72.爆弾発言×無茶発言
「乾杯〜!!」
そこには、とても楽しそうな笑い声が響いていた。
『見上げれば同じ空。<72>』
「あら、美味しい」
「んだ。名前さんは料理も上手なんだな」
「い、いえ…チチさんには敵いませんよ」
たくさんのテーブルを庭に並べて…立食タイプのパーティー。
ここのテーブルには今、女性陣が集まりガールズトークの真っ最中。
「あ、ホント美味しいわ…」
お皿に取り分けられた料理を口に運んでそう呟くビーデルさん。
あたしは思わずにっこりと微笑んでしまう。
「それね、悟飯くんが作ったんだよ」
「えっ…そうなの?」
「うん」
あたしの言葉にわずかに頬を赤くして…何やら手元の料理をじっと見詰めているビーデルさん。
おそらく“悟飯くんって、料理も上手なのね…頑張らないと”とか思っているんだろうと思った。
ダメだ…顔がにやけてしまう。
「悟飯、おらが家を出ちまってから随分料理の腕を上げただなぁ…」
「そうね」
「苦労かけちまっただなぁ」
そう言うチチさんは…お母さんの表情をしていると思った。
家を出たのにはチチさんにも深い理由があったはず。
あたしにそれを聞く権利はないけど…絶対にそうだという確信にも近い思い。
だって、あんなに悟空に対しても、悟飯くんや悟天くんに対しても、愛情深い人だから。
その時、チチさんの視線がふいにあたしへと向けられて、一瞬ドキッとした。
「おら、今では本当に安心してるだ。名前さんがこの家に住んでくれて…」
「そんな…」
「あははっ、そんな暗い顔するでねぇ。おらのことなら気にしねぇでいいだ」
そう言って笑うチチさん。
「あっ、でも悟飯と悟天の母親の座は譲らねぇだぞ!」
「は、はい…それはもちろん」
ズイッとあたしに顔を近付けるチチさん。
「母親になりてぇなら、名前さんも悟空さと子供作るといいだ」
「…ぶっ…!!?」
そして、まさかの爆弾発言。
「な…なっ…」と絶句するあたしの横でビーデルさんも顔を赤くしている。
「あら、ナイスアイディアじゃない、それ」
…と、同意しているのはブルマさんだけ。
うん、たぶん…いや、絶対に楽しんでいる!!
何だか…いつぞやのガールトークを思い出した。
ブルマさんとチチさんのタッグには…いつまでたっても勝てる気がしない。
「あっ、あたし、ちょっと向こうに行ってきます!」
「あ、逃げた」
「もう…仕方ねぇだなぁ」
逃げた、と言われても足を止める訳にはいかない。
だってこのままだと、どんどん深みにはまりそうな気がするんだもの!!
「…で、ビーデルさんは悟飯とどこまで行ってるだ?」
「えっ…!」
「そうそう!私もそれ気になってたのよね〜」
「わっ、私は、まだ何もっ…」
「付き合ってもいないの?」
「だども、好きなんだべ?おら、ビーデルさんなら大歓迎だ」
「え、っと…その…」
2人の標的が見事にビーデルさんへと移ったのを背後に感じつつ…あたしはその場を退散した。
ごめんなさい、ビーデルさん!!!
「ふぅ…」
飲み物を持って、近くにあった木の根元へと腰を下ろすあたし。
ふと顔を上げると、ゴテンクスくんと悟天くん、トランクスくんのお子様組が軽い組み手をしているのが見えた。
やっぱり、子供たちは元気だなぁ…
「ふふっ」
さっきまでいた場所以外のテーブルでも、みんなそれぞれが楽しそうに話をしている。
みんな、住んでいるところが違うから…実際にこの世界で生活をしてみて、みんなが一様に介する機会って思っていたよりもずっと少ないんだなってことがわかった。
こうして楽しそうにしているみんなの顔を見ていると本当に嬉しくなる。
何だろう…漫画では戦いの場面を見ることが多かったからかな。
何年も続いた平和な時期だってあったはずなのに…
両手で持っていたグラスを包み込んで、また口へと運んだ…その時。
「…珍しいな。貴様が1人になるのは」
「え…?」
突然、後ろから声がした。
驚きながら振り返ると、あたしが凭れていた木の反対側にも人の姿…このツンツン頭は…
「…べジータさん?」
「ふん…」
べジータさんとは、正直あまり話したことがないから…一瞬にしてあたしの身体を走り抜ける緊張感。
…何を話そう、とか。
…むしろ、うるさがられるかな?黙っていたほうがいいかな?とか。
あれこれ考えるあたしだったけど、意外にも先に口を開いたのはべジータさんだった。
「普段は、いつもカカロットが纏わりついているだろうが」
「は、はぁ…」
どう切り返していいのかわからなくて、あたしの口からは曖昧な返事しか出てこない。
べジータさんはそんなあたしに「ふん」と鼻を鳴らすと、ゆっくりと振り返った。
うぅ…そんなに睨みつけなくても…
「貴様、一体どれほどの戦闘力を秘めている…?」
「…え?」
捕えられた目線を逸らせないまま…そんなことを聞かれて正直言葉に詰まった。
だって、そんなこと聞かれたってわからないもの!
