05

『阿笠さん。』
「ん、なんじゃ?」
『さっきの女の子…灰原さんでしたっけ。彼女もこの家で暮らしているんですか?』


彼女がそう聞く理由は、リビングから研究室へ向かう直前に彼女が彼に対して"私のものには決して触れさせなように"と念押ししていたからだ。


「あぁ。彼女はワシの親戚の子でのう。両親が共働きで忙しいらしく、しばらくうちで預かることになっとるんじゃ。」
『そうでしたか。』
「ちなみに君の隣にいるコナンくんも、ワシの遠い親戚の子で今は別の家に世話になっとるんじゃよ。」
『なるほど。で、そんな君がなんでここにいるのかな?』
「えへへぇ…」


なぜだか一緒についてきたコナンに訝しげな視線を向けると彼はバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。


『みんな宿題頑張って終わらせてるのに、君はいいの?』
「ぼ、ボクそういうの後でまとめてやるタイプだから!!」
『へぇ…ま、言われてみれば私もそっちのタイプの人間だったから、強くは言えないか。』
「(まぁ博士一人で説明させるとどっかでボロが出ちまいそうだからついてきただけなんだけどな…)」
「ついたぞい。ここがワシの研究室じゃ。」
『うわぁ…!!』


そんな彼の思惑もつゆ知らず、研究室へたどり着くと数々の発明品に志津馬は目を輝かせる。


『阿笠さん、この四角いのは?』
「ノート型電子マップと言って、一見普通のノートに見えるじゃろ?じゃがこれを開くと電子地図になって周辺の地図が分かるんじゃよ。」
『へぇ…あ、このベルト!!これってこの前君が付けてたやつ?』
「うん。」
「それはどこでもボール射出ベルトと言って、上のボタンを押すとボールが飛び出てくるしかけじゃ。さらにこっちのキック力増強シューズと合わせれば、驚異的な威力で不審者や犯人を卒倒させることができるんじゃぞ!!」
『子供のために不審者撃退グッズってわけか…コナンくんも不審者に狙われやすいの?』
「ま、まぁそうかも…あはは…」
『米花町は犯罪都市って言われるくらいだもんね。あれ、このやたらデカいやつは?』
「あぁそれは自動ハムエッグ作り機と言って、その名の通り自動でハムエッグが作れるものなんじゃが、結構不具合が多くて無料で配っとった近所の人たちから苦情が来てしまってのう…結局突っ返されてしまったわい。」
『…もしかして、それも今回の原因のうちに入ってるんじゃないですか?』
「えぇっ!?」
「(だろうな…)」


今回の元凶が分かったところで、研究室の探索を終わろうとしていると…


『あぁ、これもさっきの腕時計ですよね?へぇーここの蓋開くんだ…』
「い、いかん!!それは!!」
「え?オイ博士まさか…!!」


突如慌てて彼女の元へ駆けだす博士を見てコナンも焦りの表情を浮かべる。


『へ?違うんですか?』
「ああいやぁそのぉ…それは、わ、ワシの自前の腕時計でのう!!随分お高かったもんだから、あまり触らないでほしいんじゃよ…」
『あ、そうだったんですね。すいませんベタベタと。』
「結構なお気に入りなんじゃ、ほっほっほ!!」
「(あっぶねぇー…麻酔銃そのままほっぽっとくなよ博士…)」


ほら言わんこっちゃない…とコナンが呆れた顔を見せるなか、これで阿笠への調査が終わった。そうこうしている間に時刻は夕方になり、彼女は遊びに来ていた子どもたちと一緒に帰ることに。


「楽しかったねーお菓子パーティー!!」
「志津馬さんが持ってきてくれた大きなマドレーヌも、とっても美味しかったです!!」
『あれは依頼人の人からもらったものだから…』
「でもよかったの?あれって志津馬さんの分だったんでしょ?」
『平気だよ。事務所に同じのがもう一箱あるから。』
「え、もう一箱あるのかっ…!?」
『そんなキラキラした目で見てもあげないよ、元太くん。』
「ちぇー、ケチだなぁ…」
『(あんたさっきバクバク食ってたでしょーが…)』


