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数日後。本日のポアロは久々に榎本・安室・志津馬の三人が揃い、少しゆとりのある店内となっていた。


『まだ謝ってもらってないんですけど。』
「謝る…何のことでしょう?」


コーヒーの補充をしている安室のところに目を細めながら志津馬が嫌味ったらしくそう言うと、彼はポカンとした表情で彼女を見ながら首を傾げる。


『すっとぼけないでもらえます?あなたのせいで昔の同期と鉢合わせるわ、仕事は上手くいかないわ、あげくに酔っ払いに殴られたんですよ?どうしてくれるんですか本当…』
「特に僕が謝るような部分は見当たりませんが『あるでしょーが!!いっちゃん最初のやつ!!』
「声が大きいですよ。喧嘩だと思われる。」


奥で二人が話しこんでいると、榎本がある視線に気づく。そこには部活帰りに立ち寄ったと思われる女子高生たちの姿が。


「ねぇ、あの女でしょ?最近ポアロに入ったっていう新しいバイトの…」
「絶対そう…あむぴに馴れ馴れしく話しかけんなし…」
「(…はぁっ!!ま、まずい、これは止めないと…!!)」


彼女は慌ててカウンターの内側へ入り、二人の元へ駆けていった。


『大体こっちが頼んでもないのにあんなこと…』
「ああでもしなければ君はアイツに一生会わないつもりだったんだろう。むしろ感謝してほしいぐらいだ。」
『はぁ!?だーれが感謝なんか「はいスト―ップ!!ストップですお二人さん!!」
「『え?』』
「そして志津馬さん、こっち!!」
『ちょ、何「いいからこっち!!」


榎本に腕を引かれ、されるがままに彼女はバックヤードに連れて行かれた。


『え、なっ、どうしたんです梓さん…!?』
「はぁ…やっぱり志津馬さんには、あらかじめ話しておいたほうが良かったですね。」
『やっぱりって?』


そういうと彼女は真剣な眼差しで志津馬を見つめる。


「さっき店内にJKがいたでしょ?」
『JK…あぁ、半熟ケーキ頼んでた子たちですか。』
「実はあの子たち…安室さんのファンなんです!!」
『……ファン!?』


その一言を聞いた彼女の声は思わず裏返る。


「はい。実際安室さん目当てで来店している女性の方も多いですし…」
『(アイドルかよ…)』
「だから安室さんが私や志津馬さんのような女性と至近距離で話すのは、炎上案件なんです!!」
『えんじょー、あんけん?』
「そうです!!前にそのことが原因で、うちの店のSNSアカウントもプチ炎上してしまってことがあって…」
『それは厄介ですね…』
「でしょ!?マスターに迷惑はかけられないし。自分の身は自分で守らないとじゃないですか!!だから志津馬さんにも、なるだけ注意してほしくて。」
『…分かりました。今後は気をつけます。』
「すいません、こんな変な頼み事…」
『いえいえ、梓さんが謝ることじゃないですよ。』


私としては梓さんのほうがアイドルなんだけどな…と心の中で思いながら、二人は店内へと戻った。すると、


「おぉ梓ちゃん!!待ってたよ、お冷のおかわりくれる?」
「おかわりなら安室さんだっていたじゃないですか。」
「だってあの兄ちゃんには、あの子たちが付きっきりだからな。」


男性客の言うようにいつの間にかカウンター席に移動した彼女たちは安室と楽しそうに談笑している。


「えー全然わかんなーい!!」
「あむぴヒントちょうだい!!」
「ヒントですか?そうだな…」
『(アレのどこがいいんだか。)』


君たちはその人の偽りの姿を好きになってるんだよ…と志津馬は遠い目でそちらを見ていたのだが、


「キャッ、ちょ、ちょっと…!!」
「相変わらず梓ちゃんの手はすべすべだねぇー」
『っ、』


近くでそんなやり取りが聞こえてきたのを、彼女は聞き逃さなかった。


「なぁ、今度俺と休みの日出かけない?梓ちゃんのためならどこでも連れてってあげるよ。」
「私そういうのは…「いいじゃない!!休みの日くらい楽しまないとさぁ!!」


榎本の手をガッチリとホールドしながら誘いの言葉をかけているのは、先程お冷を頼んだ男性客。言い寄られた彼女の表情は明らかに引いている。その様子に志津馬はにこやかな笑みを浮かべて二人の方へ歩み寄った。


