66.普通じゃないこと…?

あたしは…正直、困り果てていた。

「え〜っと…」

目の前に立つみんなからの突き刺さるような視線に耐えきれず、逸らした目線は宙を漂う。
何よ、何よ!!
そっ、そんな目で見なくたっていいじゃないのよ〜!!!
そんな心の叫びも、目の前の皆さまには…到底届くはずもなく…




『見上げれば同じ空。<66>』




「本当なのか?名前に俺たちの動きが見えてたって…正直、信じられねぇなぁ」
「だからっ、何となく見えてただけなんですよ」

腕組みをしながら訝しげにあたしのことを見ているベジットさんにすぐさま反論したけど…

「だが、悟空がパンチを受けたところは見えていたんだろう?」
「それは…」
「普通なら、何の武道の心得もない一般人には見えないものだよ、名前」
「そ、そうなんですか?」

困ったように聞き返すあたしにゴジータさんは優しく微笑んだ。
参った…本当に、参った…
今、さっきの悟空VSベジットさんの組み手があたしに見えていたことがこの天界で波紋を呼んでいる。
ピッコロさんだけでなく、何やらみんな思うところは同じだったようで…あっと言う間に囲まれてしまうあたし。
うぅ…逃げる隙すらなかった…
困り果てているあたしの目の前で瞳をキラキラさせているのはゴテンクスくんだけ。

「名前、実は強いんじゃねぇの!?」

…と、やっぱりこの子はトランクスくんと悟天くんの融合した姿なんだなぁ…と呑気に実感してしまった。

「おらも薄々思ってたけど、やっぱ普通じゃねぇよな」
「当然だ」

悟空の言葉をきっぱりと肯定したのはピッコロさん。
普通じゃない…だなんて、ちょっぴり傷つくんですけど…
自分では至って普通〜の女の子のつもりでいるから、余計に…

「あはは…そういえば、気の扱いを悟空さんと練習している時に、山に穴を開けてしまったこともありましたよね」
「っ…!?」

思わずビクッと反応するあたしの肩。

「はぁ!?何だよ、それ」
「デンデくん…何故、それを知っているの…?」
「い、一応神眼ですから…それに、名前さんの正体がわからなかった時はしばらく警戒していましたので」
「……………」

そういえば…初めて会った時に、ずっと神殿からあたしのことを見ていた…って言われたことがあったっけ。
ずいっと迫ってデンデくんの両肩を掴んだあたしだったけど、一気に力が抜けて小さくため息。
そんなに…普通じゃないのかな、あたし。

「あ〜、そういや来たばっかりの時にスプーンを折っちまったり、ドアノブを壊しちまったりもしてたっけな」
「悟っ、悟空!そういうこと言わないでよ〜!!」
「な、何だよ、言っちゃダメだったんか?」
「ダメっていうか…その…」

乙女が実は怪力!!…だなんて、恥ずかしいじゃない!!?
そんなあたしの叫びが伝わる訳もなく…ただひたすら不思議そうにしている悟空に何だか脱力してしまう。

「名前ってすっげぇんだな!」
「んな面白ぇ話があんなら、さっさと聞かせろよな」
「ゴテンクスくんもベジットさんも、そんなこと言われても全然嬉しくないです…」

さらに…

「ゴジータさん、笑うなら思いっきり笑って下さい…余計悲しくなります〜…」
「あ…いや、すまない…」

ひそかに口元を手で隠しているゴジータさんを見逃さなかったあたしだけど…何だか、言っていて自分で悲しくなってきた。

「でも、ホント不思議なんだよな…舞空術を覚えたての時だって、一気にすげぇ上空まで飛びあがっちまったりしてよ…」
「それは…もう随分上手になったもん…」

ちょっぴり頬を膨らませるあたしを見て、悟空が「ははっ、悪ぃ悪ぃ」と言いながら頭を撫でてくる。
その時だった。

「…まるで、超サイヤ人の力をうまくコントロール出来ていなかった頃のお前や悟飯を見ているようだな」
「え…?」
「ピッコロもそう思うだろ?おらも同じこと思ってた。ちゃんとコントロール出来てねぇだけで、本当はすげぇリキを持ってんじゃねぇかってな」
「ふむ…そう聞けば、お前がしつこく名前に修行をつけようとしていたのも納得がいくな」

え…ピッコロさん?
納得しちゃうんですか?そこ。

「まぁ、ものは試しでよ。一発撃ってみりゃいいんじゃねぇのか?」
「…へ?」

信じられない言葉が聞こえてきて、唖然とするあたしを見て当のベジットさんは面白そうに笑っている。
そんなことを言われたって、どうすればいいのか全くわからないんですけどっ!!

