7.今、何て言いました?
悟飯くんには休んでいていいって言われたけど…そんな状況じゃなくなった。
『見上げれば同じ空。<7>』
「あっ、お姉ちゃん」
「もう大丈夫なの?」
悟空と一緒に再びリビングに顔を出すと、悟天くんとトランクスくんが嬉々とした表情を見せた。今にも駆け寄らんとする勢い。
「う、うん、大丈夫。…っていうか、呑気に寝てられる状況じゃなくなったし」
そう小声で呟きながら、ちらっと顔を上げれば隣にはニコニコと笑っている悟空。
ただ横に立たれているだけなのに…すごくドキドキする。
「いやぁ、オラ本当に驚ぇたぞ〜」
「い、いや…それはあたしもだけど」
悟空は本当に嬉しそうに笑っている。
そして隣にいるあたしの背中をポンッと軽く叩いて…
「こいつ、紅愛ってんだ」
…なんて、あたしのことを紹介してくれちゃったりした。いやいや、いきなりそんなことを言ったってみんなびっくりするよ…
現に、悟空の言葉を聞いた4人は揃いも揃って、キョトンとしていた。
「お、おい…悟空の知り合いなのか?」
知り合い…って程でもないんだけどなぁ…悟空にしてみれば、夢の中で何度か会っただけの存在だろう。
そんなあたしと悟空の関係をなんて言葉にすればいいのか、正直わからなかった。
そう思って隣の悟空を見上げると、彼は変わらず笑っていて…
「何言ってんだ、クリリンも悟飯も。オラ随分前に話したことあるじゃねぇか」
えっ…て思って顔を上げるとそこには真っ直ぐ4人のほうに目を向けている悟空の姿。
「オラがすげぇ小せぇ頃から度々夢ん中で会ってたってヤツ…こいつなんだ」
そう言いながら、悟空の手があたしの肩にそっと添えられる。ふと視線を戻せば、クリリンさんが驚き、何だかワナワナしているようで…
「あの話の、本人ってことかっ?」
「ああ!それにしても不思議だよなぁ…オラは大人になってんのに、おめぇは全然変わんねぇんだもんな!今だって初めて会った時と同じように若ぇまんまだしよ」
オラと同じように年取ってたら、おめぇ今頃ばあちゃんになってんじゃねぇのか?…と、ケロッとしながら言ってくれる悟空。
失礼なっ!!
「だって、あたしは毎晩のように悟空に会ってたんだよ?あたしからしてみれば、悟空がみるみる成長していったような状況だったのに」
あたしにしてみれば、悟空のほうが次の日に会うたび大きくなっていて、何度も驚かされた。初めて会ったときはあたしのほうがずっとずっと年上って感じだったのに…
「不思議ですね…それじゃあ時間軸がまるで違っているってことになります」
「悟飯、ジカンジクって何だ?」
「簡単に言うと、時間の進み方です。片方では“一日”と感じているものがもう片方では“一年”だったり」
さすがは学者さんを目指しているだけあって、悟飯くんは博識だと思った。悟空も今の説明はわかったようで、うんうんと頷いている。
「すっごいや」
「やっぱり紅愛お姉ちゃんは異世界の人なんだよ!」
キラキラと瞳を輝かせているトランクスくんと悟天くん。思うところがあるのか、今度はクリリンさんも悟飯くんも黙ったままだった。
「何にしてもオラ、紅愛に会えて嬉しいぞ」
「っ…///」
…そうだった。
この人は漫画の中でもとんでもないことをサラリと言ってのけちゃう人なんだった。
みるみる真っ赤になるあたしの頬。そして思った。
「き、今日の夢はホントに目覚めるのが惜しいなぁ…」
悟空以外にもこんなにたくさんのドラゴンボールキャラに会えて…悟空からはこんな鼻血モノの台詞を言ってもらえて…これもいつかは目覚めてしまう夢だと思うと…本当に残念…
「ん?何言ってんだ、おめぇ。これは夢なんかじゃねぇぞ」
「…へ?」
「だってオラ、今は眠ってねぇもんな」
「…うっそだぁ」
またまたそんなことを言って…なんて思いながら、悟空を見上げつつ笑う。
これが夢じゃないっていうなら何?
あたしがドラゴンボールの世界に来ちゃったとでもいうの?いや、有り得ない、有り得ない。
「絶対夢だよ〜。そうじゃなきゃ説明がつかないもん」
へラッと笑いながらそう言うと、悟空は少し考えるような表情を見せて。
「ん〜…まぁ、いっか。ココでオラたちと生活してりゃ夢じゃねぇってこともすぐにわかっだろ」
「そうそう…って、え?」
今、なんとおっしゃいました?
思わず聞き返すと悟空は至極当然のように…
「だっておめぇ、行くとこ他にあるんか?」
…と。
全くもってごもっとも。他に行くところなんてないし、野宿なんてしたらまたサーベルタイガーのお腹におさまるようなことにもなりかねない。
あたしはその言葉に盛大に甘えさせてもらい…とりあえず、この日は孫家に泊めてもらうことになりました。