『じゃあ私も一緒に連れてってもらおうかなぁ〜♪』
「あ?」
『遊園地とかぁ〜海とかぁ…あ。カラオケに行くのもありかも☆』
「生憎だけど、アンタのことは誘ってないよ。」
『えぇ〜残念…ってことは梓さんのこと、キャバ嬢の同伴かなんかだと思ってます?』
「なっ…!?」


鋭い目つきで話す彼女の一言で、店内が静まり返る。


『うちの店は喫茶店ですし、接客業といっても夜の店とは訳が違います。それに…明らかに彼女が嫌がってるのが分かりませんか?』
「そ、そんなことないよね梓ちゃん…?」
「っ…」
『とりあえず、その手を離してもらいますか。』
「くそっ…!!」


そう言って志津馬が二人の手を引き離すと、男性客は怒りを露わにして彼女に掴まれた手と逆の手でその胸ぐらに掴みかかろうとしていた。しかし…


「いででででっ!!」


直後手を取られて、手首を外側に捻られ激しい痛みで男はその場で崩れ落ちる。それは少し離れて座っていたJKたちの方にも見て取れた。


「やばっ」「めちゃ強じゃん…」
「くっ…客に暴力振るうのかこの店は!!」
『先に手を出そうとしてきたのはあなたの方でしょう。正当防衛です。』
「チッ、二度と来るかこんな店!!」


そう言って逃げるように店を後にしようと店のドア付近まで駆けていったが、


「あぁお客様、このままお支払いなく外に出られると”無銭飲食”という立派な犯罪となってしまいますが…それでもよろしいですか?」
「え…」
「あなたが一歩でも外に出れば、僕らは問答無用で警察に通報しますよ。」


笑顔を崩さず、しかし睨みつけるように安室が男に言い放つと、バツが悪そうに男は鞄から渋々財布を出した。


『それと。そこのあなた達?』
「うちら…?」
「え、こっちくるんだけど…」


ゆっくりとこちらへやってくる志津馬を見て、JKたちの顔はこわばっていく。


『今の時代、SNSに何を書いても自由だけど…誰かの悪口や誹謗中傷を拡散して相手側が傷つけられたと訴えれば、”名誉毀損罪”で3年以下の懲役または50万円の罰金どちらかが課せられることになる。』
「うっそ…!!」「マ?」
『たとえ匿名で投稿したって、その気になれば名前や住所だって調べれば簡単に分かるんだよ。ネットは何を言ってもいい場所じゃない。何かを発信するときは…慎重にね。』
「「は、はい…!!」」
『(これで少しは炎上もおさまるだろ…)』


そう思いながら顔をあげると、ふいにカウンター越しの安室と目が合う。


『何か?』
「…いや、別に何も。」


彼は何も言わずに自分の作業に戻った。すると榎本が彼女の方へと駆け寄ってきた。


「すごいです志津馬さん!!なんか刑事さんみたいでした!!」
『へっ!?あぁーえっとぉ…一時期そういう仕事を目指してたことがあって!!まぁ途中で挫折しちゃったんですけどねぇ…あはは。』
「なるほど。それで刑法とか知ってたんですね!!」
『そうですそうです!!』


なんとかその場をやり過ごし苦笑いを浮かべていた彼女をよそに、安室は耳にかけていたインカムでどこかに指示を出す。


「…風見か。もうすぐ志津馬が店から上がる。その時がチャンスだ。」
《了解。》


そんなこととはつゆ知らず、上がりの時間になった志津馬はポアロを出て帰路につく。


『あぁー…今日もつっかれたぁ…』


夕方。左右に首を伸ばしながらとぼとぼと歩いていると、事務所兼自宅のアパート近くで誰かが立っているのが見えてくる。


「随分お疲れみたいだな。」
『っ、』


そこにいたのは他でもない、この前会ったばかりの昔の同期。しかし彼女の中でも以前よりかは驚きが半減している。


『…またかよ。』
「本来なら電話でアポイントを取るべきところだが、急を要することで省かせてもらった。」
『律儀なアンタがアポも取らずに渡した名刺の住所に押しかけるってことは…さしずめ、ゼロさんの差し金か。』


だとすれば、さっきの彼の視線も頷ける…と彼女は頭の中で少し納得する。


「君と話したいことがある。中で話せないか。」
『…探偵としてのご依頼であれば、構いませんけど?』


そう言うと志津馬は事務所の中に風見を招き入れた。


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