彼女が事務所から彼らのために持ってきたお菓子は、以前不倫調査を頼まれた唐谷夫妻があの後話し合った際和解が成立したため、そのお詫びの品としてもらっていたものだった。


「それで、結局博士の疑いはどうなったんですか?」
『あーそれなんだけど…君たちのおかげで、たぶん解決できそうだよ。』
「本当!?」


恐らく近隣住民から博士の信頼度が落ちた原因は、さっき見た自動ハムエッグ作り機のせい。だとすると信頼回復にはよりシンプルかつ活用しやすいもののほうがいいのではないかと志津馬は考えた。


『阿笠さん、ライト付き腕時計の量産は可能ですか。』
「え?まぁあれならそこまでコストはかからんと思うが…一体どうするのかね?」
『あれは停電や地震が起きたときなど緊急災害時にも使える代物ですし、コンパクトかつ用途もシンプルなら使い勝手もいいはず。これを近所の人に配って、博士の思いも伝えれば誠意が伝わるんじゃないでしょうか。』
「で、でも…それで本当に納得してくれるかのう…」
『心配であれば、私も一緒に同行しますから。』


彼女は彼の発明品の数々を実際に自分の目で見て、そこに悪意が入っているものはないと感じ取る。そして後日彼とともに近所に説明する約束を交わしていた。


「あ。探偵と言えば、志津馬さんは毛利さんにもう会いましたか?」
『毛利さん?』
「ンだよ知らねぇーのかよ!!」
「"眠りの小五郎"って呼ばれてるんだよー!!」
『眠りの小五郎…って、あの毛利小五郎!?』


その名前に聞き覚えはあった。というのも彼女が警察官時代、同僚が彼を逮捕していたことを知っているからだ。彼女は別件で動いていたので直接関わっていたわけではないが、その名前を聞くとなぜだか気の毒に感じてしまう…そんな複雑な面持ちをしている志津馬を、コナンはじっと見つめていた。


「おじさんのこと…知ってはいるんだね?」
『え…あぁ、あの人有名人だし!!ネットニュースで見たの。なんでも数々の難事件を寝ている間にパパパ!!っと解決しちゃうんでしょ?すごいよねぇー探偵としてのそんな素質、私にも少し分けてほしいくらいだわ。あはは!!』
「それなら弟子入りしてみたらどうですか?安室さんみたいに!!」
『…安室さんって?』
「安室さんのことも知らないんだ。」
『ごめん、本当に最近ここに来たばっかだからさ。』
「(安室さんの存在を知らないとなると、公安の人間である可能性は薄い…?)」


小五郎の名前が出た途端の彼女の反応を見て彼は一瞬彼女が公安警察出身なのではないかと疑ったが、安室を知らないと聞くとその疑いも少し薄れる。


『弟子入りってことは、その人も探偵ってことなのかな。』
「うん!!茶色い肌に金髪で、外人さんみたいにかっこいいの!!」
「その上頭脳明晰、運動神経もバツグンなんです!!」
「あと安室の兄ちゃんといえば、やっぱハムサンドだよな!!」
「もぉー元太くんはすぐ食べ物の話出すんだからぁ!!」
「いやだって、間違いではねぇーだろ!?」
『(茶色い肌に金髪、頭脳明晰で運動神経もいい…似てる人は知ってるけど、そんなはずないしねぇ…)』


既視感を感じる人物に心当たりはあったが、あまり考えたくなかったので脳裏からその人物の顔を消し去った。


「毛利さんの事務所の"喫茶ポアロ"ってお店でバイトしてますよ。」
『そうなんだ。じゃあ今度毛利さんのとこに挨拶に行けばその流れで会えるかもしれないってことね?』
「海音お姉さん、場所分かる?」
『大丈夫。さっき阿笠さんからもらった、このノート型電子マップを使えば「ンなの見なくたってコナンに連れてってもらえばいーじゃんか。」
『え?』
「コナンくんは毛利さんたちと一緒に住んでるんですよ?」
『そうなの!?なんだ、それを早く言いなさいよ…』
「ごめんなさぁい…」


ということで、こちらも後日コナンの案内で毛利探偵事務所へ挨拶に行くことが決まった。


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