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半ば強引なやり方で3階へたどり着いた志津馬のもとに様子を見ていた施設のスタッフが慌てて駆け寄ってくる。
「お客様!!危険行為はおやめくださ『緊急を要することでやむを得ず強硬手段に出たことは謝ります、でも今それどころじゃないんです!!』
必死の形相で訴える彼女を見て係員も思わず怯んだ。
『さっき女性の悲鳴が聞こえましたよね?』
「え、えぇ…刃物を持った男性が女性を人質にとって、今警察の人たちが対応を。私たちは直ちにお客様方の避難経路を確保しろと言われました。」
『それなら、お願いしたいことがあるのですが。』
「え?」
一方、コナンと高木は階段から2階について中央エリアを目指しているとその途中で佐藤と合流する。
「佐藤さん!!」
「高木くん。」
「あれ?たしか3階に向かったんじゃ…」
「そうしたかったんだけど…見てよあれ。」
彼女が指さした先にはエスカレーターの動きが止まり、乗っていた客が一斉に降りようとしてパニックになっていた。
「緊急事態だから施設のスタッフが止めたんでしょうね。」
「でもおかしいの。」
「おかしいって、何がです?」
「南側に乗り降りできるのは2箇所あるのに、緊急停止しているのは右側だけ。左側も避難する人たちで乗ってる人はほとんどいないけど。止めるとしたら普通両方止めるはずじゃない?」
「言われてみれば…」
「(そうか…そういうことか!!)」
何かを思いついたコナンは緊急停止して誰もいなくなったエスカレーターの前でしゃがみ込む。
「とにかく、僕たちも早く3階に「その必要はないよ。」
「「え?」」
「あの人が…犯人をここへ連れてくるはずだから。」
その頃、志津馬はようやく視界に刃物を持った男とそれを首元に突きつけられている女性の姿を捉えた。
「来るな!!来たらこの女ぶっ殺すって言ってんだろ!!」
「助けてぇ…」
「騒ぐんじゃねぇ!!」
「無駄な抵抗はやめて、大人しく人質を開放しなさい!!」
『(やっぱ正面突破は無理…だとしたら、プラン通り攻めるか。)』
彼女は犯人の男に気づけれぬよう慎重に事を進める。
「早く逃走車両用意しろっつってんだよ!!こいつの命が惜しくねぇのか、あぁ!?」
『人を二人も殺しといてよくそんなことが言えるねぇ〜、アンタ。』
「はっ!?」
後方、斜め右から突然聞こえてきた声に驚いた男が勢いよく振り返ると腕を組みながら歩み寄ってくる志津馬の姿が。
『渋谷区連続強盗殺人事件の指名手配犯、土舘伊佐夫(どだて いさお)。これ以上人殺したらアンタ間違いなく死刑確定だよ?』
「チッ、てめぇもサツか!!」
「オイ、あの人誰だ…?」
「ってかまず刑事じゃないよな?」
他の刑事たちが彼女を見てざわついている中、構わずに話を続ける。
『どうしても出頭したくない?』
「当たりまえだ!!ムショのまずいメシ永遠に食いながら一生涯終えるなんざ、俺には似合わねぇんだよ!!」
『今どきそのプライドの高さ持ってるやつはなかなかいないから褒めてあげるけど…仕方ない、じゃあこっから行かせてもらうよ!!』
志津馬が犯人に向かって駆けていくと、男は人質の女性を突き飛ばして盾にし後ろを振り返って走り出す。
「きゃっ!!」
『大丈夫ですか。』
突き飛ばされた女性を受け止め、男がナイフを振り回しながら刑事たちを寄せ付けずに止まっているエスカレーターの方へ向かっていったのを彼女は確認すると、ポケットから探偵バッジを取り出し…
『コナンくん!!』
そう言って合図を出した。
「…来る!!」
バッジからの声がコナンの鼓膜に届き、直後上の階からエスカレーターを駆け下りてくる男の姿を捉え彼はキック力増強シューズのギアを回す。
「佐藤さんあれ、指名手配犯の土舘です!!」
「本当に降りてきた…!!」
「そこをどけぇええガキ!!」
「誰がどくか…よっ!!」
ベルトのボタンを押すとボールが飛び出しコナンは犯人に向けてそれを思いっきり蹴り飛ばす。
「ぐあぁっ!!」
『おわっと、』
ボールは見事に男の頭へと的中し気絶して後ろに倒れそうになったところを背後から志津馬が受け止めた。
「志津馬さん!!」
『ははっ、ナイッシューコナンくん…って重重重重!!ちょ、だ、誰か!!誰か手貸してもらえますかねっ!?』
「あぁはいはい!!」
「(あれ?彼女たしか…)」
そのまま後ろに倒れ込みそうになるところを高木が手伝いようやく土舘は逮捕・連行されたが、佐藤は志津馬の顔を見て自分の記憶を辿っていた。
「ふぅ…これで無事犯人を逮捕できたし、なんとか一件落着ですね。しかし志津馬さん、でしたっけ?」
『え?あ、はい。』
「よく犯人が指名手配犯の男だって分かりましたね。もしかしてあなたが我々に匿名で情報を?」
『いえ、私は「そんなの本庁にいる人間なら手配書なんて毎日のように見慣れてるんだから、犯人の顔を覚えてるなんて当然でしょ。」
高木の質問に答えようとしていた志津馬の言葉を佐藤の声が遮る。驚く彼らをよそに佐藤は腰に手を当てて睨みつけながら彼女の方へジリジリと歩み寄っていく。
『ちょ、え…?』
