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彼らがショッピングモールでの事件を解決した同じ頃、喫茶ポアロのカウンターの片隅でテーブルに両肘をつき眼鏡の男性が眉間に皺を寄せながらチラチラと周りを見渡し一人佇んでいる。カウンター越しにその様子を見ていた安室はお冷用のピッチャーを持ってそちらへと向かった。


「お客様。お冷のおかわりはいかがですか?」
「あ、あぁ…じゃあ…もらいます。すいません…」


彼は申し訳無さそうに言うと自身のグラスを渡すと、安室は呆れたように目を細めながら水を流し入れていく。


「彼女なら来ないぞ。」
「えっ、」
「今日は一日非番で、確かコナン君たちと杯戸町にあるショッピングモールに行くとか言っていたはずだ。」
「えぇ!?な、なんでそれを先に言ってくれないんですかぁー!!」


予想以上の音量で声を上げる彼に周りの客もギョッとしてそちらを見るが、咄嗟に機転を利かした安室が失礼しました。と笑顔で対応したことで事なきを得た。落ち着いたところで私服姿の風見は耳打ちで彼に呟く。


「ひ、ひどいですよ降谷さん!!かれこれ自分が一時間近くずっとここにいるの知ってて…!!」
「初めは僕も君が普通に客として来たと思っていたが、仕事をやめてこれといった接点がなくなってしまった彼女の様子を見にくるのにこの店はうってつけだろうし…まぁ生憎上司しかいなくて申し訳ないが。」
「いえ、そんなことは「ねぇーねぇーあむぴ見てみてー!!」


彼の言葉を遮るように店に入ってきた女子高校生たちが安室に声をかけながらカウンターに押し寄せる。


「どうかしたんですか?」
「さっき杯戸町のショッピングモールで事件があったらしいんだけど、その様子が映った動画がSNSでバズってたの!!」
「マジヤバくないこれ!?」


差し出されたスマホを手に取り画面に映っている動画を再生する。するとそこには、人混みの中からエスカレーターの手すり部分を颯爽と駆け上がっていく人物の姿が。


「っ!!これは「ちょっと見せてくれ!!」


風見は思わずスマホを奪い取るとその動画を食い入るように眺める。あまりに速い動きのため顔はハッキリとは見えていないが、その動きに二人は見覚えがあった。


「それで犯人は逮捕されたんですか?」
「ここに映ってる女の人と、ちっちゃい眼鏡の子が犯人やっつけたんだって。」
「ちょっとおじさん!!返してよアタシのスマホ!!」
「あ、あぁすまない…」


我に返った彼がスマホを返すと女子高生たちは梓に席を案内され離れたテーブル席へと座る。


「まったく…"なるべく目立つことはしたくない"と言っていたわりには、こうも悪目立ちしていたら意味がないだろう。彼女が辞めていなければ今ごろ説教案件だな。」


動画に映っているのがすぐさま志津馬だと分かると安室は降谷の顔つきでため息をついたが、対して風見は黙ったままだった。そして先程のSNSの見出しに書かれていた文章を思い出す。


《謎の救世主!?杯戸町にスーパーウーマン現る!!》
「(志津馬くん…)」
「風見。」
「…へっ?」
「どうしたんだ。」
「い、いえ何も!!」


呼びかけに咄嗟に応答したが、彼の脳裏には彼女に対するある考えが浮かんでいた。


「そろそろ自分も帰ります。長居してすいませんでした。」
「あ、あぁ…」


そそくさと立ち上がると風見は会計を済ませて店の外へと出る。おもむろに窓ガラスに貼られた貼り紙に目をやった。


「(デリバリー始めました…か。)」


そしてその翌日。いつも通りに志津馬がポアロに出勤してくる。


『おはようございまーす。』
「おぉ来た来た!!」
「アンタだろ!?昨日杯戸ショッピングモールで犯人捕まえたってのは!!」
「ヒーローみたいでかっこよかった!!」
「ねーねーサインちょーだい!!」
『あ、え?』


彼女が顔を出した途端、常連の刑事や他の客たちが近くで見ようとカウンターの方に詰め寄ってきた。


「ちょ、ちょっとすいません!!」


榎本が志津馬の背中を押して一度バックヤードへと戻らせる。


「皆さん、昨日のネットニュースとかSNSで志津馬さんのこと知って駆けつけたみたいで…」
『あぁ…』
「そのおかげでこうしてポアロは大繁盛…もとい大混乱を招いているわけですよ。」
『あぁ…』


