8.「もしかして、怖ぇんか」
同じモノでも、こんなに違うんだ…
『見上げれば同じ空。<8>』
窓際にたって、カーテンの隙間からそっと空を見上げてみた。うわぁ…すごい月…その存在感に思わず圧倒されてしまった。
月の光って、こんなに地上に届いているものだったんだ…そう感心してしまうくらいに明るく地面が照らされている。
あたしが普段生活しているところは夜でも明かりが多くて…こんな風に月明かりを感じたことなんてなかった。
「紅愛は、まだ寝ねぇんか?」
ふと背中から声をかけられて、振り向くとそこには悟空の姿。
遊び疲れて眠ってしまった悟天くんを部屋に連れて行った悟空があたしを見て、そう聞いてきた。
「ん、もうちょっと起きてる」
「そっか」
あたしの返答を聞いてなのか、そろそろ寝るだろうと思っていた悟空も何故かソファに再び腰掛けた。あたしも向かい合って座ってみる。
あの後。
みんなからの質問もそこそこに、トランクスくんと悟天くんにねだられ、一緒に遊んだ。
あたし自身、まだ何が起きているのか理解出来ていなかったから、悟飯くんたちも気を使ってくれてなのか、色んなことに対する追求は免れた。
トランクスくんたちには最初“戦いゴッコ”をやろうと言われたけど、そんなことをしたら本当に閻魔大王様にご挨拶に行く羽目にもなりかねないので、結局色んな話をしたり、トランプをしたりしたけど、結構楽しかった。
やっぱり、素直で無邪気な子供はかわいい。
時間も遅くなって、クリリンさんにもお説得されつつ、トランクスくんはしぶしぶ帰って行ったっけ。
「悟空こそ、もう寝ないの?」
「ん?オラか?」
ソファに体を預けて、両手を頭の後ろで組んでいる悟空。
「オラも、もうちょい大丈夫だ」
…とはいうものの、さっきから欠伸を連発しているの、知ってるんだよ?
「眠そうだよ?」
「オラんち、元々早寝早起きだかんなぁ」
「健康的な生活してそうだもんね」
「でもよ、そういう紅愛だってさっきから目がしょぼしょぼしてきてんぞ」
そう…あたしだって実は結構眠い。たぶん、色んなことがありすぎて疲れたんだと思う。
夢の中でも眠たくなるなんて、何だか不思議。
このまま寝てしまいたい気持ちもあるけれど、あたしには思うところがあった。何も言わないあたしを悟空はただじっと見ていて。
そして…思いついたかのように、また声をかけてきた。
「…おめぇ、もしかして怖ぇんか」
「え?」
驚いて顔をあげるあたし。
悟空が真っ直ぐあたしのほうを見ていて、また少しだけ胸が高鳴った。
「寝るのが怖いって…そんな子供じゃないんだから」
「でも、オラにはそう見えるぞ。だって紅愛はオラに会えたこと、まだ実感出来てねぇんだろ?」
「…うん」
確かに、悟空の言うとおりかもしれない。
「そうだね…眠って、目が覚めたらきっと元の生活に戻ってるんだろうなぁって思う」
だから、なのかな…今日はまだ眠りたくない。まだ、悟空と一緒にいて色んな話がしてみたいと思ってしまう。
「オラ、大丈夫だと思うんだけどなぁ…」
ポリポリと頭を掻いて、何かを考えているかのような悟空。そして…
「よしっ!じゃあ、一緒に寝っか!」
…と、ものすごい結論に達した。
「なっ、何をおっしゃいますかっ!!?」
「だって、そうでもしねぇとおめぇ、このままじゃ寝れねぇだろ」
「〜〜〜〜〜〜っ」
思わず返す言葉を失うあたし。
悟空と一緒に寝る…?
ダメダメ!!絶対そんな状況になったらあたし休めないっ!!それ以前に、夜が明けるまであたしの心臓は、たぶんもたない…もう、覚悟を決めるしかなかった。
「わかった!もう大人しく寝る!」
「大丈夫なんか?」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから」
「じゃあ、明日の朝はオラが起こしに行ってやる。起きてオラがいたら、夢じゃなかったって信じられるだろ?」
「う、うん…まぁ…」
ニッと笑う悟空の表情を見て思う。
この笑顔に、漫画の中とはいえ、あたしは何度元気をもらっただろう…やっぱり、この人はあたしの憧れだ。
「ねぇ悟空」
「ん?」
「あたしも、悟空に会えて嬉しいよ」
もし、目が覚めて悟空がいなくなってしまっていても…これだけは伝えておきたいと思った。静かな夜が更けていく。
そして…
チュン。。。チュン。。。
カーテンから漏れる眩しい光に意識が少しずつ浮上してくる。ゆっくりと開いた目を再び細めた。
やっぱり疲れていたのかな…すごく、すごく熟睡してみたい。まだ体を起こす気分にはならなくて…ふぅ、と小さく息を吐いて目を閉じようとした時。
「よぉ!」
「っ!!!」
すぐ真横から声がして、思わずギョッとする。
「なっ…」
そこには、あたしの顔のすぐ横に両肘をついてあたしのことをじっと見ている悟空の姿。
「な!何でココにっ…」
「ん?だって昨日約束したじゃねぇか。朝はオラが起こしてやるって」
そういえば、そんな約束した、かな…って、そうじゃなくて!!
「い、いつからそこにいたのっ!?」
「ん〜、いつ頃からだったかなぁ…忘れちまった」
「……………」
悟空曰く…あたしは声をかけられても全く起きなかったらしい。
だからといって…
だからといって、ずっと側にい続けるのは如何なものでしょうか。苦笑いしつつ、そんなことを言ってみるけど悟空からは爽やかな笑顔が返ってくるのみ。
「ははっ。おめぇの寝顔、かわいいな〜」
朝からそんな爆弾発言を受け…あたしは鼻血を吹かなかった自分を褒めてあげたくなりました…