「そうだな…何の訓練もしていない状態でどの程度のモノか…見極めるには良い方法かもしれん」
「そうですね。あくまで試しに、ですし」
「…あの…」

困った…何やらピッコロさんやデンデくんまで賛成のようで、みんなの視線が再びあたしに注がれる。
どうしろって言うのよ〜!!
困り果てたあたしは思わず隣にいた悟空の道着の袖をくいくいと引っ張る。

「悟、悟空〜…」
「名前、試しにやってみろ。前に舞空術をやった時に気の使い方なら簡単に教えたろ?掌からこう…吐き出す感じでやってみりゃいいさ」
「…そんな、簡単に言わないでよぉ…」

がっくりと肩を落としつつも、ぼんやりと自分の手を見詰める。
その時、また後ろから声をかけられた。

「名前、何も教わってない。出来なくて当然」
「ポポさん…」
「あぁ、思う通りにやってみるといい。ここは天界だからな…空に向かって撃てば壊れるものもない」
「ゴジータさん…」

もう、やらなきゃ許してもらえない雰囲気。
あたしは小さく頷くと、観念したように少しみんなから離れて空を見上げた。
そうだよね…出来なくって当然。
だって、あたしはごく普通〜の女の子だもの!!(決死の主張)
ここで出来なければ、みんなもあたしが普通じゃないなんて考え、改めてくれるかもしれないし。

「…よし」

漫画の中で見た悟空たちの気功波を思い浮かべる。
そして空に向かってゆっくりと両手を重ねた。

「ん〜…」

その両手に意識を集中してみるけど…ほら、何も起きない。
子供のころは向こうの世界でも何だかかめはめ波とか撃てそうな気がしてたけど…今となってはただの痛い妄想だったなぁ…

「ははっ…えいっ!!」

昔のことを思い出して、1人小さく笑って…
一応両手に力を込めてみた。
…その時だった。

「っ…きゃぁっ!!!」

ドンッ…と鈍い音がして、目の前が信じられないくらい明るくなって…
気が付くと空に向かって何かがすごいスピードで遠ざかっていく。
限りなく大きいものだと思われる…何かが。

「…あ、あれ?」

パチパチ、と瞬きをしつつみんなの方を見ると…面白いくらいに7人揃いも揃って空を見上げていた。

「信じられん…」
「名前、すげぇ!!!」
「い、今の気功波、相当大きかったですよ…何の訓練もしないで、そんな…」

…どうしましょう。
自分ではよくわからなかったけど、あたし…出来ちゃったみたいです!!?
その時、両肩をガシッと掴まれてびっくりしながら見上げると悟空とベジットさんがあたしの顔を上から覗きこんでいた。

「名前っ、修行するべきだ!!」
「だろ!ベジットもそう思うよな!!」
「あぁ!こりゃすげぇ素質なんじゃねぇのか!?」
「ははっ、やっぱり!名前、頑張ろうぜ」
「おっ…お断りします〜〜!!!」

必死の思いで2人の間をすり抜けるように神殿へと駆け戻るあたし。
その時、ゴジータさんと目が合った。
優しいゴジータさんなら…きっと、味方になってくれるはず!
そう思ったけど…

「名前…俺も、もったいないと思う」
「…う…」

淡い期待はあっという間に打ち砕かれた。
その後…修行をひたすらに拒み続けるあたしと、修行を推進する人たちとの神殿内追いかけっこが始まったのは…言うまでもない。

掴まって…たまるものですか!!!