苦笑いを浮かべる榎本の後ろで黒い笑みを浮かべている安室の様子を見て、志津馬はあれ怒ってるなぁ…と察し顔をひきつらせる。


「そういうわけでマスターが今日一日デリバリーの方をお願いしたいそうです。たしか志津馬さんも原付の免許持ってるんですよね?」
『えぇ。』
「もうすぐお昼時ですし、デリバリーでの注文も多くなります。デリバリー用の注文分はすでに冷蔵庫の方にストックを入れてあるので注文されてたお客様の住所へ品物を届けてください。優先順位は上からでお願いします。」
『わ、分かりました…』
「じゃあ初デリバリー、がんばってくださいね!!」
『はい。行ってきます!!』


安室からお客の名前と住所が書かれたメモを渡され、言われたとおりデリバリーの準備に取りかかる。


『よし、これで全部かな…』


店の裏口で注文の品物と内容に間違いがないか再確認しポアロと書かれた原付の荷台に詰めていく。すると、


「随分とまた派手に暴れたものだな。」


原付のヘルメットを手に持ちながら安室が彼女に近づいてきた。


『こんな時までお説教ですか?生憎受け付けてませんが。』
「昨日の君の話を知った時、風見も僕と一緒にいた。」
『っ、』
「特に感想は言っていなかったが、何やら考え込んでいたようだったよ。アイツは今の君を見て、どう感じたんだろうな。」
『…さぁ、私が知ったこっちゃないですよ。』


視線をそらしながら彼の手からヘルメットを奪い取り、それを頭にかぶって原付に跨がるとエンジンをかける。


「随時注文が入るだろうから、ストックがなくなり次第必ず店へ戻ってくること。」
『分かってます。』
「くれぐれも安全運転で。」
『教官かよ…行ってきます。』


彼女はそう言い残し、アクセルを踏んでその場を去っていった。その様子を見送り再び中へと戻るとふいに店内の固定電話が鳴り安室がその電話に出る。


「はい。喫茶ポアロです。」
《デリバリーの注文を頼みたいのですが。》
「(この声は…)」


受話器越しに聞こえた聞き覚えのある声に彼は何かを察した。それから数時間が経った頃…


「ありがとうね。」
『こちらこそありがとうございました。またのご利用お待ちしております!!』


順調に最後の客のもとへと品物を届け終え、志津馬は一旦ポアロへ帰って来る。するうと裏口の直ぐ側の台に紙袋で包まれた品物と、その下に小さなメモが挟まれていた。


《追加の注文が入りました。これで最後です。》
『えっと名前は……”K”?なんでこれだけ?っていうかこの住所、見覚えあるような…』


荷物を持って彼女はまた裏口から外へと出る。店用のスマホで住所を入力し検索をかけると…


『…やっぱり、警視庁!!』


どうりで見覚えがあるわけだ。だとすればこれを注文したのは現役の刑事ってこと?まぁありえない話ではないが…といろいろと考えつつもとりあえず向かってみることに。一方その頃、警視庁では…


「あれ、風見さん。今からお昼っすか?」
「あぁ。少し遅めだけどな。」


風見は本庁の裏口から外へ出ると、その入り口付近で手首につけた腕時計に目をやる。


「(勢いでポアロのデリバリーを頼んでしまったが、本当に彼女は来てくれるだろうか…いやしかし降谷さんも原付に乗れるわけだから可能性としては二分の一!!もし、もし彼女が来てくれたら…)」


すると背後からバイクの音が近づいてくるのを察知し彼は勢いよく振り返った。


『…え、風見?』
「志津馬、くん…」


ヘルメットを外し不思議そうな顔でこちらを見つめる彼女に対し、風見は喜びで思わず顔が緩みそうになる。


『届け先が警視庁だったから誰だろうとは思ってたけど、まさかアンタだったとはねぇ…あぁ、だから”K”なのか。』
「ポアロにデリバリーサービスがあることを知って、一度利用してみたいと思ってたんだ。」
『それは本心から?』
「もちろんだとも。」
『ふぅん…まぁあの人の指示じゃないならいいけど。』