「べ、べジータさんまでそんなことを言うんですか?あたしには、そんな力なんて全然」
「カカロットがああまで執着しているのにか?」
「う…それは…」
一瞬、何とか修行をつけようと迫ってくる悟空が頭に浮かんだ。
普段は優しい悟空もこの話をした時ばかりは…結構しつこいのは事実。
「アイツは馬鹿じゃない。理由もなく貴様をトレーニングしようとしたりするはずがない」
「う、う〜ん…」
一体、どうしたものか。
困り果てて、頬を掻くあたし。
確かにゴジータさんたちにも“普通じゃない”と言われたし、こっちの世界に来てから…何かが変だ。
だけど、あたし自身それが何なのかわからない。
隠された力があるのかも…どうやったらそれを確かめることが出来るのかも…
「おい、べジータ。あんまり名前を困らせんなよ」
「っ…」
その時、あたしのすぐ横にスタッと降りたったのは…ベジットさんだった。
「そういうことばっかり言ってると嫌われちまうぞ?」と笑いながら。
それに対してべジータさんは「ふん」と顔を背けただけだったけど。
キョトンとしていたあたしはそのまま腰に手を回され、ベジットさんに抱き寄せられる。
「全く…オレの半分はべジータだってのになぁ。紳士的なオレとはえらい違いだぜ。なぁ?」
「…いや…なぁ、と言われましても…」
思わず視線を泳がせるあたし。
何と言っても、抱き寄せられた肩に置かれている手が気になって仕方がない。
ベジットさんのこの女性慣れしているような言動も…悟空、べジータさんどっちにも似付かないような気がするんだけど…
「ん?どうした名前」
「えっ…」
「目がキョロキョロしてるぜ?可愛いな」
…素直に思っていることを言うのはあまりにも失礼だよね!?
そう思って、間近から顔を覗きこんでくるベジットさんに笑って誤魔化した。
やんわりとベジットさんの腕から抜け出したその時…またべジータさんと目が合う。
これは…何だか、逃がしてもらえない雰囲気だなぁ…
「え、と…べジータさんは、もしかしたらあたしが強いかもしれない…って、思っているんですか?」
「強い?ふん、そんな期待などしていない」
「は、はぁ…」
「ただ、貴様の潜在的な力がどれほどのものか興味があるだけだ。異世界から来たって話だしな…」
べジータさんの視線はあたしを捕えて離さない。
本格的に返答に困り始めたあたしだったけど…救世主が現れた。
「おっ、名前ここにいたんか」
「悟空!」
「ほれ、持ってきてやったぞ」
そう言った悟空に手渡されたお皿。
見ると色々な料理が取り分けられ、並んでいる。
「おめぇ、全然食ってねぇだろ」
「そ、そんなこと…」
いつも食事中は無我夢中って言葉がぴったりな悟空があたしのために料理を取り分けてきてくれるなんて…ちょっぴり感激。
そういえば、色んな人と話すのが楽しくて、あちこち動き回っていたあたしはほとんど食べ物を口にしていなかった。
…もしかして、ずっと見られていたのかな。
「悟空…ありがとう」
「あぁ」
満足そうに微笑んだ悟空にお礼を言ってから、口にした料理はすごく暖かい味がした。
「で、何の話してたんだ?」
「べジータが名前の潜在能力に興味があるんだってよ」
「へ?名前のか?」
意外そうな表情でべジータさんを見る悟空。
あたしは目の前のやり取りをモグモグと口を動かしながら見守ることにした。
「べジータ、おめぇ名前には興味ねぇって前に言ってたじゃねぇか」
「それとこれとは別だ。俺は純粋にソイツの力に興味がある」
「…そうはいってもなぁ…」
「だいたいカカロット、トレーニングするならさっさと始めればいいだろう。そうすればはっきりする話だ」
…え?
何やら、話がおかしな方向に向かっていませんか?
恐る恐る悟空を見上げたのとほぼ同時に、悟空も困ったように髪を掻いた。
「でもよぉ…名前が嫌だっつうんだ」
「なっ…甘いぞ、カカロット」
「だけど、おら名前の嫌がることはしたくねぇしよ」
「ちっ…」
盛大に舌打ちするべジータさん。
でも、あたしは何だか庇ってくれた形になった悟空に心の底から感謝!
横からベジットさんに「愛されてんなぁ」と耳打ちされて、あたしの顔はみるみる真っ赤になってしまったけど。
「よ〜し、だったらこの俺が鍛えてやる!」
「…へっ?」
「いっ…!?」
スクッと立ち上がるべジータさんに絶句のあたし。
鍛えられる?あたしが?…べジータさんにっ??
それ…間違いなく死亡フラグですよねっ!!?
「何言い出すんだよ、べジータ。無茶言うなぁ」
「貴様がたらたらやっているだろうが、カカロット!」
「ま、まぁ落ち着けって」
べジータさんを宥めようとしている悟空だけど…その肩口からべジータさんに鋭い視線を向けられて。
思わず近くにいたベジットさんの後ろにささっと隠れた。
こっ、怖すぎます!!助けて、ブルマさ〜〜〜ん!!?
「おい、貴様!どうしてもトレーニングが嫌なら、今すぐココで俺と戦え!」
「ひいぃぃ!?どうしてそういう話になるんですかぁぁぁ!!?」
「実戦で潜在能力を引き出してやる」
べジータさん、完全に目が据わっちゃってますけど…
「無理です〜!!」とベジットさんの背後から応戦するあたし。
悟空も何とか宥めようとしてくれているけど…一体、何だってこんなことに…クスン…
「お前…ホント、モテモテだよな」
「…こ、この場合、あんまり嬉しくないんですけど…」
わずかに振り向きながらベジットさんにそう言われて、彼の背後で身体を小さくしているあたし。
ベジットさんはそんなあたしを見て、小動物みたいだ、と笑っていた。
もうこの際、小動物だろうと何だっていい!
誰か!この場にブルマさんを呼んできて下さいっ!!
あたしの必死の願いは…届くでしょうか…