9.電話からは見知った声



「い、一体どうなってるの?」

促されるまま、食卓についたあたしだけど頭の中は色んなことがグルグル回っている。
悟空が息子の悟飯くんに“父さん、女性が寝ているところに勝手に入って行ったりしちゃダメじゃないですか”なんて怒られているのも…“何でダメなんだ?”なんて悟空が聞き返しているのも…
あたしの耳には何処か遠くに聞こえた。

「ん〜…おはよぉ、お姉ちゃん」
「あ、悟天くん。おはよう」

まだ眠そうに目をこすりながら、悟天くんが起きてきた。そして、ごく自然にあたしの膝の上に座ってくる。

「どしたの?」
「ん、何となく。いいでしょ?」

…そんな上目遣いで聞かれたら、お姉さんダメなんて言える訳ないじゃない。

「うん、いいよ」
「えへへ。お父さん、何で兄ちゃんに怒られてるの?」
「さぁねぇ」

なぁんて、誤魔化しながら膝の上の悟天くんの頭を撫でてみる。悟空と同じ強いくせっ毛だけど、触ると意外と柔らかいんだなぁ…
そんなことを思いながら、悟天くんの髪の毛の感触を堪能していると美味しそうに焼かれたトーストが目の前のテーブルに置かれる。

「あ、ありがとう」

ふと顔を上げると、悟飯くんがあたしの顔を覗きこむようにしながらニッコリと笑った。

「いいえ。食べ物もそちらの世界とは随分違いますか?」
「ううん、大丈夫、そんなことないよ」

まぁ、目の前に置かれた料理の多さは到底見慣れたものとは言いがたいけど。これ…確か朝食だったよね?
ものすごい食欲を見せ付けられながら、あたしもトーストに口をつけた。

「そういや紅愛」
「ん?」
「やっぱ、夢じゃなかったろ?」

食事の合間に悟空がそんなことを言って来た。

「う、うん」

確かにあたし、ちゃんと寝たのに目が覚めても悟空たちのところにいる。
一体、どういうこと?
これは夢じゃなかったの??
だとしたら、元の世界であたしは一体どうなっているんだろう???

「紅愛?どした?」
「っ…ん、何でもない」

色々考えていたせいか、気が付いたら朝食の時間は終わっていて…悟飯くんが食後の後片付けをしているみたい。
あたしも、何か手伝わなきゃ。
そう思って、立ち上がろうとした時だった。けたたましく鳴る電話の音。悟空が悟飯くんに声をかけられ、電話に出る。
…と、ほぼ同時に。


『ちょっと孫くんっ!!!』


聞き慣れた…大きな声が受話器から聞こえてくる。すごい大きな声。
電話から離れているあたしにまで聞こえてますけど…悟空は思わず耳から腕をめいっぱい伸ばして受話器を遠ざけている。

「そんなでっけぇ声じゃなくたって、オラ聞こえっぞ」

『トランクスに聞いたわよ!!異世界の女の子って…そんな面白いことになってんのに、何で私に何の連絡もしないのよっ!!!』



『見上げれば同じ空。<9>』



…と、いう訳で。
やってきました、西の都。
やってきました、カプセルコーポレーション。

「お、おっきぃ〜…」

漫画の中で何度となく見ていたけど、いざ実物を見るとその大きさに思わず口が開いてしまう。
ほぇ〜…なんて感嘆の声を漏らしながら見上げていると突然お腹あたりにポフッと軽い衝撃を感じて…ようやく目線を下に移す。

「いらっしゃい、お姉ちゃん」
「トランクスくん!うん、お邪魔してます」

お腹あたりに抱き付いてきているトランクスくん。その姿にヤキモチ妬いたのかな?
横にいた悟天くんが少しムッとした表情になって、あたしの服の裾を掴んだ。
あたし、お子様にモテモテだなぁ…


「トランクス、ブルマいるか?」
「うん、ママなら家の中だよ」

早く早く、と促されるまま家の中に足を踏み入れる。えっと…土足、でいいんだよね?

「うわぁ…家の中も広い〜」

また、感嘆の声をあげそうになったその時。

「イラッシャイマセ」
「へ?」

あたしの腰くらいまでの高さの何かが寄ってきた。

「ママが作ったお手伝いロボットだよ」
「へ、へぇ〜」
「オ荷物ガアレバ、オ預カリイタシマス」

そう言いながら、すっとマジックハンドのような形をした手を差し出すソレ。荷物か…あたしはとりあえず着の身着のままだし。

「大丈夫、あたしはないです」
「了解イタシマシタ。デハ、コチラニゴ案内シマス」

あたしの言葉を理解して、ロボットはくるっと踵を返した。奥に案内してくれるらしい。

「すごい!あたしたちの言葉をちゃんと理解するんだぁ」
「ははっ、面白ぇだろ?」

オラも初めて見たときはびっくりしたんだ。
悟空が腰を屈めてあたしの顔のすぐ横でそう言った。やっぱり、ブルマさんはすごいなぁ…
そんなことを思いながら、先導してくれるロボットの後ろをテクテクと歩いていくあたし。
そのあたしの両手はいつの間にか小さな2つの手にしっかりと握られていて…何だか嬉しくなって、気が付くとそっと握り返していた。