「大体さっきのエスカレーターのやつは何?厳重注意だけで済んだから良かったものの…あなたの立場上、目立った行動は避けるべきなんじゃないの?」
「あのー佐藤さん?さっきから一体何の話を…」
「それに第一、公安がわざわざ一課のヤマに出張る理由がどこにあるのかしら。」
「こ、公安…!?」
「思い出したのよ。以前一課が公安との合同捜査を行った時、あのいけ好かないツンツン頭のメガネ野郎の隣にあなたがいたことを!!」
『(いけ好かないツンツン頭のメガネ野郎って、たぶんアイツしかいないよなぁ…)』
何となく志津馬がぼんやり風見のことを考えている間も、佐藤は話を続けた。
「テロでもないのに割り込んでくるなんて、そこまでして手柄がほしいわけ!?「まぁまぁ佐藤さん落ち着いて!!」
「この人、もう公安の人じゃないよ。」
「「え?」」
コナンがそう口添えすると、二人は驚いて動きが止まる。
「公安じゃないとなると、別の部署に異動なされたんですか?」
『あぁいえ…警察自体を辞めたんです。今は米花町で探偵を。』
「警察を辞めた…!?」
「それはまた、どうして…」
『…刑事が警察を辞める理由なんて、星の数多ほどあるでしょ?』
力なく笑う彼女を見て高木は少し戸惑ったが、佐藤はその言葉に何かを察して同じように笑みを浮かべた。
「……それもそうね。行きましょう、高木くん。」
「え?あ、はい…」
「あぁそれと…」
佐藤は思い出したように志津馬の方を振り返り、早歩きで彼女のに歩み寄る。
「今後公共の場でああいった危険行為はしないこと!!子供が真似したら危ないでしょ!?」
『しょ、承知しました…』
「分かれば良いんです。では、私たちはこれで。」
そう言い残して彼女は再び高木とともに外へと続く出入り口の方へと向かっていく。
「良かったんですか佐藤さん。」
「何が?」
「あの人が警察辞めた理由、本当は気になってたんじゃ…」
「私たちにだってあるでしょ?人には知られたくない過去の一つや二つ…聞くだけ野暮ってことよ。」
「確かに、それもそうですね……で、何なんです?佐藤さんの知られたくないことって。」
「教えなーい。」
「えぇ…」
二人がそんなやり取りをしてる最中、志津馬が身につけていたネックレスに手を添えているのを見たコナンが口を開く。
「志津馬さん、そのネックレスいつも付けてるよね。」
『あぁこれ?まぁお守り代わりってとこかな。』
「もしかして彼氏からのプレゼントだったりして。」
『はぁ?なんでそうなる。』
「違うの?」
『これは私が、ある人にあげるために買ったものなの。でも結局…自分に戻ってきちゃったけどね。』
「え、それって…」
寂しそうに笑いながら下を向く彼女の姿にコナンは少し違和感を覚えた。すると…
「いました、あそこです!!」
「オーイ!!コナ―ン!!」
「海音お姉さぁーん!!」
途中から別行動だった子どもたちが遠くからこちらへ駆け寄ってくる。
「二人ともどこ行ってたんだよぉ!!」
「歩美たち、すっごい探したんだから!!」
『ごめんごめん。それでどうだった?仮面ヤイバーのショーは。』
「どうもこうも、中止ですよ中止!!」
『え?』
「何でもこの施設で事件が起きたみたいで…すぐに避難してくださいって言われてしまったので。」
『あぁ…』「あぁ…」
罰が悪そうな顔で志津馬とコナンが顔を見合わせていると、それを見た灰原は何かを察したようだった。
「どうやらあなた達の方は、そのメインイベントに参加してたみたいね。」
「ま、まぁ…また見られるチャンスはあるだろうし、な!!」
「それが来週、振替公演をここでまたやってくれるそうなんです!!」
『そうなの?』
「さっきアナウンスが流れてたの!!」
「これってもう一回チャンスがあるってことだよな!?」
『よかったじゃない皆!!私も仕事休んで来ちゃおっかなーどんなもんか一回見てみたいんだよね♪』
「えぇー!?それはダメですよ!!」
『え。』
「お仕事にはちゃんと行かないと!!」
「ダメ人間になっちまうぞ!!」
『えぇ…そんな辛辣なこと言わなくてもよくない…?』
子どもたちから手厳しい言葉をもらい唖然としている彼女を横目に灰原はコナンの方に歩み寄る。
「ねぇ。今ネットニュースを見てたら速報でこんな記事が上がってきたんだけど、もしかしてこれって彼女のことかしら。」
「え?……お、オイこれ…!?」
「顔にモザイクがかかってるけど、服装は同じ。これじゃあまるでサルね。」
灰原から見せられたスマホの画面にはネットニュースの記事と見られる動画の中に志津馬らしき人物が同施設のエスカレーターを駆け上がっていく様子が映し出されていた。
「(俺が見てない間にこんなことしてたのかよあの人…そういやたしか、前に安室さんが言ってたな…)」
そうしてコナンは安室が言っていた言葉を思い出す。
―彼女は公安の中でもずば抜けて運動神経が良かったから、近接戦闘要員だったんだ。周囲からは"公安の切り込み隊長"とか"公安のメスザル"なんて呼ばれ方をしていたよ。―
「ハハハ、こりゃあ確かにサルだわな…」
呆れ顔をしつつも先程の的確な指示と言い、志津馬がより侮れない人物だとコナンは確信を深めていた。