そう言うと志津馬は荷台から品物を取り出し彼に手渡す。


「代金はカードで。」
『OK、ちょっと待って。』


腰につけた装置を取り出すと、風見は持っていたカードを装置に差し込んだ。


『…はい、確かに。それじゃあ「志津馬くん。少し話をしたいんだが、時間あるか?」
『話…?』


彼女は一瞬戸惑ったが、どの道今日は店に戻らない方がいいことは分かっているため少し帰りが遅くなってもお咎めないだろうと踏んでその提案を承諾する。


「コーヒーで良かったか。」
『ん。ありがとう。』


本庁近くの公園のベンチに座り、風見は自販機で買ってきたコーヒーの一つを志津馬に手渡した。


「『……』」


しばらく沈黙が続き、気まずい雰囲気が流れる。話があると言い出したのは彼の方なのに何やら一向に口を開く気配がないことに彼女は疑問に思っていた。


『…で、話って何?』
「昨日ネットニュースで君が映っている動画を見た。」
『あぁ…その話ね。』
「あれを見て思ったんだ。俺は…今の君対して、何か思い違いをしてたんじゃないかって。」
『思い違い?』


その言葉に志津馬は首を傾げるが、風見は前を向いたまま言葉を続ける。


「あの事件のショックとともに、自身が掲げていた正義や警察官としてのあり方に絶望して諦めてしまったから警察を辞めたんだと思っていた。だが…警察官を辞めても、君は君だったんだな。いつかたくさんの人を守れるようになりたい。あの頃の信念が今もずっと、君の中にあるんだと分かった気がして…素直に嬉しかったんだ。」
『風見…』
「変わってなくて、良かった。」
『っ…!!』


柔らかく微笑む彼の表情に彼女の胸はぎゅっと締め付けられほんのりと頬が赤らんだ。


『ま、まぁ!!人はそんな簡単に変わらないって言いますしっ!?公安じゃなくなった分のびのび出来るからね。』
「けどあまり無茶な行動するな。あんな危険なこと大怪我になり得たかもしれないだろ。」
『自分の力量くらい自分が一番分かってますぅー』
「どうだかな…」
『大体アンタのその減らず口だってちっとも変わってないじゃん!!』
「君が言えた義理じゃないだろ。」
『何をー!?』
「…ふっ」『…ぷふっ!!』


顔を突き合わせて互いに睨みをきかせたかと思えば、同時に吹き出すように笑い出す。


『本当、成長しないねーうちら…』
「まったくだ。」


そう言うと二人して手に持ったコーヒーを一口飲んだ。


『…ん、そういやあいつらは元気?』
「あいつら?」
『部下の奴ら。』
「あぁ……まぁ休憩時間にAVを見るくらいの元気はありあまってるだろうな。」
『ふはっ!!そいつは元気でいいこった。』


こうしてゆるくケタケタと笑いながら和やかな時間は過ぎていき、あたりは少しずつ薄暗い空に。


『やっば、さすがに長居しすぎたかも…』
「足止めしてすまなかった。俺のせいにしてくれて構わない。」
『そう?なら遠慮なくそうさせてもらうとするかな。じゃあね。』
「……志津馬くん!!」


ヘルメットをかぶろうとする彼女を風見は声を上げて止める。


『どした?』
「んんっ!!そ、その…今はもう同僚でもなんでもない赤の他人かもしれないが…今後はと、友達として、またこんな風にその…話をしたり、できない…だろうか。」
『っ、』


しどろもどろに口ごもる彼の言葉に思わず目を見開くと、それが拒否反応だと思い風見は慌てて言葉を発した。


「いや、決して無理にとは言わない!!…忘れてくれ。」
『そうねぇ…バイトも探偵業も意外と忙しいし。』
「だよな…」
『…まぁ暇な時だったら、アンタの愚痴の捌け口くらいにはなってあげてもいいけど。』
「っ!!」
『暇だったらよ?ふふっ、じゃあまたね。風見。』
「あ、あぁ!!」


そう言って帰っていく彼女の背中を見送り、彼は喜びのあまり口を開けたまましばらくそこに立ち尽くす。一方の彼女も清々しい風を受けながら口元を緩ませていた。

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