?」
戸惑うあたしにポポさんはうんうん、と頷いている。
どう切り返そうか悩んでしまった。
でもその時、組み手に一区切りついたらしい悟空が空から降りてきたのが見えたから…とっさに駆け寄る。
「いちち〜…」
「悟空っ、大丈夫?」
「あぁ、でもまともに入っちまったかんなぁ」
「ははっ、さっさと超サイヤ人4になった方がよかったんじゃねぇのか?」
腕を組みながらベジットさんも降りてくる。
そして何故かあたしの横に降り立つと、肩を抱くようにして耳元で一言。
「名前、俺に惚れてもいいんだぜ?」
「あ、はは…」
「ベジット!名前はおらんだって言ったろ!」
今度はむくれた悟空にぐいっと腕を引かれて、そのまま抱き締められた。
「悟空、頬痛くない?」
「あぁ、こんくれぇ大ぇ丈夫だ!それより名前、組み手見てたら面白そうだろ?おめぇもやってみっか?」
「やりません」
今でも、隙あらばあたしに武術を教えたいらしい悟空。
きっぱりとお断りしつつも困ったように笑う悟空が何だか愛おしくて…
あたしは少し赤くなった彼の頬にそっと触れるのでした。
「…で、名前は結局あれで解決したのか?俺は何もアドバイスしていないぞ」
「ポポ聞いたことある。人間の女、黙って話を聞いてもらうだけで満足する」
「そ、そうか…俺には、名前が悟空たちの動きについていけていることの方が問題だと思うが…」
…えぇ、ピッコロさんとポポさんがそんな話をしていたことには全く気が付くこともなく…